第100話 無事合流

「お姉さんは魔法使いなんですか」


 妙に冷静だ。表情も声色もそう感じる。


「一応」

「なら貴族様なんですか」

「違う」

「でも貴族様でないと魔法は使えない。そう聞きました」


 おそらくあのボス、そう言って威張っていたのだろう。

 

「それは古い知識。誰でも適性があるし、勉強すれば魔法を使える。ついこの前冒険者ギルドが発表した」

「そうなんですか」


 おかしい。何か冷静過ぎる。しかし今はその方がありがたい。だから話を進めよう。


「あの男や盗賊はどうなりましたか」

「部下は土に埋めて呼吸だけ出来るようにした。ボスは穴に閉じ込めている」


「お姉さん、強いんですね」

「強くはない。ある程度魔法を使えるだけ」


 厳密には魔法ではなくスキルなのだがそこは割愛。説明が面倒だしこの子に何処まで話していいかわからないから。


「とりあえず着替えて。サイズがあわないかもしれないけれど」

「ありがとうございます」


 違和感はある。しかし取り敢えず着替えさせて、それからリディナのところへ戻らないと。


 またリディナに怒られるかなと思う。この子を連れて帰る事ではない。独断で動いて報告しないままかなり時間がかかってしまった事に。

 仕方ない。私としては見過ごせなかったのだ。


 そう言えばこの子の名前を聞いていなかった。今更ながら気づく。勿論ステータスを見たから名前はわかっている。でも初対面だから聞いておく方が正しいだろう。


 とりあえず私から名乗ろう。必死に文例を考えて、忘れないうちに口に出す。


「私はフミノ。ここから遠い東の国の出身で、今は2人パーティで冒険者をしている」


 こんな感じでいいのだろうか。自信無い。私から能動的に話すなんて事は滅多に無いから。その辺リディナに頼りきりだなと少し反省。対人恐怖症は反省くらいで治らないのだけれども。


「私はセレスと言います。ところで此処には盗賊と私以外に捕えられている人はいなかったでしょうか?」


 この質問はどう答えればいいだろう。ちょっと考える。

 もし彼女と一緒に捕らえられた人がいたとしたら、今は他にいないイコール全滅したになってしまう。


 しかし嘘を言ってもすぐばれる。こういう時リディナならどう返答するだろうか。わからない。でもあまり時間をかけるのも変だ。

 

「私が来た時点では他に居なかった。逃げたりなんて事があったかはわからない」

「そうですか。ありがとうございます」


 うん、やっぱり冷静だ。そう思ってふと気づいた。


 セレスは冷静なんじゃない。冷静とは感情をコントロール出来ている状態であって、感情が感じられない事じゃない。

 きっと感情が死んでいるのだ。酷い目に遭いすぎて。


 セレスに何があったか私は正確には知らない。状況から想像するだけだ。それでも寒気を感じる。足が震えそうになる。

 落ち着け私。私がそうなっている訳じゃない。震えても何にもならない。


 今やる事はセレスを連れてリディナのもとへ戻る事だ。それだけを考えよう。


「着替え終わりました」


 その言葉で私は我に返る。


「それじゃここを出る」

「街へ戻るんですか」

「もう夜だから街門は閉まっている。今夜は野宿して明日街へ入る」

「野宿ですか」

「大丈夫。野宿と言っても危険ではない」

「わかりました」


 やっぱり感情を感じられない。野宿か聞いたのも単に確認という雰囲気だ。


 地下から階段を上る。あちこちに土の山が出来ているのが見える。ついでに五月蠅いしゃべり声も聞こえる。

 ああいう声は生理的に嫌いだ。しかもこっちを見つけて話しかけてくる。脅したりとりいろうとしたり。


 ああ嫌だ。さっさとここを出てリディナのところへ帰ろう。


「セレス、急ぐからちょっと失礼」


 問答無用でセレスを抱きかかえる。縮地で移動だ。あっという間に屋敷から出て、村からも出る。

 そのまま一気に廃道を通って街道に出て、リディナのところへ。


 リディナはゴーレム車の外で待っていた。私達の姿を見てため息をつく。


「まあ何が起きたかはわかるしね。仕方ないかな」

「ごめん」

「まずはご飯にしよう。お腹空いたでしょう。私はリディナ、フミノと一緒に冒険者をしているの。貴方は?」


 流石リディナだ。ごく自然に名前を名乗れるし聞ける。こういう技能は私には無い。


「セレスです」

「それじゃセレス、よろしくね。あとフミノ、3人だから家を出そう。2番目に手に入れた方で。もうこの時間だからこの道を通る人もいないでしょ」


 2番目に手に入れたというと1階建ての小さい家か。あれなら市販最大サイズの自在袋に入ると強弁出来る。


 静かになったとはいえ盗賊もいる。セレスもまだどんな子かはわからない。此処で手の内は見せない方がいいという訳だろう。納得だ。


「わかった」


 私は馬車の隣に1階建ての小さなお家を出す。


「あとはゴーレム馬車の中に2人分の布団とマットを出しておいて。私はこっちで夕食の準備をするから」


 つまりセレスには小屋の方で寝て貰い、私とリディナはゴーレム車の方でという訳か。今後の事も話さなければならないだろうし了解だ。


「わかった」

「それじゃセレスはこっちに来て」


 夕食のストックはリディナの自在袋にもある程度入っている。だから私はこのままゴーレム車の中を寝台仕様にして、マットと布団を出す作業をすればいい。


 テーブル板を上に引っこ抜いて縦にしてテーブルの足だった部分にはめ込むように装着する。これが両ベッドを隔てる壁代わり。


 椅子部分の背もたれのロックを外して倒し、出来た台にマットと布団を載せる。この辺は昔ネットで見た寝台特急の座席からベッドへの変換方法を参考に造った。


 よし完成。それではリディナ達と合流しよう。私はゴーレム車を出て小さいお家へ移動する。

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