第8話 幼女、古竜と対峙する
私はその嘆願書を受け取って、陛下の部屋を後にした。
「どうやって、このやままで、いくの?」
そこは結構険しい山のようで、どう考えても自分の足では歩けないだろう。
「私が、飛んでお連れできますよ? 飛行魔法も習得しております」
そういうと、「失礼します」と私に一言告げてから、マーリンが私をひょいっとお姫様抱っこする。
「マスターの御身はとてもお軽い。抱いて飛んでいくのに問題にはなりません」
ーーうわ、大賢者ってなんて便利なんだろう!
「じゃ、行きますか」
「ふえ?」
あれ、準備とか、挨拶とか、色々しないの?
いきなり特攻なの?
マーリンってこんな性格だったっけ?
「さらなる飛躍を遂げているであろう我が力、試したいのです! 古竜など、あっという間に屠って見せましょう!」
ニヤリ、と野心的な笑みを浮かべている。
ーーそれが目的か‼︎
マーリンは、私を抱いたまま宙に浮き、地図に書かれた方角へと飛んでいくのであった。
「うひゃぁ! ほんとに、とんでりゅ〜!」
あっという間に魔王城が遠く小さくなっていく。
ふふふ、と楽しそうに笑っている、私を抱いて飛ぶマーリンは、上機嫌だ。
『殺る気満々』と言ったところだろうか。笑顔がちょっと怖い。
マーリンの飛ぶ速度は、私を驚かせない程度に、かつ、ほどほどに早く、ツインテールにした髪が風に煽られて波を打って揺れる。
青空の中、風が頬を撫で、雲が地上で見る速さより速い速度で流れていく。
「うわぁ! しゅごい!」
最初の恐れもだんだん薄れ、なんだか空の旅が楽しくなってきた。
「楽しくなってきましたか? 空の旅も、良いものでしょう?」
「うん!」
私は、マーリンにしっかりとしがみつきながらも、下を眺めることができるくらいに落ち着いてくると、今度はなんだか高揚感が湧いてくる。
お城も街もおもちゃの模型みたいだわ!
街も、雲もどんどん流れていって、それがなんだか楽しくなってきた頃に、目的地の山にたどり着いた。
速い!
ーーマーリン、有能だわ!
なかなか険しい山の中に、地図で示された古竜が住処とする洞窟があるらしい。私とマーリンは、抱っこ&飛行状態で、その住処を探して回った。
「あまり、いきもの、いにゃいのね」
その山には、高山植物がちらほらと生息するばかりで、生き物の姿が見当たらない。
「やはり、古竜の住処の近くともなれば、普通の獣では心穏やかに生活もできないでしょう。住処を変えたのかもしれませんね……」
強い子が来ちゃったから、お引っ越しかあ……。かわいそうね。
「ん。そこに割と大きめの洞窟がありますね……」
その洞窟の入り口の影になる場所に、マーリンがそっと私を下ろしてくれた。
「いりゅかな?」
「入ってみましょうか。そのサイズの大きな洞窟であれば、古竜が潜んでいてもおかしくはないでしょう」
「うん」
マーリンと二人で顔を見合わせて頷いた。
「マスター」
「あい」
「足元が整っていませんから、私がマスターを抱き上げながら、中に侵入します。もし古竜がいたら、マスターはできる限りの
「うん、わかった」
飛び出しては来たものの、これからやることの危険度を認識して、私はしっかりと覚悟を固める。
「だいじょぶ。だっこして」
『だっこ』などと、随分と幼児言葉にも慣れて来たものだ。
「では、失礼して」
マーリンが、軽々と私を姫抱きにする。
足の揺れを感じない。
マーリンは、足音で先に気づかれないよう、宙を浮いて移動しているようだ。
すると、洞窟の最奥に、巨大な丸い影が確認できた。
その鼻息は荒く猛々しく、その体が大きいであろうことを予感させる。
きゅ、とマーリンのローブを掴むと、顔を見合わせて互いに頷き合う。
「サモン、エインヘリアル!」
私の体が魔力で発光すると共に、その洞窟の最奥を埋め作るように、『伝説』と言われし武器を持った『伝説の英雄』達が顕現する。
それは、古竜の周りも埋め尽くすほどの数だ。
「ん……」
そして、流石にその眩しさに、古竜が目を覚ます。
ーーゆっくりと目を開け……。
「ナンジャコリャーーーー!」
竜が人語で絶叫した。
そして、バァン!と地響きがするかと思うほどの勢いで後退り、洞窟の最奥に、自らの背をぶつけた。
それもそのはず、百数十という英霊達の得物は、古竜、彼に全てが向けられているのだ。
「た、た、たすけ……! 降参! 降参します! 殺さないで‼︎」
圧倒的な数。
しかも、相手はかつての英雄達だ。古竜が彼らから感じる、オーラも威圧感も以上なはずだろう。
「マスター。ああ言っていますが、どうしますか?」
私の横にマーリンがやってきて、二人で古竜の様子を眺める。
「ち、ちびっ子が、彼らのマスター……」
驚愕に目を見開く古竜。
「ちびは、よけいよ! みんな、やっちゃ……!」
ちょっとカチンときて、英霊達に号令をしようと思った矢先に、必死にそれを遮ろうとする声が割り込んでくる。
「あーーーーっ! お願いします、待ってください。眷属にでもなんでもなりますから、殺さないでーー!」
「けんじょく」
「あなたの僕になるということです。竜は、その背にも乗れますし、まずこれだけの大きな古竜、戦力としても魅力的だと思いますよ。真名を教わるといい」
私は、その古竜の前に歩いていく。
「あたちは、リリス。あなたのまなを、おちえなちゃい」
そう言って、私は古竜の前に小さな手を差し出した。
すると、本当に観念なのか怯えているのか、古竜は大人しく私の手の前に首を下げる。
「我が名はニーズヘッグ。真名は■■■■■です」
それを聞き届けると、彼の頭と私の手のひらの間が細い光で繋がる。
「これで我は、リリス様の眷属となりました。以後、よろしくお願いいたします」
ーーあれ?「倒せ」って命令だったような?
「ま、いっか」
私は、彼を私の眷属として連れて帰ることにした。
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