【間章】 ナターリアの好奇心
【ナターリアside】
交流会のダンスフロアでは、色とりどりのドレスが舞い踊り、華やかな空気に満ちていた。ただ、一番注目のキール殿下&アンナのペアが現れないことを除いて、だが。
ナターリアは、パートナーのエスコートを受けながらも、アンナが気になって仕方なかった。今までだったら、他人のことなんてどうでもよかったのに。アンナだけは、なんか違うのだ。自分に正直に生きている、と言えばいいのか、見ていてハラハラしつつも、見飽きない。しまいには、つい世話を焼きたくなるくらいには、興味を持ってしまった。
こんなことを言うのは恥ずかしいが、たぶん、これが「友達」というものなのだろう。
「ナターリア、僕じゃ不服だったかい?」
注意力が散漫になっていたナターリアに、パートナーのダニエルが苦笑いを浮かべていた。ダニエルは顔は普通だが、公爵家の長男で、将来有望といわれている青年だ。
「いいえ、とんでもございません。ただ、アンナの姿が見えないことが、少々心配で」
「確かに。キール殿下と一緒に来る予定だと聞いていたけど……いないね」
ダニエルがきょろきょろと見渡し、再び苦笑いを浮かべた。
この国の王子が来ていないのに、その程度の反応なの? 何か事件に巻き込まれているのでは、とか考えないのかなと、ナターリアはいらだつ。
ダニエルはダメだ。人柄が良さそうだから選んでみたけれど、状況を読む力が無いようでは将来有望とはいえない。もっとハイスペックな男かと思ったのに、とナターリアはがっかりする。
「アンナを探して参りますわ。失礼いたします!」
ナターリアは、お辞儀もそこそこに歩き出す。すると突然、ダンスの曲が止まり、校長先生が登壇した。皆が動きをとめて校長の言葉を待つので、ナターリアも動くに動けず、しぶしぶ立ち止まる。
「みんな、楽しんでいるかな! ここで、重大発表があります」
生徒達から歓声が上がる。その様子を校長はニコニコとしながら見ている。
何か面白いことでも始まるのかと、皆が校長の言葉を待つ。
「実は、この場を借りまして、転入生の紹介をしたいと思います」
わざわざここで発表するような、そんな凄い人物が転入してくるのかと、ざわめきが広がる。
ナターリアも、ちょっと興味が出てきた。隣国の王子とかだったら、どうしよう。もしそうなら、絶対にお近づきにならないと。
「第三王子、グラシム殿下です! では、せっかくなのでご挨拶を」
校長は相変わらずニコニコとして、グラシム殿下が登壇してくる様子を見ている。
しかし、会場はどよめいていた。喜ぶと言うよりも皆戸惑っている、と言った方が良いだろうか。何故かというと、すでに学園に通っている第二王子のキール殿下と、この第三王子のグラシム殿下は、犬猿の仲だと有名だからだ。特に、グラシム殿下の方がキール殿下を嫌っているというのが、貴族社会での常識なので、なんでキール殿下のいるところにグラシム殿下が来たのか謎すぎる。
「第三王子のグラシムだ。明日から正式にここの生徒になる。よろしく頼む」
朗々とグラシム殿下の声が響いた。キール殿下よりも、心なしか偉そうな口調だ。
ナターリアは、嫌な予感がした。これは何かが起きる。しかも、確実にアンナが巻き込まれるに違いないと。キール殿下が執着するアンナを、グラシム殿下が放っておくはずが無い。絶対に、何か横やりを入れてくるだろう。
「なにこれ。すごく面白そうじゃないの!」
ナターリアは興奮して、思わず叫んでいた。
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