第247話 大事な場所だから

 セレスは少し考えた後、頷いた。


「確かに、それなら出来ると思います。週1回で食事付き、便利な魔法を覚えられるなら、大抵の親が勉強会に参加させてくれるでしょう」


 セレスがそう思うなら、親の方は大丈夫だろう。私は頷いて賛意を示す。


「とりあえずどんな事から教えるか、どんな風に教えるか、サリアちゃんやレウス君にも意見を聞いて明日から考えようよ。


 まずはイメージかな。どんな勉強会にするか。どんな場所でどんな形でやるのか。頭の中でイメージしてみて、それから必要なものを考えて行けばいいと思うよ」 


 イメージか。ただ勉強会のイメージとなると……

 どうしても学校の授業が頭の中に思い浮かんでしまう。我ながら想像力が貧困だ。


「もしイメージがわかないなら、まずは思いついた事を何でも言ってみればいいと思うよ。最初は何を教えるかとか、どんな場所がいいかとか」


 確かにリディナの言うとおりにすると考えやすい。流石だと思う。


「最初に教えるのは簡単で、効果がわかりやすい物がいいですね。灯火魔法なんてどうでしょうか」


 なるほど。そう思ったので頷く。


「確かにそれがいいかもね。あれは使えれば便利だし、覚えるのも簡単だし。ただ属性的に灯火魔法が苦手な人がいるかもしれないから、その時は水を出す魔法を代わりに教えるなんてどう?」


「そうですね。ならいっそ、最初に生徒全員の魔法に関するステータスを調べてわかるようにしておきましょうか」


「そうだね。そうすれば自分のステータスを知る為にも文字や数字の勉強が必要だと思ってくれるし」


 リディナとセレスの会話で少しずつ勉強会のイメージが出来てくる。

 でもそうなると会場としてそれなりに広い場所が必要だ。それも屋内で、出来れば机を使えるような場所。


 何処かいい会場があるだろうか。私は偵察魔法で確認しながら考える。


 領役所支所はカウンター付きの小さい事務所と待合室、倉庫と仮眠室だけの建物。


 セドナ教会の区画には居住棟と食堂、倉庫等最低限の建物しかない。開拓団員が増加中なので居住棟の増設で手一杯。集会場や教会の建築まで手が回らない状態だ。


 典礼儀式も通常はごく小さい部屋で行われている。人数が集まる時は入る部屋が無いので屋外を使っている状態。


 しかし実はこの村の中にもちょうどいい建物がある。この家の横にある聖堂だ。

 ただ私達の農場に他の人は入れたくない。


 ならば何処か別の場所、例えば領役所支所の隣の空き地に新しく建物を建てるのはどうだろう。

 教室に使う程度の建物を作るのは簡単だ。少なくとも私にとっては。


 しかし聖堂を使うという思いつきは私の心から消えなかった。

 何故だろう。わからない。


 わからないまま聖堂について考えてみる。

 元々私達がこの場所を選んだのは聖堂があるからだった。しかし実際には聖堂を使う事はほとんど無い。本棚を置いて図書館代わりにしている程度だ。


 聖堂として使ったと言えるのはただ1回、あの神様に会った時だけ。あとはただ広い場所として、そこにあるから使っているだけだ。


 ならこの聖堂を公共区画かセドナ教会の区画に移動する、というのはどうだろう? 

 私達は聖堂が使えないと困るなんて事はない。だから移動させても問題はない筈。

 

 でもそう提案する前に移動出来るかどうかを確認しておこう。

 偵察魔法で聖堂を確認して収納してみる。問題無い。勿論今回はすぐに元に戻すけれど、収納も取り出しも問題無く出来る。


 ならこの案についてリディナとセレスはどう思うだろう。

 2人の会話が途切れたところで聞いてみる。


「もし勉強会にお家の隣にある聖堂を使うなら、公共区画かセドナ教会の区画に移動させる事が出来るけれど、どう思う?」


「えっ!?」


 リディナもセレスも驚いたような表情。いきなり違う話題を振ってしまったから仕方ない。

 しかし会場の話は間違いなく必要だ。だから2人とも考えてくれると思う。


 少しの間の後、リディナが私の方を見て口を開く。


「確かに建物としてはちょうどいいとは思うよ。村のシンボル的に公共用地においても、聖堂として教会が使っても。広さは十分あるし頑丈だし、フミノが掃除したり直したりしたから外観もいい感じだしね。


 でもフミノはいいの? フミノにとってあの聖堂は大事な場所のような気がするのだけれど」


 確かにあの聖堂は私にとって特別な場所だ。中に入ると何か心がすっと楽になる。


 神様は言っていた。『此処に繋がる場所』だと。そのせいかどうかはわからない。しかし私にとっての何らかの親和性がある場所なのは間違いない。

 でも、だからこそ……


 徐々に何か、文字にも形にもならなかった考えというか思いがまとまっていく。なぜ聖堂を移動させてまで使おうと思いついたのか。

 そして言語として認識できる形で私は理解する。


 そうだ、私は聖堂の力を借りたいと思ったのだ。今度は私にではなく子供達に対して。だから新たな建物を建てるのではなく、聖堂を持っていこうと思った。


 気づいたからリディナの今の質問にも答えられる。


「大事な場所。だからこそ活用したい」


「わかった。セレスはどう思う?」


「フミノさんがそう言うなら。ただあの聖堂って移動できるんですか」


 それは試してみたから大丈夫。私は頷く。


「問題ない。アイテムボックスに出し入れできる」

 

「ならまずはサイナス司祭と相談かな。あの人なら教会の利害に関係なく、どっちがいいか判断してくれると思うから」


 これでいい。そう思ったので私は頷く。

 あ、でもそのままではまずいか。今はうちの図書館として使っているから、本棚と本は回収しておこう。


「聖堂に置いている本は、聖堂を移動した後に専用の建物へ移動するから」


「後は机と椅子をある程度作った方がいいかな。今、聖堂の中は本棚の他には祭壇しかないから」


「そうですね。聖堂を使う人が便利なように、中に椅子や机を入れたほうがいいですよね」


「その辺もサイナス司祭と相談してみるね。必要な数が出たら悪いけれどフミノ、お願いしていい?」


「勿論」


 私は頷く。

 木材はこの前アコチェーノへ行って大量補充済み。そして今の私、木工技術には自信がある。机や椅子程度なら釘を1本も使わずに、そこそこの速度で量産可能だ。


「なら魔法や読み書き等を教える勉強会を始める事と、聖堂の建物を移動させて使う事。これを明日、サリアちゃんやレウス君にも言わないとね」


「これでサリアちゃん達にも遊び友達ができるといいですね」


 確かにそうだな。私は頷いて同意を示す。

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