第33章 対・竜種作戦

第259話 現場到着

 お家がある村から離れた後、私はゴーレム車を降りる。

 出る時は皆に心配させないようにゴーレム車で出た。でも現地まで出来れば急ぎたい。


 シンプローンはアコチェーノよりも遠い。だから最高速で行くのは多分無理。出来るだけ疲れずかつ速い方法。という事で私はゴーレム車を収納しライ君にまたがる。


 ライ君を疲れない程度の速度で走らせつつ縮地+を連続起動する。アコチェーノへ何度か往復した結果、どれくらいの速さなら疲れずに済むか、概ねわかっている。


 今現在、現地で騎士団がどう活動しているかは不明だ。

 おそらく迷宮ダンジョン出口を警戒しているだけだろう。しかし竜種ドラゴン迷宮ダンジョンから出るのを食い止めていたりなんて可能性も否定できない。


 時間が経てば経つほど竜種ドラゴン迷宮ダンジョン出口へ近づく可能性が高くなる。


 早く到着して対処すれば被害の可能性が減る。だから出来る限り急ぎたい。

 シンプローン迷宮ダンジョンの入口があるイゼーレの集落までおよそ700離1,400km。このペースなら5時間かからない程度で着けるだろう。


 ◇◇◇


 イゼーレの集落と思われる場所まであと1離2km程度の街道上。

 この辺からならシンプローン迷宮ダンジョン周辺の様子もわかるだろう。そう思って私は一度ライ君を停める。

 

 現在の正確な時間はわからない。夜中は鐘が鳴らないし時計なんてものも持っていないから。

 でも空の感じからあと2時間程度で5の鐘の時間だろうと見当をつける。


 やはり5時間くらいかかった計算だ。いつもなら寝ている時間なのだがそれなりに気が張っているからか眠くはない。疲れもそれほど感じない。


 さてと。私は偵察魔法で周辺を調べる。


 強そうな人間の反応が集まっている場所があった。その周辺の様子を確認する。


 丸太の門と土壁、5つ程立っている大型の天幕。かつてラクーラ近くの迷宮ダンジョンで見たのと同じような感じだ。

 迷宮ダンジョン前の騎士団駐屯所に間違いないだろう。

 今のところ人の気配は落ち着いている。既に非常事態が起きている、という事はなさそうだ。


 偵察魔法で丸太の門の奥を探る。魔物止めの丸太杭が置かれた広場の先に洞窟が2つ並んで口を開けている。

 きっとこれが迷宮ダンジョンの入口だろう。偵察魔法で洞窟の先の地中を探る。


 その先の地中で私の偵察魔法が及ばない部分を確認。これがおそらくシンプローン迷宮ダンジョンだ。

 偵察魔法で見えない部分の形を探ってみる。迷宮ダンジョンの形状は細長いX字形。2本のトンネルが中央部分でくっついている形だ。


 厳密にはトンネルとは言えないかもしれない。向こう側の出口は2本とも崖崩れか何かで塞がっているから。そこまでこちらの入口からおよそ10離20km


 勿論迷宮ダンジョン内部はここからの偵察魔法では見えない。だから正確な距離では無いけれども。

 

 周囲の地形や植生等から当座の拠点に良さそうな場所を探す。

 騎士団から4半離500m程度離れた場所にちょうどいい空き地があった。森の中だけれど下が平らな岩場で樹木が生えていない。


 近づく道は獣道含めて無さそうだけれど、それが逆にちょうどいい。招かれざるお客様が来る可能性が低くなるから。

 私は縮地+である程度途中の障害を無視して移動出来るから問題ない。


 ライ君に乗ったまま現地まで移動。到着してライ君から降りたら、岩の上にアイテムボックスから在庫の土を出して、平らに造成する。

 しっかり魔法で固めたら上に2階建てのお家を出して拠点完成だ。


 こうやって移動用のお家を出すのは久しぶり。以前はほぼ毎日こうやってお家を出していたのになと思う。


 お家へ入ってぐでっと横になって身体は一休み。ただ作業は魔法で続行。

 とりあえずは私自身の安全の為に周囲の魔物のお掃除だ。偵察魔法&空即斬で片っ端から狩っていく。


 騎士団がいるからか、普通の山間部より魔物が少ない感じだ。魔物はゴブリンが中心。

 とりあえず周囲2離4kmの魔物は壊滅した。殲滅と言った方がいいのかな、パーティ名的には。私達が名乗っている名前じゃないけれど。


 では迷宮ダンジョン周囲を再確認といこう。特に騎士団の人員配置を中心に。

 これは私がこれからやる諸作業で被害が出ないか、邪魔にならないかを確認する為だ。


 迷宮ダンジョンの入口である2本の洞窟入口前に広場が作られ、その手前に柵や門があり騎士団員が配置されている。

 門より迷宮ダンジョン側には騎士団員はいない。

 かつて攻略したグランサ・デトリア迷宮ダンジョンと同様の配置のようだ。


 ならば大丈夫だな。ヒイロ君を起動。アイテムボックスから左の洞窟内部、ぎりぎり偵察魔法で見える範囲へと送り込む。

 そこからヒイロ君を歩かせて迷宮ダンジョンの内部へ。


 洞窟入口から5腕10m程度でヒイロ君が私自身の偵察魔法の視点から消えた。

 代わりにヒイロ君経由の偵察魔法で迷宮ダンジョン内部が見えるようになる。


 迷宮ダンジョンは予想通り細長いX字形。今ヒイロ君が入った左側の洞窟はXの左下、南西端に通じている。

 外から見えたもう一つの洞窟は南東端に通じているようだ。


 そしてX字の右上と左上、つまり迷宮ダンジョンの北東端と北西端はやはり土砂に埋もれて塞がっている状態。


 以前倒したクラーケン特殊個体以上に強そうな魔力の反応が迷宮ダンジョン中央付近にいる。

 これが竜種ドラゴンだろう。確かに無茶苦茶強そうだ。


 更に竜種ドラゴン程ではないけれど混ざり物キメラ並みに強そうな反応が1つ、北西側の端近い場所にいる。

 この魔物には空即斬が使えるだろうか。いずれ試してみる必要がありそうだ。


 内部に人間の反応はない。ただやや人間に近い魔力の反応が3つある。

 これはゴーレムだ。騎士団の魔法部隊が使用しているのだろう。


 騎士団ゴーレムは、

  ○ 迷宮ダンジョンの南東端から半離1km程中心へ向かった場所に2頭

  ○ 迷宮ダンジョンの南西端から半離1km程中心へ向かった場所に1頭

いる。

 いずれも小型犬サイズでヒイロ君より小さい。戦闘より偵察に向いたタイプなのだろうか。


 それでは迷宮ダンジョンを地中に引っ張り込めるか、試してみよう。


 迷宮ダンジョンの下部分の土を深さ半腕1m程度、やや広めくらいに範囲を設定して、アイテムボックスへ収納。


 下側の土を収納しただけでは迷宮ダンジョンは動かない。なら迷宮ダンジョンの周囲、半腕1m程度の一般の空間を収納する。


 ゴゴゴゴッ、ドーン。思い切り地響きというか地震。迷宮ダンジョンが収納して空洞になった部分へと落ち込んだ。


 ならこの方法で迷宮ダンジョンをもっと深くへと落とし込む事も可能だろう。ならば景気良くやってしまえ。迷宮ダンジョン落下作戦開始だ。


 まずは半離1km、下の土や岩等を収納する。


 先程の確認作業で周囲から切り離されていた迷宮ダンジョンは、あっさりと下へと落ちていった。ただ落ちる速度が思ったより遅い。空気抵抗によって速度が遅くなっているようだ。


 そう言えば私のアイテムボックス収納、収納した部分は真空になるのではなく、空気があるよなと思う。なら空気をも収納して真空、なんて事は出来るだろうか。

 

 迷宮ダンジョンの現在位置より下を意識して空気を収納してみる。収納した後は空気すらない、そんな風にイメージしながら。


 うまく行ったようだ。上にある空気に押される形で迷宮ダンジョンの下降速度は一気に加速。


 ならばという事で迷宮ダンジョンの上部分に収納した土の一部を出してみる。土と空気に押されて迷宮ダンジョンの落下速度が更に加速した。


 思った以上の速度になったので今回はこれで様子を見よう。落ちた時の衝撃で内部の魔物がどうなるかを確認したい。


 この衝撃が迷宮ダンジョン内部にそのまま伝われば、中にいる魔物のほとんどは死ぬだろう。

 勿論竜種ドラゴンはこれくらいでは死なないと思う。でも内部の魔物が死んで魔石を回収出来れば内部の魔素マナは間違いなく減少する。


 勿論ヒイロ君も無事ではすまない。しかしゴーレムは死なない。そして迷宮ダンジョン内にゴーレムがいれば偵察魔法で全域を見る事が出来るし、魔物の死骸を収納する事も出来る。


 もしこれで迷宮ダンジョンの魔物を倒す事が出来るなら、定期的にこの落下作戦を繰り返すなんて作戦が使える。

 ある程度内部の魔物が増えたところでこの方法で一網打尽。そう出来れば迷宮ダンジョンの弱体化も簡単だ。


 ただ迷宮ダンジョン内部にいるヒイロ君は迷宮ダンジョンが落下している事を感じ取れていない。


 これだけ下方向に急加速したなら、身体が浮くような感覚があってもおかしくない筈だ。それが感じられないという事は、落下して下に激突しても衝撃が迷宮ダンジョン内に伝わらない可能性が高い。


 その場合はこつこつと偵察魔法&空即斬で内部の魔物を倒していくしかないだろう。


 ドグワァーン! ドドドドドド。先程より数倍激しい地震というか地響き。迷宮ダンジョン部分が半離1km下の地面に叩きつけられた音と振動だ。


 しかしヒイロ君経由では特に振動等は感じない。どうやら迷宮ダンジョン内部には外部からの衝撃は伝わらない模様。


 なら仕方ない。万が一の際でも竜種ドラゴンが出にくいよう、出来るだけ深くへ迷宮ダンジョンを埋め、後はこつこつ魔物退治をして内部の魔素マナを減らしていくしかないだろう。


 地中深い場所は魔素マナがほとんど無い。だからしっかり埋めて外部と遮断すればこれ以上の魔素マナの流入は防げる筈。


 出来る限り深い場所へと落とし込んだ方がいい。勿論ゴーレムが操作できる範囲、そして迷宮ダンジョン入口の深さが私がゴーレムを出し入れ出来る範囲である必要があるけれども。


 とりあえず地下5離10km位が無難かな。

 ならあと4離半9km、一気に掘って落とし、上部分をしっかり土で埋めてしまおう。

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