第232話 寄贈の手続き

 お家には辛うじてミメイさんより先着した。

 ぎりぎり先に着いたと言うか、ほぼ同着と言うか。

 途中で私がエルマくんを迎えに行ったのが原因だ。


 草地へ行くまでは縮地を使用した。

 ただ帰りはエルマくんと一緒だから縮地を使えない。

 なので身体強化して走って帰った。


 エルマくんは身体強化した私が走る程度は余裕でついてくる。

 ただ草地からお家はそこそこ遠い。

 ミメイさんの乗るゴーレム馬は縮地を使わなくてもかなり速いし。


 ミメイさんがゴーレム馬から下りるのとほぼ同時にエルマくんが走り寄っていく。

 そのまま頭をくっつけて撫でろの姿勢。


 ミメイさんはエルマくんを撫でながら私達の方を見る。


「そろそろ出来そうだとメレナムから連絡があった。実際に来て見てみると想像以上」


 ふふふふふ、此処の出来は正直自慢できる位だと思っている。設計したセレスや手伝ってくれた2人のおかげだけれど。


「ちょうどおやつの時間だし、食べながら話そうか」


「申し訳ない。でも楽しみ」


 エルマくんも一緒に全員でお家の中へ。


 本日のおやつはマレイタというシュークリームと似た料理。シュークリームなら中はクリームだけれどこれは割と自由で、今回のものは塩漬け肉&塩味の水切り熟成ヨーグルト。


 ただし私のものだけは甘い水切り熟成ヨーグルトとベリージャム入り。甘党の私にリディナがそういう仕様のも作ってくれている。


「ミメイさんは中身、甘いのとおかず系のとどっちがいいかな?」


「ならおかず系」


 今回も甘いのは私専用の模様だ。

 なおエルマくんはミメイさんの横でお座りしている。ミメイさんの左手でなでなでして貰っていてご機嫌。


「エルマにお土産、やっていい?」


 お土産という言葉を聞いたエルマくん、びしっと背筋をのばしていい子の姿勢になった。

 どうやらお土産という言葉をおぼえたようだ。やはり賢い。


「勿論。ありがとう」


 餌をやる方と貰う方、どちらも嬉しそうにやっているのをしばし観察。


「さて、今日は寄贈の為の書類を持ってきた。ただその前にメレナムとカレンから絶対確認するように言われた事がある」


 何だろう。


「これらの土地の今の所有者はフミノの商会。だからこれらの出来上がった農地の所有権を販売する事も可能。

 使用料を取って貸す事も出来る。今の状況なら相当の使用料をとる事にしても借りる者は多い筈。


 寄贈した場合これらの収益が得られない。寄贈せずこういった形で収益事業とするのも違法ではない。むしろ此処を開拓した者として正当な行為。


 それを踏まえてもう一度確認。本当に寄贈してしまっていい? これらの収益を得られなくてもいい?」


 何だ、そういう内容か。


「勿論。元々そのつもりだったしね。それに私達はここの農場だけで手いっぱいだしこれで十分。貸し出して管理とか面倒だし、売る気も無いし。

 フミノもセレスもそれでいいよね」


 勿論だ。私もセレスも頷く。


「わかった。それではこれが書類。確認した上でサインをお願い」


 どれどれ、3人で読んでみる。うん、やっぱり言い回しが難しい。しかし何度もこの手の書類を読んだからか、何となく書いてある理屈がわかるようになってきた気がする。


 うん、多分私達の考え通りになっている。


「この書類で大丈夫だと思うけれど、フミノとセレスはどう思う?」


「大丈夫だと思う」


 私はそう答える。


「私も大丈夫だと思います」


 セレスも同じ判断のようだ。


「それじゃフミノ、此処にサインお願い。この書類はゴーレム製造者登録証を持つフミノの商会扱いになっているから」


 サインをして、これで書類完成。


「わかった。それじゃこの書類は預かる」


 ミメイさんが書類を受け取って自在袋に納めた。


「明日、私が道路工事する。他の工事は来週以降になると思う。今、港の施設増強をやっているから、多分その後」


「ミメイさんは他の部署とも連携しているの?」


「建設関係には私と同じ、メレナム直属扱いの魔法使いがいる。男だから顔は合わせない。けれどメレナムから情報が入ってくる」

 

 なるほど、という事はだ。


「ミメイさんの立場はメレナムさん、領主直属の魔法使いって事でいいのかな」


 リディナの台詞にミメイさんは頷いた。


「今の名目はそう。実際は割と自由。今日みたいにカレンの手伝いで出掛けたり、頼まれて土木工事をしたりという感じ。


 魔物がまだ多かった頃はメレナムの指示を受けて討伐もしていた。ただここ一年は魔物や魔獣の討伐指示は来ていない。誰かが引っ越してきて一気に魔物が減ったから」


 誰かとはきっと私達の事だろう。

 

「そっか。もしフリーならここに誘おうかなと思ったんだけれど」


「気持ちは嬉しい。でも今の仕事も気に入っている」


 そう言った後、ちょっとだけの間の後に。


「でもここに時々遊びに来て、いい?」


「ミメイさんならいつでも大歓迎だよ。エルマくんも喜ぶしね。あと今日はアレアちゃん達に会っていく? もうすぐ放牧から戻すけれど」


 おっと、明らかにミメイさん、視線が反応した。


「一緒に行っていい?」


「勿論だよ。コーダちゃんとセーナちゃんも大きくなったしね」


「楽しみ」


 やっぱりミメイさん、動物好きなんだなと感じる。そしてそれは動物の方もある程度わかるようだ。


 エルマくんなんてもうミメイさんにべったりだし。まあ毎回おやつを貰えるからというのもあるけれども。 

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