第5話 ハンバーガー

 ハンバーガーの配達箇所はバイクで10分程度のところだった。


 ゾンビ化した動物が街に溢れてから、人々は安易に出歩くことができなくなったため、政府は車など高速で移動できる手段以外での外出は原則禁止という緊急事態宣言を発令した。

 このような生活が日常となり、危険な地域を人が移動するのではなく、訓練された人がモノを運ぶということが一般的になっていった。それを担うのが斗真たちカミカゼ・デリバリーである。

 

 カミカゼ・デリバリーは元は普通の配送業者であったが、ウイルス蔓延による第4期ニューノーマル突入に際し、配送業者の身体的能力の重要性にいち早く目をつけ、配達員の雇用に自衛能力を含む基礎体力を必要条件とし、就業までに一定の訓練期間を設けるようになった。


 斗真はバイクを走らせ目的地のマンションに到着した。エントランスのオートロックを依頼者に開けてもらい、12階までエレベーターに乗る。


 人とテクノロジーによる仕事の奪い合いは、もうかれこれ何十年も続いているが、配送手段についても例外ではなかった。

 自動車の無人運転は一般利用が目前となり、ドローンの操作性と正確なアクションは食料や日用品の配送だけでなく、ゾンビ化した動物たちの監視や駆逐にも利用されている。


 目下、斗真たちの仕事の最大のライバルはドローンである。


 しかし鳥へのウイルス拡大により配送中のドローンが襲撃を受ける事件が多く発生しているため、ドローンが利用できるのは市内のTWP対策が取られた地域に限られており、カミカゼ・デリバリーの依頼者は、TWP対策外地域と今回の依頼者のような富裕層が主流となっている。

 配送手数料は割高だか、速く融通の効く人の配達の方が好まれる場合もあるのだ。


 斗真は指定された通り、玄関の前に置き配専用ボックス(ここ2、3年で普及したプラスチックの箱で、保温と衛生問題、配達人による開封対策がとられている)に入れられたハンバーガーを置いた。スマホで依頼者に配達が完了したことを通知し、まだ12階にいるエレベーターに乗り込んだ。


 斗真が1階からエントランスを出ると同時に、スマホが鳴った。


 次のデリバリーは代々木八幡だ。代々木公園の近く、鳥のクラスターが発生したためドローン配送ができない地域だった。斗真はこれまで感染した犬、猫、ネズミと対峙した経験はあったが、鳥は初めてだった。


 バイクに跨り、斗真はピックアップ先の店へと向かった。

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