第28章 お家に帰ろう
第233話 2回目の春
相変わらず私達の農場は順調。
麦は青々としているし、豆や芋の種まき、植え付けも終わった。
エルマくんは相変わらず甘えん坊だし、アレアちゃん達山羊一家ももちろん元気だ。
マスコビーに至ってはわんさかという感じで増えまくっている。これ以上増えても大変なので毎日卵を探しては採取しているが、それでもいつの間にか小鴨が歩いていたりする。
更に貯水池、予想外のものが育っていた。
「川マスだよね、これ」
「そうですね。最初に入れた小魚のなかに混じっていたみたいです」
自在袋に出し入れして寄生虫等を殺した後、リディナが塩焼き、天ぷら、カルパッチョにしてくれた。
「美味しい。いままで食べた魚でもトップクラス」
私の本音だ。
「本当ですね。もっと捕れれば面白いです」
「流石にたくさん捕るのは無理かな。養殖場みたいにしないと。でも養殖で餌を撒くと水が汚れて貯水池としては使えなくなるよね」
「確かにそうですね。残念です」
私も残念だ。一瞬、本気で養殖池を作ろうかとまで思った位に。
あとは6本ほど植えた柑橘類の樹木も大きくなってきている。3本はレモンで残り3本が夏みかんのような大きい玉がなる品種。
「このレモンや蜜柑も今年は実るかもしれないですね」
セレスがそんな事を言っていたので、今からもう楽しみだ。
◇◇◇
さて、新しい村はあっという間に人が入った。開拓団もセドナ教会から6人程修道士が来て動き出した。
「代表者のサイナス司祭はラテラノの開拓村にいた修道士さんです。アリサちゃん達もヴィラル司祭も元気だって言っていました」
「魔猪を引き取って貰った時に会った、身体強化を使える修道士さんだよ。あの後ヴィラル司祭に教わって治療魔法も使えるようになったって言っていた。人柄的にも安心して大丈夫な感じかな。あくまで今の印象ではだけれど」
「ここまで最初から行き届いた開拓地ははじめてだって言っていました。あと、一般の村人の方へも定期的に農業指導等をしてくれるそうです。そういう契約を領主と結んだと言っていました」
早速挨拶に行ったリディナとセレスからの報告だ。なるほど。私も安心して良さそうだ。
それでも私はこの村全体としては微妙に不安がある。それは偵察魔法で上空から村の土地を見て感じたのがきっかけだ。
既に春、種まき、植え付け等をはじめなければならない時期だ。畑も一応私達の魔法で耕してあるが、畝を作ったりする必要はある。
開拓団は畑の全部ではなく3割程度を使う方針のようだ。
人が増えたら使用する畑を増やすのか、それとも時期をずらして別の作物を作るのかはわからない。でも畑の状況を見た限りは問題は無さそうだ。
問題はそれ以外、一般入植者の方。
概ね7割はそれなりに農作業をしているし、畑もそこそこ出来ている。
勿論畑によって綺麗、いまいちというのはある。畝が少々曲がっていたり作りが荒かったり、進度がまちまちだったりもする。
でもその程度はまあ個性というかそこの方針と思ってもいいだろう。
問題は残り3割だ。
たとえばいわゆる畑らしい畑とは違う方法で何かをやろうとしているらしい場所。これは独自農法という奴なのだろうか。
ほんの少しだけ手をつけてそのままになっている場所もある。更には入植しているのに何もしていないように見える場所も。
これらは残念ながら想定内だ。入植開始後、此処へ連絡に来たカレンさんも言っていた。
「この土地に入植して貰う前に審査はしています。書類審査だけで無く面接もしました。
犯罪歴があるか。素行不良者ではないか。植える種や苗等を購入し、更に収穫して収入を得るまでの資金があるか。
農業経験がある、もしくは農業を始めるつもりである程度の勉強をしているか。ここで農業を続ける意思はあるか。
それでも上手くいくのは6割程度でしょう。もう少し低いかもしれません。
此処のように十分な土地を、しかも開拓済みで家付きなんて条件で貸与されるなどという事はまずありません。ですので通常は移住を考えるにしろ、何か他に収入を得る手段なり方法なりを考えると思うのです。
勿論環境的にそのような事が出来なかったという者もいるでしょう。ですがそう言った能力が無い、思考力が欠けているという者も残念ながらいると思われます。
また往々にしてそういう者ほどうまくいかないのを他人のせいにする傾向があります。ですので手助けが逆効果になる事も残念ながら多いようです。
ですので村の方で農業がうまく行っていない者がいたとしても手助けはしないで下さい。助言や教示については農作業の技術的な事は開拓団のサリナス司祭が、それ以外の事については領役所支所の者が対応するようにしていますから」
かなり厳しい言い方だが、実際にそうなのだろう。リディナやセレスも頷いていたし私も思い当たる事がある。
だから気にしない方がいい。むしろ7割近くがそれなりに農作業をしているなら予想よりはまし。そう思うようにしている。
ただそういう家の子供が少々気になるのだ。ちゃんと食べさせて貰っているのだろうかとか。
考えてもしかたない事はわかっている。他人の家の子はその家に任せておく方が正しいというのもわかる。
ただそれでも気になってしまう。以前の自分と重ねてしまうからだと思うけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます