第131話 延泊の決定

 その辺まで手を出すならある程度の日数が必要だ。

 なら今のうちに司祭に許可を貰っておこう。


「追加でお願いをして宜しいでしょうか」


「何でしょうか」


「明日以降しばらくの間、こちらに滞在してもよろしいでしょうか。家は持ち運んでいますし食料は自分で持っております。ですので目立たない空地を貸して頂ければ助かります」


「それは構いませんが、宜しいのですか」


 何か私の意図がバレている気がする。でも構わない。私がやりたいと思ったのだ。


 それにリディナもセレスも賛成してくれるだろう。相談する前にこう考えてしまうのは甘えなのかもしれないけれど。

 

「ええ、少しとどまって此処を見てみたいと思ったものですから」


 埴輪で身体を動かせない筈。なのに頷いた気配がするのは何故だろう。そんな事を思う。

 そうだ。お願いをもう少しだけ追加しておこう。


「もしかしたら今回、私達が護衛して来た3人に私達の仲間が魔法を教えたいというかもしれません。もし宜しければその許可も頂ければありがたいです」


「無論構いません。ですが貴方方の直接的な利益にはならないだろうと思われます。それでも宜しいのでしょうか」


「ええ。もしそうしたいと思うのなら、その行為だけで彼女にはメリットとなる筈ですから」


 うん、これでいい。


「それでは家を出す場所は明日、相談いたしましょう。朝食以降ならいつでも大丈夫です。ゴーレムのうち1体はかならずこちらにおりますから」


「ありがとうございました。それでは明日からしばらくよろしくお願いいたします」


「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」


 私はもう一度頭を下げた後、神像の前を辞す。建物の外へ出て扉を閉める。


 外は星明りでそこそこ明るい。それにゴーレム車はすぐそば。迷う事はない。


 ゴーレム車の中、後部から光が漏れている。真ん中は暗く魔力の反応も無い。

 つまりリディナはまだ起きていて、セレスは帰っていないという事か。


 なら取り敢えずリディナには話をしておこう。ゴーレム車の前部分に入って、扉を閉めた後声をかける。


「リディナ、今、いい?」


「大丈夫だよ。何かな」


 すぐに返答があった。


「ここに少しとどまって様子を見てみたい。いい?」


「いいよ。セレスもきっと賛成するんじゃないかな。あの子供達の事が気になっていたようだし」


 あっさりそんな台詞が返ってくる。

 その声と返事の雰囲気から私は思った。リディナ、この展開を予想していたのではないだろうかと。


 此処へわざわざ立ち寄った事も、打ち合わせなしで一泊しようだなんて話をまとめたのも。

 他に理由が考えられない。


 しかしどうやってそんな事を予想できるのだろうか。未来予知なんて魔法は持っていない筈だ。

 だから軽い調子で簡単に聞いてみる。


「予想していた?」


「予想とまでは行かないけれどね。そういう可能性もあるかとは思っていたかな。

 何ならセレスには私から話しておくね」


 うーむ。何から何まで。

 何故に私の事がそこまでわかるのだろう。そう思うけれどつい甘えてしまう。


「ありがとう」


「わかった」


 そうだ。それだけではなかった。司祭に魔法を教えていいという許可も貰ったのだ。これも報告した方がいい。


「あと、司祭にタチアナさん達に魔法を教えていいという許可も貰った。セレスに言っておいてくれると助かる」


「そこまで話したんだ。フミノにしては珍しくない?」


「相手がゴーレムだと話しやすかった」


 本当はきっとそれだけが理由ではないだろう。なおかつヴィラル司祭の魔法とかスキルという訳でもない。


 魔法やスキルはステータスシートから隠すことが可能だ。しかし何かが発動していればそれを感じ取る事は出来る。

 ヴィラル司祭からはそのようなものは感じなかった。


 あの時自分でも不思議な程言いたいことが口から出てきた。これは何故なのか、今考えてみてもわからない。


 ただその辺余分な事をリディナ達に話す必要は無いだろう。危険があれば別だけれど、この件やあの司祭に関してはそんな心配をする必要は無さそうだから。


 それでは寝るとしようか。今となって疲れを感じるようになった。やはり先程、私らしくなく会話なんてしたことが原因に違いない。


 灯火魔法を使わないままベッドにもぐりこんで目を閉じる。でもすぐには睡魔は襲ってこない。

 なら討伐で時間を潰そう。この近くで開拓村に近づきそうな反応は……


 ◇◇◇


 朝食時、セレスに聞かれた。


「本当に此処にとどまっていいのでしょうか。私があの2人を気にしている事に気づいてそう決めたのなら申し訳ないです」


「ごめん。此処でやりたい事が出来ただけ。迷惑なら私の方が申し訳ない」


「フミノが此処をしばらく見てみたいと言ったからそうしようかと相談しただけだよ。

 ただラツィオに急ぎたいとか、逆にここであの子達が魔法をおぼえるまでいたいとか希望があったら言って欲しいかな。仲間なんだから」


「わかりました。私もしばらく此処にいたいです」


「なら問題はないよね。ただ意見があったら遠慮しないで言ってね。こうしたいとか、そんな事でも構わないから。あくまで対等な仲間だから遠慮しちゃ駄目、いい?」


「わかりました」


 よしよし。


「朝食後、家を出す場所をヴィラル司祭に相談しに行く。用件が無ければ同行お願い」


「わかった。セレスはどうする?」


「私も一緒に行きます」


 よし、これで家の場所を全員と相談しながら出せる。やはりパーティだから全員の意見が通るようにしたいし。


 私、独断専行が多い。自分でも気づいている。今回此処に長居する事も私の独断だ。

 その辺については今後注意しよう。リディナやセレスに愛想をつかされる前に。

 2人の優しさや遠慮に甘え過ぎないように。

  

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