第260話 魔物討伐と竜種と

 震度3程度の揺れと共に迷宮ダンジョン5離10km下へと落ちきった。


 この地震で周辺の集落や騎士団駐屯地は大丈夫だろうか。偵察魔法を飛ばして確認。

 驚いてはいるが、建物等には被害は無さそうだ。なら多分大丈夫だろう。


 迷宮ダンジョンを落とすために空けた穴を塞いでおく。空隙に土を入れて念入りに。この穴が原因で地盤沈下とか山崩れが起きないようきっちりと。


 これくらいでいいだろう。それでは迷宮ダンジョンの方の作業に移ろう。


 迷宮ダンジョン内には衝撃は伝わらなかった。だからヒイロ君は無事だ。

 ただ何かあった際に備えて迷宮ダンジョン内の、できるだけ離れた場所にもう1頭、ゴーレムを出しておこう。


 現在ヒイロ君がいるのはX字の左下、方向で言うと南西端部分。そして北西側には混ざり物キメラ並みの強さを感じる魔物がいる。


 だから北東側、迷宮ダンジョンの洞窟が埋まって行き止まりになっている部分にウーフェイ君を出す。

 これでヒイロ君に危険が迫った際に収納しても大丈夫だ。


 偵察魔法の視点は5箇所出す。

 ヒイロ君経由の偵察魔法の視点が2箇所、ヒイロ君周辺と迷宮ダンジョン内をうろつき回る分。

 ウーフェイ君経由の偵察魔法が1カ所、ウーフェイ君周辺を見ている視点。

 それに私自身の偵察魔法の視点が2箇所。小屋の周囲を見ている視点と、迷宮ダンジョン外側や騎士団の駐屯所を含む広域を見る視点。


 合計5箇所までならきりきり精神を張らなくとも視点を運用する事が出来る。ただこれ以上を視認し続けるのは大変なので、私自身は横になって目をつむり休憩状態だ。


 それでは魔物討伐を開始。以前攻略したグランサ・デトリア迷宮ダンジョンは1日に100匹程度の魔物が出てきたと聞いた。だからもっと大きい此処の迷宮ダンジョンならノルマは1日200匹で。


 とりあえず今日は雑魚200匹倒したら寝ることにしよう。

 実は少し眠気に襲われている。普段ならとっくに寝ている時間だから仕方ない。


 でもまずはノルマ達成から。ヒイロ君経由で偵察魔法と空即斬を使用。魔物を見つけ次第バッサリやっては収納していく。


 魔物はコボルトが多い。ただしアークコボルトやエルダーコボルト、コボルトリーダー等の上位種が中心だ。トロル系も割と入口に近い所からいる。


 この迷宮ダンジョン、以前攻略したグランサ・デトリア迷宮ダンジョンよりも蓄えた魔素マナが多く強力なのだろう。


 竜種ドラゴンを倒せない上に迷宮ダンジョンそのものが強力。なら攻略まで時間がかかるかもしれない。


 私としては早くお家に帰りたい。でもそうも言っていられないようだ。ある程度腰を据えてじっくり戦わなければならない可能性が高い。


 ならば今日は200匹ではなく倒せる魔物の全滅を目指そう。でもあくまで目指すだけ、ノルマとして自分に押しつけるなんて事はしないでおく。

 今回の作戦は長期戦になるだろうから無理はしない方針で。つまりどうしても眠くなったらさっさと寝る。


 偵察魔法&空即斬&アイテムボックスという攻撃&回収方法なら、ヒイロ君を動かす必要はない。視点を動かして、発見したら空即斬で倒し、死骸を収納する。この繰り返しだ。


 空属性に耐性が無い魔物ならこれで問題無い。もし空即斬が効かない相手が出たらとりあえず後回し。

 今回の作戦は迷宮ダンジョン内の魔素マナを減らす事が重要だ。だからまずは出来るだけ多くの魔物を倒して収納するのが優先。


 それにしてもこの迷宮ダンジョン、長い。

 穴の断面の幅はグランサ・デトリア迷宮ダンジョンの半分以下。だが高さは同じくらいか、もっと高く見える。

 雰囲気としては向こうは2車線+αの道路トンネルで、こっちは単線の鉄道トンネルだ。


 そして魔物の質と量はこちらの方が上。というかグランサ・デトリア迷宮ダンジョンの脇道の奥、外から見えない空間と同じ程度。


 そう言えばこちらの迷宮ダンジョンのトンネル内部は外から見えない空間だった。

 つまりこちらの迷宮ダンジョンのトンネル全体が向こうの迷宮ダンジョンの脇道の奥と同等レベル以上という事なのだろう。


 時々ウーフェイ君の方にやってくる魔物も倒しつつ、基本的にはヒイロ君側から順に魔物を倒していく。


 中央に近づくにつれ、前方に巨大な魔力を感じるようになった。

 この迷宮ダンジョンは割と真っすぐなので見通しがいい。まだ半離1km以上先なのに竜種ドラゴンの魔力をガンガンに感じる。


 しかし今は奴を相手にするべきではない。だから気にしないようにして雑魚狩りを続ける。

 でもトロルって雑魚だっけ? まあ空即斬で倒せるものは今は全部雑魚でいいよな。そう思いつつばっさり倒して死骸を回収した時だった。


 不意に竜種ドラゴンの魔力が急に膨れ上がった。その場にいるのは視点だけなのにとっさに身構えてしまう。


 竜種ドラゴンは火球を放った。混ざり物キメラと同じ爆砕火球の魔法だろう。視点だけだから問題ない、そうわかってもとっさに避けてしまう。


 避けてすぐ気づく。この先もほぼ直線で火球を妨げるものはない。ヒイロ君が危険だ。


 とっさにヒイロ君を収納。迷宮ダンジョン内で動かす視点が無くなったので、ウーフェイ君経由でもう1箇所視点を出す。

 出した視点はかつてヒイロ君がいた場所へ全力で移動。竜種ドラゴンを越え、更に先へ。


 移動させた視点が火球を捉えた。そのまま火球の後ろ20腕40mを追うような形で移動させる。


 火球は先程までヒイロ君がいた場所の直近の壁へ激突し爆発。強烈な光と轟音、そして地響き。

 少し後、反対側にいるウーフェイ君側でも揺れを感じる。


 この爆発の威力から考えると、ヒイロ君を回収して正解だった模様。ただし迷宮ダンジョンの壁が壊れたりした様子はない。これは迷宮ダンジョンの特質のせいだろうか。


 なお騎士団のゴーレムは無事な模様。魔力反応がそのままだ。爆発地点より半離1km程離れていたのと、小型で岩に隠れるように配置されていたのが幸いしたのだろう。

 もっともそういった事を考えた上、一番安全な場所に配置したとも考えられるけれども。


 改めてヒイロ君を迷宮ダンジョン内、今度は南東端側に出す。ウーフェイ君のところへ轟音が響いてきた。

 なるほど、地面の揺れより空気中の音速の方が遅い。かつて勉強した通りだ。まさか異世界で確認するとは思わなかったけれども。


 さて、どうやら一定の距離より近づいて討伐すると竜種ドラゴンが反応するようだ。概ね限界距離は半離1km程度だろうか。


 ならあまり近づいての討伐活動はやらない事にしよう。

 しかし今回の爆砕火球の進路上にいた十何匹かの魔物が倒れた。これは回収しておきたい。


 でもその前に竜種ドラゴンの様子を確認しておこう。

 体高は1腕半3mくらいで色は黄色。いわゆる西洋竜っぽい形で、やや細長い恐竜形の背中に翼がついているというもの。


 魔物としては細身で見かけの迫力にやや欠ける。しかし魔力の圧がとんでもない。敵に回さない方がいい。直感的にそう感じる。


 取り敢えず偵察魔法の視点で見ているだけなら竜種ドラゴンも気付かないようだ。こちらに対する反応は無い。


 なら倒れた魔物の死骸を回収しよう。視点を再び竜種ドラゴンより南西側へ移動。竜種ドラゴンから遠い順に死骸をアイテムボックスへと回収していく。


 熱で焼けて魔石だけになったものも、脚だけ残っているなんて悲惨な状態の死骸もある。出来る限りお残しなく回収しよう。


 竜種ドラゴンから50腕100mのところまで接近。魔石だけ転がっているのを回収した時だ。


 竜種が振り向き、魔石を回収した場所を見る。回収に気づいたようだ。奴が口を開ける。私は反射的に視点を移動させる。


 炎が周囲を襲った。火の玉を吐くのではなく火炎放射器的な感じだ。勿論視点には被害はない。迷宮ダンジョンの壁にも影響はないようだ。


 しかし未回収の死骸だけでなく熱に強い筈の魔石ですら痕跡を残さず熱分解してしまった。

 どうやら奴から50腕100m以内については死骸を回収する事すら許さない模様。


 仕方ない。迷宮ダンジョン南西端から竜種ドラゴン付近まではこれで終わりにしよう。

 次は北東端、ウーフェイ君側から魔物討伐だ。

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