第2章 十一歳

第1話

悪役令嬢トルデリーゼに転生して、自分を破滅に導く存在ベルンハルトの婚約者となってから三年の時が流れた。

八歳だった私は十一歳になった。


転生した時からあまり変わらない日常を過ごしています。

家族はみんな仲良しですし、フィーネとは良い主従を結べていると思う。

ディルクとユリアーナとはよく会っている。


変わった事もある。

王太子妃教育はそろそろ終わりを迎える。それが終わったら今度は王妃教育が始まるので王城通いは変わらない。


魔力制御はかなり上達した。

今ではガブリエラ様に頂いた魔力制御のネックレスが無くても問題なく魔法が使えるくらいまで成長した。

ネックレスは普段から付けているけどこれは癖なので仕方ない。


最後にベルンハルトとの距離感。

あのファーストキス事件以来、顔を見る度に逃げていたら泣きそうな顔で「もうしない」と言われたので許したが警戒心は解けない。

ちなみにユリアーナにキスの件を話したら「破滅回避おめでとう」と笑われた。

回避出来ているとは思えないので苦笑いで返した覚えがある。



「リーゼ、そろそろ警戒しないで欲しいのだけど」


私のファーストキスを許可なく奪った人が話しかけてきた。

本日はベルンハルトとの定期お茶会の日だ。


「自分がなさった事を思い出してから言ってください」


こんな事を言っているが別にもう怒っていない。

ただ警戒心を解いて、またあんな風キスされたら困るのだ。

別にキス一つで好きになったりしません。

しませんけど意識しちゃうじゃないですか。

意識したくない。この人は私に婚約破棄を叩きつけるのだから。


「でも、あれはリーゼも悪いと思うよ」

「何故?」

「僕の気持ちを弄ぶから」


八歳の少年の心を弄んだつもりはない。

失礼な人だと睨みつける。


「婚約者なのにエスコートをしない事を不審がられてるのだけど?」

「うっ…」


二人揃ってお茶会に呼ばれる事があるがエスコート無しで入場している。本当は良くない事だけど近づきたくないのだ。

最初は照れているだけだと言われていたが今は不仲なのかと噂が流れている。


「王命の婚約なのに不仲説とか良くないと思わない?」

「うぅ…」

「仲直りしよう?ね?」


この人は三年経っても変わらない。

背が伸びたくらいだ。伸びたといっても私と身長はあまり変わりない。

男の子は伸びるのが遅いですからね、仕方ないです。

どうせそのうち高身長の美男子に成長しますよ。


「リーゼ、どうする?」

「…っ、分かりましたよ!」


不仲説が流れる事によってベルンハルトが迷惑している事は知っている。

野心のある貴族達から「うちの娘を妃にするのはどうですか?」と露骨なアピールを受けているのだ。

あの人達は王命の意味を分かってるのでしょうか。


「ありがとう、嬉しいよ」


ベルンハルトは楽しそうに笑っているが私は楽しくない。

勝手に隣に座り直さないでください。

近いです。


「リーゼ。はい、あーん」

「あーん……ん?」


なんで当たり前のようにチョコレートを食べさせてくるのだろうか。

どうして私は当たり前のようにそれを食べてるのだ。


「はは、食べてくれた」

「……食べますよ。好きですから」

「知ってる。もう一つ食べる?」

「食べます」


結局またあーんをしてもらいました。

反射的に食べてしまうのは三年前の癖です。体が覚えていたからで他意はない。


「でも、良かったよ。これでエスコート出来る」

「どういう事ですか?」

「三ヶ月後に王妃主催のお茶会があるのは知ってるよね」

「はい、良家のご子息ご令嬢だけを集めたものですよね。私も参加する予定です」


お茶会という名のお見合いパーティーみたいなものだ。

子供の頃からそんなものに参加するなんて凄い世界だと思う。

不本意ながらも婚約者のいる私ですが王妃様の補佐として参加します。

十一歳の子供に頼む事じゃないと思いますが逃げる事も許されていませんからね。

主催者側の勉強も兼ね備えてるみたいだけど王妃様本人の口からは聞かされていない。

自分で気づいてって事なのでしょう。


「僕も参加する事になったからエスコートさせてもらうよ」


ちょっと聞いてませんよ、王妃様。

あの悪戯が大好きな人の事だ。わざと伝えなかったのだろう。

笑顔で「サプライズ」と笑ってるところが想像出来る。お茶目さんめ。


「どうしてベルン様が参加されるのですか」

「僕の場合は側近候補探しだよ」


なるほど。

ゲーム内でも側近はアードリアンとディルク以外にも居た。

まだ会った事がない攻略対象者達だ。

もしかしたらこのパーティーで会うのかもしれません。出来るだけ関わりたくないので入場が終わったら逃げましょう。


「一緒に探してくれる?」

「ベルン様の側近なのですから自分だけで見つけてください」

「……僕が離れている間に男の子に話しかけられたらダメだよ?」

「貴方が会場にいて私に話しかけてくれる男の子はディルク様ぐらいですわ」

「ディルクなら良いんだ」


ちょっと面倒な人ですね。

自分はご令嬢に囲まれて楽しそうにしてるくせに私の行動だけ制限をかけてくる。

ムカつきます。

それにしてもベルンハルトにエスコートしてもらうという事はご令嬢達に睨まれますね。

それも面倒な話だ。


「当日はよろしくお願いします…」


お茶会がかなり憂鬱になりました。

当日は具合悪くなって寝ていたいです。

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