第5話 幼女、激おこ!
「どうしてくれるのよっ! よーじょなんて、きーてないわ!」
魔族になってさらに増大した私の魔力と私の怒りが相まって、執務室内をビリビリと振るわせる。
そんな中でも、魔王陛下は冷静だ。
「……俺は忙しい。みんなこの部屋から出ろ。そして、アドラメレク。お前が幼女化させた張本人。責任をとって、彼女の機嫌を取れ。いいな」
そういうと、陛下はしっしと皆に『でていけ』とばかりに手を振る。
我々は、陛下を執務室内に残して、客室に戻ったのだった。
あ、ベルゼブブはその能力で、途中でこの問題から逃亡したらしい。
そして、アドラメレク様と、幼女化した私を抱いたアスタロト様が、私に与えられた客間に戻ってきた。
「あら? アドラメレク様とアスタロト様……、と?」
「リリシュよ!」
くぅ! 自分の名前を噛むなんて!
「なんてことでしょう! 我々と同族になられただけでなく、こんなに愛らしく……」
アリアがキャッキャと私のもとへやって来て、小さなツノや、まだ小さく子供の手を触ったりする。
「あ〜り〜あ〜! アタチはいま、『げきおこ』なの!」
私に触れてくるアリアの手をぺしっとした。
手を叩かれたと言うのに、アリアは、私がすっかり幼女だからなのか、「あらまあ」と言って怒る様子もない。
「でも、どうしてこんなことに?」
アリアが尋ねたので、みんなでソファに腰掛けて説明をすることにした。
「だかりゃ! アドリャメレクがハンニン、なの!」
一通りアリアへの説明を終えると、私は、立ち上がって、ビシッとアドラメレクを指さした。全く、いちいち噛むのも悔しいったら!
あ、あと、この姿の責任は彼にあるから、もう、『様』はつけてあげないって決めたの!
「わかった、わかりました、リリス姫。お詫びと言ってはなんですが、貴女のその愛らしい姿に似合う装いを、全力で用意させていただきましょう」
ははぁっ、と臣下の礼でも執るように、芝居がかった仕草で頭を下げる。
「確かに、子供服なんて、魔王城にないから急ぐわよね」
思案げに言いながら、アスタロト様が、私をひょいっと抱き上げて膝の上に乗せる。
「にゃに、するんですかっ!」
私は猛烈に、抗議とばかりに足をばたつかせるが、アスタロト様は意にかえす様子もなく、私の頭部に頬擦りをする。
「だって、可愛いじゃない。本当に可愛いのよ?」
そう言って、覗き込むように私の顔と顔を正面向いにして覗き込む。
「ピンクの波打つ長い髪。そうねえ、ツインテールにでもしましょうか? 似合うと思わない? アリア」
問われたアリアは、両手を組んで、瞳をキラキラさせて、コクコクと頷いている。
「と言うわけで、ドレスと髪飾り用のリボンもセットね、アドラメレク」
「はい……」
「こんなに可愛らしいリリス様なんですから、可愛らしいぬいぐるみもお部屋に置いておきたいですね!」
アリアが、瞳をキラキラさせたまま提案する。
え、ちょっとまって、私の精神年齢は十五歳……。
「それは素敵ね! アド……」
「承知してますよ」
「あとは、リリス様がお喜びになりそうな、小ぶりの甘いお菓子を……」
怒りまくる私と、盛り上がる女子達の対応をしながら、次々に注文を投げつけられるアドラメレクは深く溜息をついていた。
そんな中、仕事は早いアドラメレクが呼んだのか、ドアがノックされ、仕立て職人が私の部屋を訪ねてきた。
魔族の女性三名である。
「まぁぁぁ! なんて愛らしい!」
子供の魔族というのはいないのだろうか?
「まじょく、に、こども、いないの?」
私を膝に乗せている、アスタロト様に聞いてみた。
「いないわけじゃないけれど、魔族は人生が長いから、そんなに産む必要もなくてね。少ないのよ。でもね、その中でも、あなたは特に可愛いわ」
うーん? そんなものなのかしら?
そう思って、私は、アスタロト様の膝からぴょんと飛び降りて、姿見の前に立つ。
そこにいたのは、四歳当時の私の姿とは全く違ったのだ。
「え、これ、あたち?」
鏡の中の少女は、艶のある波立ったストロベリーピンクの長い髪。
肌はきめ細やかで、頬はふっくらと持ちあがり、ベビーピンクのチークを叩いたよう。
唇はふっくらと艶やかで、さくらんぼのようだ。
そして、瞳はキラキラと煌めく明るいガーネットのよう。
「アスタロト、ドレスはどれくらい要り用だ?」
「それは勿論、『四天王最後の一席』を埋める方に相応しいだけ誂えて頂戴」
アスタロト様が、美しい赤い唇を撓めて笑う。
「端からそのつもりで連れてきたんじゃないのか?」
その様子に、アドラメレクもくっくと愉快そうに肩を揺らす。
「まあ! 愛らしくも四天王候補たるお力をお持ちの方のドレスを作る光栄に預かれるなんて!」
呼ばれた仕立て職人やら針子やらが、キャッキャとはしゃいでいた。
ーーあれ? それは、どういうことですか?
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