第14章 3人目の仲間と
第104話 パスカラ到着
「朝食は移動しながら食べよう。その方が時間を節約出来るから。それに盗賊どもの声を聴きながら朝食ってのも趣ないしね」
そんなリディナの提案で朝食はゴーレム車で。メニューは概ねいつもと同じでパン、サラダ、ロースト鹿肉、豆のスープ、チーズ、ラルド。
スープがこぼれる心配はない。ゴーレム車はゆっくりだしサスペンション完備。それにスープ用の皿も此処で食べる時はかなり深い物を使っている。
「でもフミノさん。リディナさんが一緒に冒険者をやろうと誘ってくれたのですけれどいいのでしょうか。
私は何の技能も持っていません。力も弱いですし文字の読み書きも出来ません。当然魔法もつかえませんし、役に立てる事はないと思うのですけれど」
セレス、随分と自己評価が低いなと思う。
「何か冒険者の他にやりたい事がある? あるなら考える」
「力もないですし、あてになる知り合いも特にありません。ですから娼館に身売りする位しか出来ないです」
うーん、何か思い出すな。
「誰かから似たような事を以前聞いた。次の仕事を見つけないと1週間後には売春街行き。だから雇ってくれって」
「私だけれどね、それって」
リディナも覚えていたか。
「それでフミノはどう思う」
「問題ない。才能もある。少し訓練すれば私より魔法を使える筈」
これは本当だ。ステータスを見たから間違いない。
『氏名:セレス 10歳 女性
生命力:88 魔力:40 腕力:22 持久力:28 器用さ:50 素早さ:48 知力:43
職業:無職 装備武器:なし 攻撃力:12 装備防具:なし 防御力:8
使用可能魔法系統: 地:1 水:3 火:1 風:1 空:1
使用可能魔法:なし
スキル:自然言語理解(1)
状態異常:衰弱(1) 栄養失調(1) 気力減退(3)
称号等:無能 無力な人形 市場マスター』
一見酷い数値に見えるかもしれない。しかし今は状態異常でかなり本来の数値から下がっている筈だ。
しかも年齢は私やリディナより4歳下。更に魔力が40もある。出会ったときのリディナより高い値だ。
毎日まともな物を食べて運動すれば状態異常は消える。そうすればもっとステータスも上がる筈。
そして水属性に3の適性がある。鍛えればすぐに攻撃魔法を覚えるだろう。即戦力とまではいかないが1月もあれば十分戦力になる。
ところで市場マスターとはどういう称号なのだろうか。よくわからない。
「慰めはいいです。何も出来ないって昔から言われていましたから」
いや違う。
「私もリディナも他人の能力を見ることが出来る。だからセレスがどんな能力を持っているか診断可能。確かに即戦力にはならない。でも1ヶ月あればその辺の冒険者よりは強くなれる」
「本当だよ。私にもそう見えているから」
よし、ここからはリディナに任せよう。食べながら会話を考えながらではバーボン君の操縦がおろそかになる。街も近づいてきたし出来れば操縦に専念したい。
「とりあえずは盗賊の件を訴え出て、それから冒険者ギルドね。最初はE級登録になるけれど訓練すればすぐに上がれると思うよ。あとは図書館にも行かないとね。文字の読み書きと最低限の計算は覚えないと不便だから、その教材探しをしないと」
「いいんですか、本当に」
「勿論。そうだよね、フミノ」
私は頷く。あ、ちょっと待てよ。
「買い物もしたい。金属類、鉄と黄銅と銅を
「わかった。それじゃ図書館の前に市場と鍛冶屋街ね。図書館を途中で挟むとそこで終わっちゃうから」
確かにそうだな。私は頷く。
外は雨が降ってきた。外気温も割と寒め。ゴーレム車の中はリディナがセレスの事を気遣って魔法で暖房をかけているけれど。
これでは外を歩くのは辛いなと思う。
「雨だしこのまま街もゴーレム車で入る。いい?」
「その方がいいかな。このくらいの大きさなら最大の自在袋で収納出来るしね」
リディナのお墨付きが出た。なら遠慮なくそうさせて貰おう。
街壁が見えて来た。かなり大きい。そして向こう側に2階建て以上の建物が数多く見える。
これがパスカラの街だろう。雨で付近に発生しているスライムを特製専用槍で半ば無意識的に倒しては収納しつつ、私はバーボン君を進める。
◇◇◇
疲れた。本当に無茶苦茶疲れた。
盗賊を動けなくした件を衛士詰所に訴えて、そのまま衛視庁へ。事情聴取の後更に審判庁へ連れていかれてやはり事情聴取。
今回盗賊を倒したのはほとんど私だ。しかも屋敷の方の盗賊を倒したのは私単独。
だから私が集中的に聴取されるのは仕方ない。
一応衛視庁も審判庁も配慮はしてくれた。
リディナが言ってくれたので聴取担当は女性だった。私の事情聴取の時はリディナとセレスに立ち会ってもらった。おまけに部屋の窓も開けて貰った。
それでも知らない人相手に密室で1時間ずつ合計2時間聴取。精神力の限界だ。盗賊を放っておく訳にはいかなかったし仕方ないと必死に頑張ったけれど、恐怖耐性で耐えるにも限度がある。
私、聴取完了までは頑張った。ただ終わった直後にダウン。冒険者ギルドその他の予定は全て明日以降に回して街の外へと撤退した訳だ。
「ごめん」
「仕方ないよ。むしろ予想しておくべきだったよね」
ついにゴーレム車をリディナが運転する事になった。
一応リディナでも運転出来るよう所有権を共有させてはいるし練習も少しして貰ってはいた。
しかし早速こうなるとは思ってもみなかった。
なお私は座席の片側をベッド状態にして横になっている。眩暈と息苦しさがまだおさまらない。
「フミノさん、大丈夫なんですか」
「こうしていれば大丈夫」
「心配はいらないと思うよ。対人恐怖症が限界に来ただけだから」
「盗賊全員を一人で倒す位強いのに」
「魔物や盗賊は倒していい。それ以外の人は倒すとまずいから苦手」
一応この程度の会話なら出来る。
「街の南側、旧道側から出ればいいんだよね」
「そう。あとはその時説明」
街の南側へとゴーレム車を向ける。向かう場所は既に目星をつけてある。
今は雨期。現に雨が降っている。だからゴーレム車を降りて歩きたくない。しかし他の人には見つからない場所で家を出したい。
例えば盗賊が使っていた廃道、あれは割とこの条件にあっていた。人が通らないしある程度草は少ないし路面が残っているから。多少草が生えていてもバーボン君の力があれば通れる。
しかし盗賊が使っていた道で宿泊するのはセレスの精神衛生上よくないだろう。そんな訳で盗賊がいた街の北側ではなく南側に出た訳だ。
こちらも海沿いの街道は新道と旧道がある。使われなくなった廃道もある。比較的街に近く海にも近く人が通らなそうなところを偵察魔法で選定してバーボン君を向ける。
「もう少しで廃道と交差。左の廃道へ」
「わかった」
リディナに運転して貰い、半時間程度で予定の場所に到着。岩場の間で廃道が行き止まりになり先が海側に向けてえぐれている場所だ。
「ここなら確かに街からも近いし、人は来なそうだよね」
廃道はかなり荒れていた。このゴーレム馬車でも此処まで来るのがやっと。でもこれなら他人が来ることはないだろう。
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