23. 【異】王都創立記念祭 3日目 隠し通路
隠し通路の出入り口となっている雑居ビルの地下は、すでに避難民を受け入れるために解放されていた。
避難してきた人の保護と中に人を入らせない目的で騎士団員が監視していたので、キヨカは声をかける。
「すいません、ブレイザーさんからこの先に行く許可を貰ってあるのですが」
「はい、聞いております。英雄キヨカ様ですね。ご検討をお祈り申し上げます」
「あはは」
英雄と言われて照れて赤くなるキヨカ。
だが、セネールもケイもレオナもコメント欄も皆が思う。
この事件を解決したら間違いなく更に英雄扱いされるだろうな、と。
「この中の作りはどうなってます?」
「少し長い階段を降りて頂いたら王城まで真っすぐ一直線です」
「それなら迷う心配は無いかな」
王城からの逃亡の際に相手に追われることは想定しておらず、すぐに街に避難することを優先している脱出路であるため複雑な作りにはなっていない。
だが騎士団員はキヨカの言葉を聞いて僅かに顔を顰めた。
「そのはずなのですが……」
「何かあったの?」
「実はまだ誰もここから避難して来ていないのです。何かあったのではないかと心配で」
隠し通路に問題があったのか、それとも王城で何かあったのか。
戦える人材が居ないため、こちらから救助に向かうことも出来ない。
「分かりました。気を付けて進みます」
「それともう一つお伝えしておくことがございます」
「何でしょうか」
「実はすでに一名、救出に向かった方がいらっしゃいます。全身が甲冑姿の方で目立ちますのですぐ分かると思います」
「おお、無事な人がいたんだ。分かりました」
不可思議なマヒにかからずに無事だった戦える人はキヨカ達だけではなかったようだ。どのような人物なのか分からないが、一緒に救出活動が出来たら心強い。
キヨカ達は念のため持ち物を再確認してから隠し通路に突入する。
隠し通路は全面石造りの真四角な形をしていて、王城の方向へとずっと延びている。縦横高さが十メートル以上はあるので広さは十分。左右と天井の壁面はツルツルと磨き上げられていて、崩れないように魔石で保護されている。足元は滑らないように適度に摩擦が残されており、逃げるのに不都合が無い作りになっている。
壁面に魔灯がかけられているため中は明るく、空気も淀んだ感じが無いのでどこかに空気穴があるのだろう。
そして、キヨカ一行はこの通路を使って誰も避難してこない理由が分かった。
「ここにも邪気があるなんて」
「今回の邪人もまた厄介な奴だな」
ここの邪気が王城のモノと同じなのか違うのか、キヨカ達には区別がつかなかったが、コメント欄を見たところ別のものと言う見方が強いようだ。
『王城のは橋の方まで漏れてなかった』
『今いる場所はまだ街に近いところだし、別のじゃないかな』
確かにキヨカが先ほど見た王城は邪気に覆われていたが、橋の方まではせり出していなかった。
キヨカは一旦入口まで戻り、見張りの騎士団員に邪獣が漏れ出す可能性を伝え、再度王城へ向かって進む。
「みんな慎重にね。手に負えない相手だったら逃げる。そうでなければ進むけど途中でクリスタルがあるかもしれないから、見つけたら破壊する」
「うん(コクコク)」
「承知」
「わ、わ、わ、分かりました!」
『キヨちゃん気を付けてね』
意を決して邪気の中に入り、いつ邪獣が出現しても良いように警戒しながら先に進む。
一度邪獣と戦って相手の強さを知りたいので、入り口付近をゆっくりと進む。問題なく倒せそうであれば歩くペースを速める予定だ。
「来たぞ!」
セネールの目の前で邪獣が出現する。
「パイナップル?」
色は緑だが、形は間違いなく地球のパイナップルに似ている邪獣が宙に浮いている。なお、パイナップルと同じ形の食べ物はこちらの世界には存在しないが、似たような味のものなら存在する。
また、同時に石で出来た手のひらサイズの星型邪獣も1匹出現していた。
「来るよ、まずは石じゃない方を倒す」
石の方は硬くて倒すのに時間がかかりそうなので、まずは柔らかそうなパイナップルから倒す。ただし、スキルを使って全力で攻撃すると相手が行動する前に倒してしまう可能性があるため、相手の行動を知るためにも通常攻撃で様子を見ることにした。
「ほっ」
「はぁっ!」
セネールとキヨカの攻撃がヒットしてパイナップルに二つの大きな傷がつく。
「(感触は良かった。後一回くらいで倒せるかも)」
少なくとも圧倒的な強者を相手にしているような感じはしない。気を緩めることは無いが、このまま戦闘継続で大丈夫だろうとキヨカは判断する。
そしてパイナップルの攻撃に全員が驚くことになる。
『えっ!?』
パイナップルは突如弾け飛び、複数の小さな塊に分かれた。そしてそれらが勢いよく雨のようにキヨカ達に向かって降り注いでくる。
「痛っ」
「ぬぅっ」
「……」
「ぴええええん」
雑魚がついに全体攻撃を使ってきた。
威力は弱いが、パーティー全体で考えると総ダメージ量はそれなりに高い。このターンは様子見と言うことでポトフとケイは防御していたが、その二人が行動中にこの攻撃を喰らったら全体ダメージ量は更に増すだろう。
「当たったところが少し痺れるくらいかな。これなら大丈夫、戦えるよ!」
血が噴き出たり激しく吹き飛ばされるような攻撃と比較したら大したことの無い痛みだ。これなら王都南の遺跡に居た亀の邪獣の攻撃の方が遥かに辛かった。
もっとも、それと同じくらいダメージを与えてきそうな敵がもう一匹いるのだけれど。
「ぐぶほぉっ!」
そしてその星型の石の邪獣の体当たりを腹部に受けたセネールは歯を食いしばって吐き出しそうな痛みに耐えている。
「セネール、まだ行ける?」
「も゛、も゛ぢろ゛ん!」
「ならさっさとあのパイナップルを倒しちゃってね」
「人使いがあら゛いー!」
パイナップルは再び元の形に戻っている。
セネールがマジックスピアでパイナップルを力任せに叩くと、ブルークリスタルと化した。
「私は石を攻撃するよ。でえええええい!」
気合を入れて宙に浮く石へと近づき剣を叩きつける。
甲高い打撃音が鳴り響き、石は後ろへ大きく吹き飛ばされたが、すぐに元の位置に戻って来た。
「流石に硬いなぁ。それに後ろに飛ばされることで衝撃逃がしてる感じもする」
『でもダメージは普通に与えられているみたいだよ』
レオナ達の画面では、亀の邪獣のときと大して変わらないダメージ量が表示されている。
「……う~ん」
『何か気になることでもあるの?』
「何かこう、ひらめきそうなんだよねぇ」
亀の邪獣と戦っていた時から、キヨカは新しい技が閃きそうだった。その感覚が石の邪獣との戦いで蘇ってきたのだ。
最初の戦いは大きな被害も無く無事に終了。
その後何度か戦闘を繰り返し、この隠し通路では他にもアルマジロに似た邪獣が出て来たがなんなく対処できる相手であった。
尤も、対処可能な相手だからとはいえ苦労しない訳では無かったが。
「四体!?」
パイナップルが四体同時に出現する。
全体攻撃連続はダメージ量が多く何度か回復が必要となるため、速攻撃破で極力相手の攻撃回数を減らすことが重要だ。
「全力で行くよ。ケイも痛いの我慢してね!」
「ひいいいい!」
断、サンダースピア、グラビティインパクト。
現在使える最大火力を叩き込む。
だが全て単体攻撃であり、初ターンに撃破出来る邪獣は一体が限度。
撃ち漏らした三体のパイナップルから袋叩きにされてしまった。
「いたっ、いたっ、いたいたっ!」
「これはちょっとしんどいぞ!」
「……むぅ」
「ぴええええええええん」
露出している部分に小さな傷が増えて行く一行。石による体当たりで体の内部へのダメージも蓄積されている。徐々にポトフのMPの残量が気になる頃合い。引き返すべきかどうかの考えが頭をよぎる。
そんなとき、ついにそれを見つけた。
「回復の泉」
「そしてクリスタルだな」
通路の途中に不自然に湧いている泉と、少し先に見えるクリスタル。
隠し通路の探索は大詰めを迎えようとしていた。
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