第10話

「そろそろ話を戻そうか」


にっこりと笑うベルンハルトに首を傾げる。


「何の話?」

「リーゼの破滅回避の話だよ」


思わず「あぁ…」とやる気のない声が漏れた。

ベルンハルトは苦笑いをしてみせる。


「あからさまにどうでも良さそうだね」

「ベルンさ…いえ、ベルンの口から主人公の事を聞くのが嫌なだけよ」

 

何が悲しくて恋人と他の女性の話をしないといけないのでしょうか。いや、私が不安になってた事を吐露したせいですけど。


「僕だって顔も知らない奴なんてどうでも良いと思ってるよ」

「そうなの?」

「僕はリーゼが傷付けられたり、悲しむのが嫌なんだよ。そうじゃなかったらこんな話しない」


それは恥ずかしいですね。

いや、嬉しさの方が勝っているんですけど。

どうして恥ずかしい事を真剣な顔で言えるのでしょうか。


「それでリーゼを破滅に導かない為に僕はどうすれば良い?」

「主人公に関わらないのが一番良いのだけど」


おそらくそれは無理な話だ。

私の言葉にベルンハルトはきょとんとした表情になる。


「簡単じゃないか?」

「主人公は攻略対象者のお気に入り場所を知っているの。もしも私と同じ前世持ちでゲームの知識を持っている人なら積極的に関わる為に会いに来るわ」

「それは怖くないか…」


ゲームをやっている時は感じなかったが確かに現実的に考えると怖い話である。しかし怖いと感じさせないのがゲームなのだ。

創作物であって現実ではないですからね。


「ちなみにゲームの僕がお気に入りの場所は…」

「確か校舎から少し離れたところにある昔使われていたガゼボね。人が来ないから落ち着くと言っていたわ」

「リーゼがゲームの展開を恐れていたのが分かった気がする」

「気に入りそう?」

「うん…」


やっぱりゲームとは切り離せない世界かもしれないですね。でも、似た世界ってだけです。別世界だと思っていますから。


「じゃあ、そこには行かない」

「お気に入りになるなら別に行っても…」


彼の行動を制限したいわけではない。

強い束縛をする重い女になりたくないのだ。既に手遅れだと思うけど少しでも余裕があると思わせたい。


「行くならリーゼを連れて行く」

「人に見られたら変な勘違いをされるわ」

「変じゃないだろ。恋人なのだから二人きりになりたいと思うのが普通だ」


そういう話じゃないと思う。

いくら恋人で婚約者であったとしても婚前交渉とか疑われたらベルンハルトの名前に傷が付くのだ。それは望まない。


「行くならお兄様やディルク様、リアス様、フィーネも連れて行きましょう」

「それだと二人きりになれない。僕はリーゼと二人が良いんだ」


恥ずかしい事を言わないでください。


「不貞を疑われてベルンの名前に傷を付けたくないの。私だけが傷付くなら良い…」

「それ以上は怒るよ」

「ベルン?」

「リーゼが僕の事を考えてくれてるように、僕だってリーゼの事を考えてる。だから、自分は傷付いても良いと言うのは許さない」


悲しそうな表情をするベルンハルトに胸がちくりと痛む。

傷付けるつもりはなかったのだけど…。

確かにベルンハルトが自分は傷付いても良いと思っていたら嫌だし悲しくなる。


「もう言わないわ」

「僕の言いたい事を分かってくれたみたいで安心したよ」

「考えれば分かったのに…。ごめんなさい」

「いや、僕が考えなしの発言が悪かったんだ」


こうやって悪いと思ったらちゃんと謝り合える関係は良いですよね。王族を謝らせちゃいけないって話ですけど、今更過ぎますし。


「言っておくけど私だって二人きりになりたい時はあるからね?」

「もう不貞を疑われても良いかもしれない…」


アホみたいなこと言わないで欲しい。

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