幕間4※エリーアス視点
僕の名前はエリーアス・フォン・シュタルカー。
この名を名乗れるのも後少しだと思う。
僕の人生は実母が亡くなった後に来た義母によって大きく変えられてしまった。
義母は僕のことを嫌っていた。だからいつも邪魔者扱いを受けた。
ただ嫌がらせを受けるだけなら我慢出来ていたのに、あの女は自分が産んだ息子を家の跡取りにしたくて僕を消そうとした。
殺すわけでもなく闇オークションで売る準備を進めていたのだ。
それに気がついた僕は逃げようとした。でも、出来なかった。
あの女が手引きしたのであろう男達に僕は捕まり拐われたんだ。
つまりはあの女に捨てられたというわけ。
「最悪だ…」
気が付いたら真っ暗な部屋に閉じ込められていた。
あんな女がいる家に居るくらいなら誰かに買われた方が良いのかもしれない。
そんな風に思い始めていた頃、急に扉が開いた。
適当に放り込まれたのは僕と変わらない年齢の可愛らしい女の子だった。
また扉が閉められて暗くなる。
連れて来られた女の子はなかなか目を覚さなかった。
「大丈夫…?」
声をかけてみるが反応はない。
女の子に勝手に触れるのは無礼だと思ったが、生きているのかだけは確かめたかった。
手に触れると温かくて、訳も分からず泣きそうになる。
「ん…」
ようやく女の子が目を覚ました。
良かった。
「さて、あの人たちの目的が分からないと帰れませんね」
僕に気が付いてない?
後あの人たちって言うのはさっきの奴らか?
彼女は奴らの目的を探っている?
それなら知っているよ、と声をかけたかったがどう話しかけたら良いのか分からず無言で見つめる。
「おそらく人身売買をしている人達だろうけど…」
ここしかない、と呟かれた言葉に反応する。
「その答えじゃ半分くらいだよ」
ビックリしたのは分かったが、暗くて表情は伺えなかった。
「大丈夫?ずっと眠っていたみたいだけど…」
「薬で眠ってたみたいです」
誰かとまともに会話をしたのは久しぶりかもしれない。
小さな女の子を拐うことに薬品を嗅がせるとは本当に屑の集まりなんだな。
「そっか。あぁ、大丈夫。あいつらは君に変なことしたりしてなかったよ。大事な商品になるから」
安心させたかったのと先程の言葉のヒントをあげる。ちょっとだけ驚いた後、すぐに考え込んでしまう名前も知らない女の子。
「子供を拐っているのは闇オークションで売るためですか?」
「正解」
頭の良い子なのだろうと笑ってしまう。
平民服を着ているが気品は隠せていない。明らかに良家のご令嬢だ。全く運がない。
「貴方は何故その事を知っているのですか?」
「内緒」
不思議そうに聞かれたけど、自分の家に勝手に入り込んできた女が関わっていることを伏せたくて誤魔化した。
「ところで君は誘拐されたの?ついてないね?」
彼女との会話が楽しくて、つい笑っていってしまった。
これだと誘拐されたことを、ついてないことを喜んでいるみたいだ。
謝らないと…。と思ったが彼女の発言で固まった。
「残念ながら誘拐されたわけじゃないですよ」
どういうことだ。でも、この子はあの男たちに連れて来られていた。
もしかしたら…。
「じゃあ、君も捨てられたの?」
自分と同じかと思って「も」と付けてしまった。一瞬だけこちらを向いた瞳から逃げるように目を逸らす。
「自分の意思でここに来ました。わざと誘拐されたんですよ」
「は?」
返された言葉の意味がよく分からなかった。
なぜ、そんな真似を…。というか、やっぱり誘拐されてるじゃないか。
「私を拐った人達の言動が気になったので、どのような目的があるのかと思って」
「調べるためにわざと誘拐されたの?」
「私が拐われなければ他の人が被害者になるじゃないですか。未然に防げるなら防ぎますよ」
馬鹿でしょ、思わず呟いてしまった。
普通の子供だったらそんなことは考えない。
拐われたのが自分だったら最悪、自分じゃなかったら完全に他人事だ。
他の子が被害に遭うのを防ぐためだけに自ら誘拐されるなんておかしすぎる。
「なんとでも」
しれっと返された。
まるで、そうしたのが当たり前かのように。
彼女が気になる。誰なのだろう。名前は…?
「……ねぇ、君、名前は?」
「人に名前を聞くなら自分の名前を名乗ってください」
それもそうだ。普通に考えたら顔もよく見えない相手に名前を聞かれて名乗る人はいない。
その辺りの常識はあるのだな。
「僕は…エリーアス・フォン・シュタルカー。シュタルカー侯爵家の息子だった」
思わず本名を名乗ってしまった。そして、もうすぐ自分が侯爵家の人間でなくなることを伝えた。
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