ランナー01 『ケルベロス』の使い走り

 『トライホーン』の葬儀と遺品の整理は、ツィオン達の力を借りて、ゴンザレス一人で済ませた。


 数少ない遺族に、遺品と僅かな分配金を引渡し、残った物は売却して清算する。ギルドやら酒場や武器屋・道具屋への支払いで、ほぼ消える。ゴンザレスの手元に残った金では、武器を買い換えることも出来ない。


 ツィオンのチーム『ケルベロス』はハウス本拠地持ちなので、その館に身を寄せることになっていた。

 少し前に、『トライホーン』のリーダーだったジョシュアに連れられて、訪れたことがある。格上のチームの訓練を見学させてもらい、実際、ツィオンから槍術の手ほどきも受けた。こんな形でまた訪れることになるとは、ゴンザレスも思ってはいなかったが。


 チーム『ケルベロス』は、Aランク槍士ランサーのツィオンがリーダーで、魔法剣士マジカルブレーダーのアルベルトと魔法使いマジックユーザーのキャティの二人がサブリーダーで、Bランク。Cランク僧侶クレリックのリーミンとDランク弓士アーチャーとCランク斥候スカウトを兼務するマールまでは、遺品回収の時に一緒に行動したので知っていた。Dランクが、他に四人、魔法使いマジックユーザーのローラ、僧侶クレリックのマギー、戦士ファイターのセディ、斥候スカウトのキムがいて、その下には、Eランクに成り立ての新人が四人、戦士ファイターのマイクとサイモン、僧侶クレリックのネイサンとポールがいた。この十三人に、以前は怪我で探索者を続けられなくなった元斥候スカウト使い走りランナーをやっていて、元は十四人だったらしいが、最近、正式に冒険者を引退して、田舎へ帰ったそうだ。


 上位の少数精鋭だけのパーティでの冒険は少なく、トップ三人がそれぞれリーダーとなってパーティを三組作って、探索に出ることもあるし、下位のメンバーだけで、浅い階層へ挑むこともあるのだと言う。


 個室は一階に十六、二階に八あり、二階の方が広いので、Dランク以下が一階、Cランク以上が二階に部屋を持っている。入って直ぐの新米にも、狭いが個室があるのは珍しい。食堂兼会議室兼娯楽室と台所が、一階にあり、二階には、応接室兼ツィオンの書斎がある。残りの空いた個室は、倉庫や作業部屋に当てられている。

 ゴンサレスは、一階の一室を与えられた。


 形の上では、ゴンザレスは、ツィオンのパーティに参加して、トライホーンの遺体と遺品を回収したことになったので、ギルドへの貢献度を含めて、Dランクに上がってはいるが、今のゴンザレスは、自分が、Dランク槍士中堅ランサーではなくFランク使い走り新米ランナーと言うべき有り様だと、自覚はしている。


 使い走りランナーの仕事は、『ケルベロス』のメンバーが、一つひとつ教えてくれた。

 小さなパーティでは、それぞれが各自でやっていた日常業務を、大きなパーティになると、一人がまとめて担当する。

 ハウスに戻ったメンバーの武器や防具を点検し、自分で修理できるか専門職に修理を依頼すべきかを判断する。荒野や迷宮で使う道具や消耗品の、在庫確認と補充も。まとめて頼んで安くしてもらうよう交渉するか、高くついてもすぐに修理依頼や補充が必要かの判断も、必要になって来る。


 最初の半月で、商品やサービスの相場や値切り交渉を学び、魔法の武器防具以外なら大抵の道具は、修理もしくは応急処置が出来るようになった。


 自分の革の盾は、自力でなんとか使えるように修理した。折れた片手剣はそのまま研いで鍔も鞘も作り直し、鉈かナイフのように使えるようにした。折れた槍の穂先も回収していたが、刃毀れと歪みで修理はできなかった。


 槍士なり戦士なりでやり直すにしても、先立つもの購入資金がいる。遺品の回収に行った時の、革の胸当と靴と杖はそのまま持っている。杖は、両端に補修用の余りの金属を巻いて補強し、木棍として使えるようにした。


 ハウスの共用部分や外回りの掃除、食料の買い出しもある。夕食は各自バラバラなことが多いが、朝食はハウスに居ればみんな食べるし、訓練や打合せの日は、昼食や夕食まで一緒のこともある。


 調理は当番制だが、早起きが苦手な者や料理が不得意な者に頼まれて、代わることも多い。洗濯は各自でやるが、ゴミ出しもあるので、各々の部屋の掃除は頼まれれば、ついでにやる。個別に頼まれた調理や掃除は、その分チームの使い走りランナーの仕事をする時間を削ることになるので、依頼者はチームに対して対価を払い、当然ながら、ゴンザレスはチームからの使い走りランナーの報酬の一部として、まとめてそれを受け取ることになっている。

 

 突然使い走りランナーとして現れた若い男、本来ならEランクの四人に交じり、Dランクの先輩たちやリーダーに従いながら経験を積んで、上のランクを目指すくらいの年頃でありながら、引退間際か引退した探索者のように覇気もなく、おとなしく使い走りランナーに甘んじている様子に、反発も生じる。


 ギルドへの報告書も、新米同士で組んでいたFランクのパーティとBランクのパーティでは要求される内容レベルが、全然違う。信頼できる情報には価値があり、詳細かつ正確である程良い。

 マップ、トラップの位置や種類。出現する魔物の種別や数。その情報が、他のパーティに買われれば、ギルド経由で使用料が入って来る。

 最新情報は、常に売れるので、迷宮や荒野から戻ると、できるだけ早く提出した方が、ギルドに(ギルドから買う他のパーティにも)喜ばれる。

 マップの描き方は、見よう見まねで何とかなったが、書類の書き方は難しかった。読み書きがかろうじて出来る程度だったゴンザレスが、ツィオンとマールの二人がかりで教わり、書式に合わせて、正しい用語や記号で正しく書けるようになるまで、半年近くかかった。


 今では、ツィオンは、口述するだけで、作成はゴンザレス任せ、ギルド提出前にマールが最終確認するだけだ。


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