第15話

泣いて騒ぐフィーネを落ち着かせて屋敷の中に戻る。中に戻れば彼女も仕事モードに切り替わった。さっきの騒ぎっぷりが演技だったのではないかってくらいの落ち着いている。

多分あっちが素なのでしょうけど。


「あ、リーゼ」

「お兄様、帰られていたのですね」

「さっきね。リーゼは?」

「先程までガゼボでベルン…様とお茶をしていました」

「そう…」


会話が終わり気不味い空気が流れる。

アードリアンを避けていた私が悪いのだ。

どうしたら昔みたいに戻れるのでしょうか。


「お帰りなさいませ、お兄様」


考えたところで分からなくなって形から入ろうと笑顔で挨拶をする。

ちゃんと笑って出迎えたのは久しぶりの事だった。


「リーゼが…笑顔で出迎えてくれた」

「あの、お兄様…」


どう言いましょう。

憑き物が落ちたので自然に笑えましたがこれで良かったのでしょうか。


「リーゼ、反抗期は終わったのかい?」

「は、反抗期…?」

「今までの態度は反抗期だったのだろう?」


反抗期って…。

確かに私くらいの年頃の女子は反抗期になったりしますけど。そういえば私が前世を思い出した時もアードリアンは反抗期と言って喜んでいた気がする。

じゃあ、それで良いのでしょうか。


「はい、終わりました」

「そうか。良かったよ」


久しぶりに頭を撫でられた気がする。

嬉しいです。

アードリアンも嬉しそうに笑ってくれた。


「リーゼが何に悩んでいたのか僕には分からないけど、お兄様はいつでも力になるからね」


アードリアンも私が悩んでいた事に気がついていたのだ。

出来るだけ明るく普段通りに振る舞っていたつもりでもバレてしまってましたね。

ベルンハルトにも、フィーネにも、アードリアンにも…。


「私、役者の才能はないですね」

「そうだね。リーゼは役者には向いてない」

「いつからですか?」

「三年前にあった王妃主催のお茶会の後から様子がおかしいとは思ってたよ」


私が思い悩み始めた頃じゃないですか。

アードリアンには最初からバレていたのですね。後ろに居たフィーネを見れば苦笑い。どうやら彼女も気がついていたようです。

本当に役者の才能がないですね。


「分かりやすかったですか?」

「いや、そんな事はないよ。ただ僕はリーゼが大好きだから分かったんだよ」

「心配させてしまい申し訳ありません」

「僕はリーゼの兄だよ?心配するのは当たり前」


アードリアンまでフィーネみたいな事を言うのですね。

私は周囲に恵まれ過ぎています。


「フィーネにも言われました」

「そうなの?」

「私の方が早かったですね」

「悔しいな。僕の方が早く言いたかった」


何故か喧嘩腰になっている二人。

ど、どうしましょう。


「あの、どちらの言葉も同じくらい嬉しいですからね」


二人はにっこりと笑います。


「知ってるよ」

「知ってます」


どうやら私を揶揄う為の喧嘩だったらしい。

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