第168話 迷宮の魔物

 防衛中の騎士団に攻撃を受けた件を伝えた後、再びライ君牽くゴーレム車でラクーラの街へ。


 まずは冒険者ギルドへ直行。回収したコボルトの魔石105個を出した後、情報報告を兼ねて聞いてみる。


 勿論聞くのはリディナだ。今回は担当さんが若いとはいえ男性だったし。

 それでもカウンターから逃げなくても大丈夫になった分、私、進化している。そう思いたい。


迷宮ダンジョン関係の報告となります。この図のこの地点とこの地点で、火属性の魔法攻撃を受けました」


「この地図は既に報告済でしょうか」


「ええ、地図については昨日テラーモの冒険者ギルドで報告しました」


「ありがとうございます。それでは資料を確認して参ります。少々お待ち下さい」


 これであの攻撃をしてきた魔物の正体、そして対策方法がわかればいいのだけれども。そう思いつつ私達は担当さんが戻るのを待つ。


 おっと、今度は担当さん、中年男性を連れて戻ってきた。


「大丈夫?」


「問題無い」


 心配するリディナにそう返答。

 確かに以前は苦手だった。具体的に言うと若い女性<若い男性<中年女性<女性老人<男性老人<中年男性という順で辛くなっていく。


 つまり中年男性は最も苦手。しかしヴィラル司祭のおかげかこの年齢の男性にもかなり耐えられるようになっている。


「お待たせしました。当ギルドのギルドマスターを務めておりますマルコニと申します。当ギルドでは私が一番魔物に詳しいので私が聞かせていただきます」


 そこで最初に受付した若い男性は頭を下げ、別のカウンターへ。


「それでどのような魔物が出たのでしょうか。わかる事を出来るだけ詳しく教えて下さい」


 よく見るとこの人、何気に細マッチョでいかにも歴戦の冒険者という雰囲気だ。きっとそっち上がりなのだろう。


 それでも口調や態度に荒さは見えない。これは元からなのだろうか。それともギルド職員となってから直したのだろうか。


 大丈夫、これなら私も耐えられる。恐怖耐性(3)なら余裕だ。 

 

「姿を直接確認はしていません。曲がった洞窟の奥から火属性の攻撃を受けただけです。


 この奥から火球の形で飛来してきて、避けたところ壁にあたり爆発しました。またもう1回、こちらで受けた攻撃はこの場所からやはり火球として飛来、水属性の水の壁アクアエ・ムーリエラで止めました。


 この魔物についての情報はこれだけです。また他に確認した魔物はコボルトとエルダーコボルト、回収出来た魔石と同じ種類だけとなります」


「わかりました。火属性レベル5、爆砕火球に相当する魔法を使用する魔物ですか」


 あの魔法は爆砕火球という魔法のようだ。レベル5にしては怖すぎる気もする。でもよく考えたら私の空即斬はレベル4だしそんなものか。

 いずれにせよ魔法名さえわかれば今はいい。後で図書館ででも調べればそれで済む。


 ギルドマスターの話は続いている。


「このグランサ・デトリア迷宮ダンジョンで確認されたのはこれが初めてとなります。

 ですが類似の魔物についてはブレーンナベスやシンプローン、フーレジェス等、遺跡洞窟系の巨大迷宮ダンジョンで確認報告があります。


 おそらく今回の魔物も、それらの場所で確認されたものと同じ混ざり物キメラと呼ばれる魔物の一種ではないか。そう思われます」


 キメラか。日本にいた頃RPGのモンスターとして聞いた事がある。どうやら此処では実在するようだ。


「どのような魔物なのでしょうか」


「遭遇報告が少なく、ましてや討伐報告は確実なものにかぎれば5例しかない魔物です。ですので判明している事はそれほど多くありません。


 混ざり物キメラについて詳しくはこちらをお読み下さい。ギルド内閲覧用の資料ですので持ち出しはご遠慮願います。


 混ざり物キメラらしき魔物の攻撃を受けた件につきましては、報告報酬を正銀貨3枚3万円程追加させていただきます。また他ギルド及び警備を担当する第四騎士団の方にも報告を上げさせていただきます」


 ギルドマスターが何処からか数枚の紙を取り出し、リディナに渡すのを見ながら思う。混ざり物キメラ、報告報酬が正銀貨3枚3万円とは安いかなと。

 しかし残念な事にこれがギルドの規定額。


 考えてみれば正銀貨3枚3万円とはゴブリン10匹分。私達ならともかく一般人なら死傷者も出かねない数だ。そう考えると私の感覚の方がおかしいのかもしれない。


「わかりました。こちらを読んで、必要部分を一部筆写したいのですけれど、場所をお借りできますでしょうか」


「それでは相談室にご案内します」


 カウンターの更に先にある小部屋へ案内される。6畳程度のごく狭い部屋で、中にはテーブルと椅子6脚だけ。

 ただ窓があるので今の私なら大丈夫だ。


「この相談室をお使い下さい。褒賞金の計算が終わりましたら担当にこの部屋まで持って来させます」


 ギルドマスターはそう言って出て行った。


「それじゃフミノ、複写魔法だっけ、お願いしていいかな。私は自信無いから」


「わかった」


 確かに筆写よりその方が早い。今後読み直したくなる事もあるだろうし。アイテムボックスから銅板と紙数枚を出してコピー開始。


 複写しながら斜め読み。

 ふむふむ、混ざり物キメラという名前はその名の通り何種類かの魔物が混ざったような外見からか。しかもこの外見、固定したものではなく変化する事もあると。

 ただ外見が変化しても魔力反応は変化しない。だから同一の魔物であると判断は可能とのこと。


 今まで確認された混ざり物キメラは攻撃魔法を持っていて、今まで確認されたのは火属性、水属性、風属性。個体によって得意な属性は異なり、外見が変わっても同一個体なら使用する魔法は変化しない。


 そしてこの魔物は迷宮ダンジョンの奥、濃密な魔素によって空間が変質した場所でのみ確認される。


 概ねこんな感じのようだ。

 

 なるほど、あの偵察魔法で見えない部分は空間が変質しているようだ。それならどうやって対処すればいいだろう。


 なんて事を考えつつ複写完了。


「ざっと読み終わった」


複写した資料をセレスに、複写元の方をリディナに渡す。


「ありがとうございます」


「ありがとう。それじゃ読むね」

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