第9話 その頃の勇者達①
勇者ハヤト達のパーティーメンバーは、彼を筆頭に、魔導師のアリア、弓使いのフォリンだ。
彼らは、一旦、リリスが『戦闘で亡くなったこと』の報告と、彼女の代わりの要員を迎え入れるべく、王都へ向かっていた。
「オーガが来るぞ!」
ハヤトが戦闘態勢を取るよう指示する。
「まっかせて!」
弓使いのエルフ、フォリンが、オーガの眉間を狙って矢を射る。
ーーが、その矢は、的をはずして飛んでいく。
「え? どういうこと? 私は、的を外したことなんてないのに」
そう言って苛立ちながら、「まぐれなら、もう一回!」と矢を番える。
ーーまた、当たらない。
「……どうして?」
フォリンは、どうしても当たらない、その外して地に落ちた矢を呆然と眺めていた。
「バッカ! 何、何度もミスってるんだフォリン! ヤアアアーー!」
ハヤトがバスタードソードを両手持ちにして、オーガに向かって走る。
その間に、魔導師アリアが魔法を打とうと、魔力を練る。
ハヤトは、オーガに近づいた直前でサイドステップでフェイントをかけ、横から斬りかかろうと思っていた。
ーーが、体は思うような速さで動かず、サイドステップのタイミングを逸した。
仕方なく、そのまま真正面から斬りかかるが、そんな攻撃では、オーガの硬い筋肉で覆われた腕で簡単に払われ、もう片方のオーガの拳が、ハヤトの鳩尾に叩きつけられる。
「ゲボォッ」
叩きつけられた勢いで、ハヤトは宙に浮き、そのまま吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。
「よくもハヤトに!
オーガの足元から勢いよく炎が立ち上がった……、ように思われたが、それはオーガの身に纏う衣を焦がすだけで、オーガは皮膚がかゆいとでもいうように、腕を掻きむしるだけだった。
「ど……、どういうことだ」
三人は、彼ら本来の能力を全員が全員発揮することができないことに、混乱した。
リリスがパーティーにいた頃、彼女は回復役に徹することしか許されていなかったので、仕方なく、常に『大聖女フェルマー』を召喚していた。
フェルマーは、回復のみならず、あらゆる上級の補助魔法を彼らにかけていたのである。
素早さも。
矢の命中率も。
魔法の威力も。
彼らが、彼ら自身の能力だと思っていたものは、フェルマーの補助があったからこその能力であったが、彼らはそれに気づいてはいなかった。
「て、撤退。今は部が悪い、各自逃げろ!」
ハヤトが叫ぶと、三人は散り散りにその場を脱出し、本来ならあっさり倒せたであろうオーガにすら敗退したのだった。
なるべく安全な街道を選んでハヤト達は王都を目指し、やがて、やっとのことで王都に到着した。
「あー、もう。一体どういうことだよ! 使いどころのない召喚師一人抜けただけだろ!」
イライラした態度で、ハヤトが商店の脇にある樽を蹴り飛ばす。
「おかしいわ。王命を受けて旅立ってから、矢を外すことなんかなかったのに……」
憂い顔でため息をつく、フォリン。
「私の魔法の威力がどうして落ちるのよ! 何かの呪いでも受けているのかしら……」
教会へ行って、何か呪いでもかかっていないかを確認しよう! と提案するマリア。
「いや、まず、リリスの死亡を報告して、メンバーを補充するのが先だ。あっちにも待たせているしな」
ハヤトは、とある街で聖女のルリと懇ろになり、勇者パーティーに迎え入れる約束をしている。自分を健気に待つ彼女を迎え入れたかったのだ。
◆
王への面会を求めると、『王命を受けた勇者』として、特別にすぐに謁見の間に通された。
国王陛下が玉座に腰を下ろし、宰相がその隣に控えている。
そして、ハヤト達一行は下座で膝を突いて首を垂れている。
「顔を上げよ。魔王討伐は順調か」
玉座におられる陛下から、まずは進捗状態を尋ねられる。
「は、それについてですが……。魔族領にあと一歩というところで、仲間の召喚師リリスが戦死しました。……回復も間に合わず、即死でした」
ハヤトが、顔を上げて、虚偽の報告をし、それに真実味を加えるための演技とばかりに唇を噛み締め、目に涙を浮かべ、そして、俯いた。
「なんと! 召喚師のリリスといえば、あの有力な辺境伯の娘ではないか!」
国王陛下が、玉座の肘掛けを叩きつけて、立ち上がる。
「陛下、……非常にまずい事態になりました。彼女は、我々が彼女の能力を買い、辺境伯に頼み込んで勇者一行に加えました」
宰相も、非常に苦々しい顔をする。
リリスは、この国の最も外敵侵攻の多い地区を守る、フォルトナー辺境伯当主の娘である。辺境伯と言っても、その類稀な武力と、それによる国への貢献度といった観点を鑑みれば、公爵、侯爵にも劣らない家であった。
そして、辺境伯の子は男児二人と、長女リリス。特に一人娘のリリスを溺愛していた。
また、リリス自身も、希少な『固有スキル持ちの召喚師』として、父や兄を助け、国を守っていた。そんな彼女の噂を聞いて、王家が頼み込んで勇者に預けたのである。
「まずい、非常にまずい……」
「辺境伯になんと伝えれば良いか……」
国王と宰相が顔を青くする中、ようやく自分たちの行った行為の軽率さに気づく、ハヤト達だった。
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