第6話 肉屋
斗真が到着した先は肉専門店だった。
動物に感染が広まってから、肉の安全性がより声高に叫ばれてきた。肉のランクを表す証明書の他にも、ウイルス対症薬品非接種・陰性であることが最低限の品質となりその証明書がなければ販売加工は不可である。当然、輸入品に対する警戒感が強まり国内産の需要は高まったが、輸入肉ほどの価格を出すには日本の国土は狭すぎる。肉は日に日に高価な食料になり、ネットではゾンビ化する動物たちとの共生について毎日のように議論されている。
店のメニューには焼き鳥からステーキまであらゆる肉料理が掲げられていた。
肉を焼く匂いが空腹を誘う。最低単価5000円のこの店が繁盛するのも立地のせいだろう。斗真は高級車で買いに来くる住む世界の違う人間に、特別卑屈な気持ちは抱かなかったが、確実にある見えない境界線を無感情で眺めた。
斗真は合計3万円の肉料理を背負うと、心なしかいつもより使命感が湧いた。
次の目的地は、依頼者の住む代々木公園近く代々木八幡の一等地だ。代々木公園で鳥のクラスターが発生したが、厳密にどのエリアとの報道はなかった。代々木公園は広い。迂回すれば問題ないだろうか、と斗真は頭の中に地図を描く。
公園から溢れ出る樹木を横目に公道をバイクで走る。
警察や自衛隊の出動もなく、自動車も特に警戒した様子はない。クラスターが発生したとはいえ車の移動なら問題ないという判断かと、斗真は慎重に付近の様子を観察する。
公園の入り口の先の森の上を、5、6羽の鳥が旋回していた。
カラスだ。
大きな羽をゆらりと羽ばたかせて飛んでいる。
本来旋回するような鳥ではなく、意図のない蛇行であった。ちょうど酔っ払っいの足がもつれる様相だ。
あれが感染した鳥かと斗真は思わずバイクを止め森の方を見入っていると、ピピーと甲高い笛が鳴った。
音がした方向を見ると、交番の窓から警察官が顔を出し笛を咥えていた。
斗真はTWPを散布している交番の近くを避けた買ったので、その場でバイクを留め胸元からIDを見せた。
警察官はすでに閉めた窓の向こうから、手元のスマホを確認しうんうん行ってよしというようなことを身振りで示した。
自動車以外での外出は原則厳禁という緊急事態宣言によって、バイクで走っていると止められることがある。
カミカゼ・デリバリーの配達員は特殊訓練を受けているので、クロスバイクなどで移動することを許可されているが、近年許可なく身一つで外出する人が増えてきたことで取り締まりが強化されている。認定書の役割を持つIDを見せれば、カミカゼ・デリバリーの配達員は取り締まりを免れることができるのだ。
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