第98話 追跡、そして
奴らはこの辺に慣れているようだ。獣道を迷わず走っていく。
どうやらこの獣道、私達がいる街道と並行しているようだ。よく見ると踏み固めたり枝を切ったりある程度整備した痕跡もある。
おそらく奴らが襲撃に使う為に整備しているのだろう。という事はこの辺にかなり根を張って悪さをしている訳か。
彼らは廃道を右へ。この調子では少しばかり遠くまで行きそうだ。私の偵察魔法の範囲外に出られる可能性もある。
「思ったより遠い。追いかける。此処は任せていい?」
「大丈夫。気をつけてね」
ゴーレム車を出る。おっと、盗賊共が私を見つけて何とかしようと脅したりしてきた。動けない状態とわかっていても怖い。だからさっさと縮地でこの場から移動する。
数秒で先行した2人との距離が縮まる。あまり近づきすぎて気付かれるとまずい。彼らから
2人が走っている廃道はこの先
だがこの村の雰囲気がおかしい。何だろうと思って視点を近づけて理解した。
廃村だ。家々の半分が崩壊し、残り半分も朽ちかけている。畑らしき場所も道だったらしい場所も荒れ地になって雑草が生えている。
おそらくこの村も一昨年の津波で廃村となったのだろう。生えている草木がまだ若いから。
この廃村に盗賊団のアジトがあるのだろうか。偵察魔法の視点を元に戻し、盗賊2人を追う。
2人は予想通り廃村へと入って来た。そして奥、海側にほど近い高台にある大きな屋敷へ向かう。
この屋敷だけ原型が完全に残っている。高台にあった為津波の被害を免れたのだろう。
明らかに使われている気配もある。更に言うと他の家々より明らかに大きいし作りも豪華だ。
ここがおそらく盗賊団の本拠だろう。それにしても元は何の屋敷だったのだろうか。この程度の村の領主にしては屋敷が大きく豪華すぎる。なら大商人か子爵以上の貴族の別邸だろうか。
屋敷を囲む塀はそこそこ高く、門も頑丈そう。そして入口の門には2人ほど門番がいる。門の裏に隠れて正面から見えないようにしている辺りがいかにも盗賊団らしくて怪しい。
私が追っていた2人は門番と二言三言話すとそのまま家の中方向へ。
家の周りをさっと確認する。外で警戒しているのは門番の2人だけだ。
門番2人のステータスを確認する。2人とも盗賊。称号に殺人犯、誘拐犯、窃盗犯、暴行犯人等まともではない単語が並んでいる。
次は中の確認だ。2人を追って視点を屋敷内へ。入ってすぐの場所は広い玄関ホール。やはり元は大金持ちか貴族の別邸だ。造りからそう感じる。
2人は階段をのぼって2階へ。分厚い扉をノック。音は聞こえないけれど恐らく入れとでも言われたのだろう。扉を開けて中へ。
太目で脂ギッシュで中年なりかけの男が豪華そうな椅子に座っていた。これがボスだろうか。ステータスを確認。間違いない。盗賊団の頭と出ている。
しかもこいつは魔法使いだ。火属性がレベル6で大熱波や爆発等の攻撃魔法も持っている。こいつ相手に正面から戦ったら今の私やリディナでは勝ち目がない。
更にボスのステータスを確認。元エルドヴァ侯爵家三男(廃嫡)なんてついていた。きっと素行不良で実家から捨てられたのだろう。犯罪系の称号がいくつもついている。しかもペドフィリアでサディスト。最低だ。
おっと、報告をしていた見張りの2人の頭が突如燃え上がった。魔法だ。どうやら逃げて来たという報告がボスのお気に召さなかった模様。
死んだか。一瞬そう思ったが燃え上がったのは一瞬だけだった。被害があったのも髪の毛だけの模様。2人とも生きている。単なる脅しのようだ。
敗北を正しく報告した見張りを脅しても仕方ない。少なくとも私はそう思う。きっとこのボスはそういった理性的な判断の出来ない輩なのだろう。
見張り2人はペコペコ頭を下げ逃げるように部屋を出た。
さて、他に盗賊はどれくらいいるだろう。少し視点を手前に引き寄せ屋敷全体を視界に入れる。ボスと見張り2人、門番2人を含めて反応は14人。
ただ1人、少し違う反応があった。何というか弱々しいのだ。気になったので視点を動かして確認する。
場所は地下だな。視点を近づける。うっ、これは。思わず目を瞑ってしまった。しかし偵察魔法では意味はない。
此処ではない世界当時の私自身の恐怖が蘇る。震えがとまらない。
明りとりの窓が天井近くにあるだけの石造りの部屋だ。他にあるのはベッドと鎖の固定具。用途を考えたくないような金棒や鞭、それもトゲが大量についた奴。
鉄製の素っ気ないベッド上に半裸状態の女の子が1人、倒れるように横になっている。服は破れて辛うじて身体にひっかかっている状態。はだけた部分から瘡蓋が見える。擦り傷の数倍酷い奴だ。
服の汚れはよく見ると乾いた血。そして女の子の表情。眠ってはいない。うつろな目は開いているが何も見ていない感じ。無表情。
何が行われたのか私は想像してしまった。立っていられない。しゃがみ込んでしまう。吐き気がする。動悸も酷い。身体がふらつくくらいに感じる。
視界が色を失う。ブラックアウトしかける。その癖あの男が近くにいるような錯覚に襲われる。違う、何で……
落ち着け私。襲われているのは私じゃない。襲われているのは今じゃない。私はあの時の私じゃない。
落ち着け私。せめて動いてスキルを使える位には。そうしないとあの子を助けられない。だからまずは呼吸だけに集中。意識的にゆっくりはいて、吸って、はいて、吸って……
大丈夫。今の私は大丈夫。それにあの屋敷はもう私のアイテムボックススキルの圏内。だから大丈夫。
駆け付けたい、すぐに何かしたいのをこらえ、私は屋敷内の他の気配を確認する。他に犠牲者はいないか、それとも倒していい奴ばかりかを。
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