第11話 幼女、ドレスに作りに狂喜する

 まあ、古竜に対する対応を変えたことについての報告を怠って、魔王城丸ごと大騒動にしたことのお説教はしっかり食らった。

 そう。


 ーールシファー陛下は意外にねちっこかった。


 ネチネチ、ネチネチと、誰がどう大変で、自分もどれだけ対応を考えさせられたかなど、ネチネチ、ネチネチ言うのだ。

 そのうち、『英霊召喚』が謎進化して、自分の複製を英霊として呼べるようになったら、そっちを代わりに置いておくのになー、なんて夢想をしながら、大人しくその場にいることにした(聞いていたとは言っていない)。


「まったく、ちゅかれた」

 やっと自分の自室(客間)に着くと、ため息をつきながらその扉を開ける。

 その部屋には、アリアと、なぜか孔雀アドラメレクとアスタロト様がいた。


 ちなみに、孔雀アドラメレクと言っている理由を説明していなかったかしらね。

 奴はとにかく派手なのだ。

 緩やかな癖を描くショートボブの髪は濃いエメラルド色で、同色のまつ毛は影を落とすほどに長い。片目に泣きボクロをつけた瞳は濃いサファイアのよう。弧を描く唇は女のように赤い。

 そして、体にフィットした真っ白なスーツ。そして極めつけが、マントの裾一面をレースのように飾る孔雀の羽。

 そして、胸もとから取り出した扇子も、孔雀の羽でできていた。


 だから、『孔雀』なのだ。


 彼の顔を見て、私は、またため息が出てしまった。

 自分の部屋から回れ右をしたら、どこで休んだらいいんだろう?

「どちて、クジャクがいりゅの!」

 ともかく、なぜ客人として入り込んでいるのか、問いただすことにした。

 そんな私にはお構いなしに、孔雀は笑顔のまま。

 そして、背後にいるらしい人に声をかけると、ひらり、と一枚の豪奢で美しい黒いドレス用サイズのレースを私に見せたのだ。


「立派にお仕事をしてきた姫に、ご褒美のドレス作りを楽しんでいただこうと思ったんだけれど……、お気に召さなかったかな?」

 すると、背後の人に出てくるように指示する。

 彼女達は、先日、ちょっとだけ顔を合わせた裁縫係の女性達。

 彼女達も、楽しい遊びに誘うように、美しい布を広げて私に見せてくる。

「ようやく、リリス様を飾るにふさわしい布が揃ったのです!」

 そう言って、裁縫係の担当者たちは、それぞれ美しい生地を私に見せながら、満足そうに笑顔を浮かべている。


「ねえ、リリス。お説教が疲れちゃったなら、日を改めてもいいわ。どうする?」

 アスタロト様がにっこり笑って尋ねてくる。

 その笑顔は、私の目が喜びと期待にワクワクしているのが、顔に出てしまっているからなのかもしれない。

「いまが、いいわ!」


 早速私が主役のお人形遊びが始まる。

「まずは、黒だね。黒は、染めや生地の質で全く色の出方が変わるから、徹底的に質の良いものを探させたんだよ!」

 シルク地の薄く光沢のある生地に、繊細な手編みのレース、サテンの少し厚みのあるものから、装飾のリボンにするためのレースも揃っている。

「リリスは華奢だから、上半身は華奢さを主張して、腰からはふっくらと豪奢に布を重ねてボリュームを出したいね」

 そう言って、アドラメレクが、ちょっと変わった膝丈のドレスを紙にサラサラと描く。

「かわいい……」

 袖はパフスリーブでふっくらと、そして、スカートにはサテンとレースを重ねてふんだんに。

 ポイントポイントに、リボンの飾りがついているのも可愛い!


「くじゃく! すごいわ!」

「……お褒めいただくのはありがたいですが、その呼び名も出来れば改めていただきたいですね……」

 そう言って、アドラメレクが苦笑する。


「リリス様、こちらの色味もどうでしょう?」

 そんな私に声をかけてくれた裁縫係の女性が広げて見せるのは、上は真っ白、けれど、端に進むにつれて、だんだんピンクのグラデーションになっており、末端はちょうど私の髪の毛の色とお揃いのようになっているのだ。

「うわぁ! かわいいわ!」

 彼女の元に駆けて行って、姿見の前でその生地を体に重ねてみる。

「この末端のピンクが、絶対にお似合いになると思ったんです! でも、上の方にも同じ色を持ってきますと、お髪の色と被ってしまいますから、このようなグラデーションの染物を選んできたのです!」

 そして……、と、小物類の入ったカゴの中から、白、薄いピンク、濃いピンクのレースリボンを取り出してくる。

「とは言っても、上半身が白だけではお寂しいですから、リボンで色を添えるんですよ。いかがでしょう?」


 私は、両手を組んで感激する。

 だって、こんな上等な生地で、こんなに贅沢なドレスを作ってもらったことないわ!


 結局、夕方遅くなるまで、アスタロト様とアドラメルクを巻き込みながら、私のドレス制作の検討をしたのだった。


 そのドレス達は、仕上がり次第次々に私の元に運ばれてくる。

 また、私が古竜を屈服させ、眷属にしてつれてきたことで、その麓の平野は無事に開拓事業を始められることになったらしい。

 私は、その強さと功績を持って、四天王の最後の一人に任命されることになったのだ。

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