第139話 作業と質問終了
「これは全て貴方の魔法でおやりになられたのでしょうか。魔力の動きがあまり感じられなかったのですが」
「ご覧になられたのですか?」
「空識覚、いわゆる偵察魔法は私も使えますので」
なるほど。なら私がやった土木工事もどきをリアルタイムで確認出来ただろう。
私は頷いて答える。
「ええ。正確には魔法ではなくスキルですけれども」
「それをここで使って、私にこれが出来る事を明かしてもよろしいのでしょうか」
なるほど、その事を気にしてくれた訳か。
「司祭なら問題ないでしょう。他に言う事も無いと思いますから」
その程度にはこの人を信頼してもいい。そう私は判断している。
「わかりました。ありがとうございます」
「それで木や草はどういたしましょうか。堆肥にしたり燃やして草木灰にするなら指定の場所に出しますけれど」
「それでは図面のこの場所に出して頂けますでしょうか」
司祭が示したのは今回開拓した場所の中央付近。
確かにここなら肥料化した後、他に持っていくのにちょうどいい。しかも周りが空いているので派手に燃やしても延焼する心配が少なくて済む。
収納した木や草を一気にそこに出す。こんもりと山状態になってしまった。
量が多すぎたのも原因だがそれだけではない。樹木が枝付き葉つき根もそのままの状態だ。その分かさが増してしまい、結果小山のようになってしまっている。
「流石にこれは少し酷いですね。少し切り刻んでおさまりがいいようにします」
適当に切り刻むだけなんて簡単だ。切り刻む事を意識しながら収納と取り出しを繰り返せばいい。
おっと、ここの木、ちょっと変わっている。樹皮がやたら分厚くて、少し弾力性もある感じだ。これはひょっとしたらコルクだろうか。
なら後に使えるかもしれない。少し貰っておこうかな。
「すみません。ここの木の樹皮、少し面白いので貰って行って宜しいでしょうか」
「ええ勿論です。好きなだけどうぞ」
なら遠慮なくいただこう。これも取り出して収納してで分離可能だ。アイテムボックススキル、本当に便利でいい。
大量のコルクっぽい樹皮をゲットした。後でこれで何か作れないか考えてみよう。でもこのままではまだ堅いし少し樹液っぽいものもついている。
この樹皮は一度お湯で洗って樹脂を落とそう。その後蒸してみればいいかな。そうすれば柔らかくなりそうだ。
何に使えるだろう。何かあったような気がするのだけれど……
「ありがとうございます。これなら今週中には小麦の播種にかかれそうです」
物づくり妄想に入りかかっていた私をヴィラル司祭の言葉が引き戻す。
「大丈夫でしょうか。まだ耕してもいないですし、木や草のゴミもそのままですけれど」
「その辺は魔法でどうにでもなりますから」
そうだった。この人達は元エールダリア教会、魔法の専門家だ。
「それにしても何故ここまでしていだだけるのでしょうか。
勿論私達としては大変ありがたいです。ですがこれだけの力をお持ちならばもっと別の使い方もあると思うのです。もっとお金になるような使い方も。
また逆に目立ちたくない、そういった方に目をつけられたくない。それならここで力を使う事はマイナスでしかない筈です」
確かに目立つのは嫌だ。そしてそれならここでは目立つ事をしない方がいい。それは非常に正しい意見だ。
ただ正しいならそうするべきだろうか。私はそう思わない。
「私がそうしたかったからです。此処が気に入ったからでしょうか。困っている人を出来る限り受け入れようとしていて、その為にまず自らが動くという姿勢が」
それで思い出した。聞こうと思っていた事があるのだった。
「あと気にいっているのはこの聖堂の雰囲気でしょうか。
本来私は他人が得意ではありません。話すのも苦手ですし、いつも言いたい事すら話せなくて困っているくらいです。
ですが此処では自然に話せます。意識して考えなくても自然に言葉を出すことが出来ます。
これは何か特殊な魔法か何かがあるのでしょうか。それとも司祭が何かスキルを使われているのでしょうか」
そうそう、この事を聞こうと思っていたのだった。
そしてやはりここではすらすら言葉が出る。何故だろう。
司祭は少し考えるような間をおいた後、口を開く。
「私の魔法やスキルではありません。確かに私はそれに近い魔法を持っております。例えば静楽識、心を落ち着けて話しやすくする魔法ですね。聖職者は人の悩みを聞くことが職務ですから。
しかし貴方に対して起動はしていません。それは魔力を感じて頂ければわかると思います」
確かにそうだ。司祭から現在出ている魔力は私の方に向いていない。
今起動している魔力は空属性系統と水属性系統の魔力2つ。いずれも私から見て左前方向だ。おそらくはゴーレム操作と偵察魔法だろう。
「ええ。なら何故でしょうか」
「この場所は今こそセドナ教会の開拓地として使っておりますが、元はもっと古い宗教の聖地だったと考えられています。この石造りの聖堂も神像もその時代のものです。
おそらくその頃からの力の残滓のようなものが残っているのでしょう。それがかつてここで祀られていた存在に縁のある貴方に影響しているのではないでしょうか」
なるほど。私をこの世界に連れてきてくれた神の力か。それはそれで納得できなくもない。
私がこの世界にくる寸前、神様と実際に会った。あの時は怖くてほとんど話せなかった。
でもこの世界でリディナ達と出会った。対人恐怖症もかなり治ったし恐怖耐性もついた。あの頃よりは対人能力もそれなりにましになった。
その辺+神様の力で今のように会話が出来る訳か。それはそれで理屈として納得だ。
しかしそれならばだ。私は思い浮かんだ疑問を口にしてみる。
「こちらを開拓する事を決めたのは、この聖堂があったからでしょうか。それらの力に期待する等の意図があったのでしょうか」
「いいえ」
司祭は首を振った。
「この聖堂の存在は少なくとも我々には知られていませんでした。
開拓が決まり、此処へ来てはじめてこの建物がある事を知ったのです。調べたところ頑丈で倒壊の恐れも無いので蔦等を取り除いて清掃した後、そのまま使っております。それだけの筈です」
なるほど。
それではもうひとつ質問だ。
「それでは此処と同じ神を祀っている古い遺跡なり聖地なりは他にあるのでしょうか」
司祭は首を横に振る。
「残念ながら私の知識にはありません。そのようなものが残っていたとしても、そのままであり続けるのは困難でしょう。時代に応じて形を変えられ、歪められてしまうからです。
此処は現在の街や集落から離れた台地の上にあります。ですから人に触れられる事無く長い時間そのままでいられました。
その結果、昔のままの形で残っているだけです。
ですのでもし此処と同様に古い聖地が残っているならば、それは人に知られていない場所にあるのでしょう」
なるほど。人がいなかったからこそ残っていたか。
「わかりました。ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ本当にありがとうございます。
今日、大変な作業をしていただいたおかげで小麦の播種に間に合います。そればかりか私個人的には身体を完全に治療していただき、更にゴーレムまでいただいてしまいました。
本当にどれほど感謝しても足りません」
その辺は感謝する必要はない。私がそうしたかっただけだから。
でもついでだから聞いておこう。
「これでこの開拓地は大丈夫でしょうか。あと私が使用した治療の方法はわかりましたでしょうか」
「ええ。おかげでこちらの開拓地の運営もかなり楽になります。治療方法も昨晩、念の為試してみました。確かにこの方法を使えば失った部分、機能を取り戻せなかった部分の治療も行う事が出来ます。
今日の夜から早速この方法で実際に治療を行っていくつもりです」
なるほど。
なら私が此処で出来る事はひととおり終わったかな。
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