第6話 幼女、四天王候補になる?

 結局、幼女になってしまったその日は、仕立て屋に採寸だけをしてもらい、服の生地選びは後日ということになった。

 なぜって、オーダーがオーダーだからだ。

『四天王の最後の席に座るものにふさわしいだけ誂える』

 それは、相当の量が必要になる。

 何せ、『魔王』に次ぐ『四天王』と目されているのだ(勝手にだけどね)。必然的に、必要な衣装は多くなる。


 魔族領の食事は、人間の国のものよりも優れていて、とても美味しかった。食後に供された子菓子は、マカロンというらしいのだが、あれはとても甘くて、そして、あっという間に口の中で溶けてしまって、とても美味だった。


 そんな怒涛のような一日を過ごし、ようやく夜になって、寝るために部屋に一人になれた。

 ちょっと、現状について、相談したいわ。

 私は、いつもの相談相手、マーリンを呼ぶことにした。

しゃもんサモンだいけんじゃマーリン」

 すると、ベッドに腰掛ける私の目の前に、マーリンが顕現した。

 ……と共に、彼が大きく目を見開く。

「これはマスター……、に違いありませんが。実に愛らしい姿になられましたね」

「にんげんのくにで、いきるとこもないから。……まぞくになったの」

 信じていた仲間から裏切られた記憶に悲しくなって、私は俯きながら答えた。

「ああ、だからですか。その見た目とは裏腹に、内包する魔力量が桁違いに増えていらっしゃる……」

「え?」

「そうですね、十倍は軽いかと」


 ーーえ、ちょっと待って。


「まえだって、おおしゅぎて、かくしてたのよ?」

 あ、また噛んだ。

 それを耳にして、マーリンが微笑ましそうに笑顔になる。だが、すぐに顔を真剣なものに戻した。

「私自身が身をもって感じるのです。マスターからいただく魔力が、以前とは比べ物にならないほどに増えております。これでしたら、私は、生前の頃よりも魔法を存分に行使できるでしょう」


 ーーえ、ちょっと待って、あなた、『大賢者マーリン』だから。

 伝説の大賢者だから!

 その現役時代より強いとか、ちょっとおかしなことになってるから!

「しょこまれだと、なんか、たいへんかも……」

 ええええ〜、となんか大変なことになったと思って、思わず顔を顰めてしまう。

「いえいえ、マスター。それだけではありません。おそらく、召喚できる英霊の最大数も増えましょう」


 ーーあれ? 私、危険人物になってないかな?


「ですがマスター、今はそれを考える時ではありません」

「ふえ?」

「……今日の貴女には、たくさんの事があり過ぎました。しっかりとお休みすることが最優先かと思いますよ?」

 そう言って、マーリンは私の膝を掬って、姫抱きにすると、ベッドに私の体を横たえ、上掛けをかけてくれた。

「ありがと、マーリン」

「おやすみなさい、マスター」

 マーリンから額に口付けを受けると、私は体の疲れに抗えずに眠りに落ちていくのであった。


 そして翌朝。

 小鳥の囀る声で目が覚めた。

 魔王城には緑が多い。それに集まる小鳥達が、朝になると一斉に朝がきた! とでも言うように歌い出すのだ。

「ふあぁぁ〜」

 私は寝具から上半身を起こして、大きく腕を伸ばして伸びをする。

 そして、その手のひらをじっと見る。

 うん、ちっちゃい。そしてぷにぷにと子供らしく可愛らしい。

 昨日のことは、夢ではなかったようだ。


「お目覚めですか?」

 扉の向こうから、アリアの声がした。

「おはよう、アリア。はいって、いいわ」

 すると、「失礼します」という言葉とともに、ドアが開けられて、可動式テーブルと共にアリアが私の元へやってきた。

 載せられているのは、顔などを清めるための水の入ったタライと、タオル、そして、衣類などだった。


 パシャパシャと水を掬って顔を清め、タオルで顔を拭う。細い木を束ねた歯を清める道具で汚れを掻き出してから、掬った水を吐き出して口腔内を洗浄して、口を拭う。

「本当に幼い方にお使えするよりも、作法はご存知でいらっしゃるので、とても助かりますわ」

 そういうのは私専属らしいアリアだ。


「きょうは、どうしゅるの?」

 そんなアリアに、私に今日の予定があるのかを尋ねてみた。

「そうですね、今日は王城内のご紹介してもいい施設を、ご案内させていただこうと思っております」

 なんとも嬉しい返答が返ってきた!


 そして、簡易なワンピース姿で、アリアに案内されながら歩いた。

 と、ここで不思議に思うかもしれない。

『幼女がなぜそんなに歩けるのか?』

 大人の人間から幼女の姿になったからだから、体自体はしっかりしているのだそうだ。それに加えて、魔族は人間より体がしっかりできているらしい。

 人間の五歳児だと、関節もまだあまりしっかりとせず、本当はそんなに歩くことは出来ないのだけれど。

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