第94話 海で一息
この辺では東海岸と並行に南へ向かう街道が2本ある。メインの街道と旧街道だ。
最初は海沿いの低地に旧街道が作られた。海沿いに古い集落が点々としていたのでこの旧街道は結構使われていた。
しかし一昨年の冬、そこそこ大きな地震があった。津波でこの辺はかなりの被害に遭った。人死にが出なかった村でも家や畑が海水に浸かって使用不能になった。
結果、人々は海沿いにあった村を捨て台地上へ移住。新たに太くて真っすぐの道が海から離れた場所に作られた。
今ではほとんどの人が新しい方の街道を通る。古い方の街道も残ってはいるけれど、村人等が海に出る為に一部区間を使う程度のようだ。
しかし私達が行くのは旧街道の方。こっちの方が人が通らないし魔物や魔獣も出そうだから。
馬車と比べるとゴーレム車は小回りがきくし力もある。多少道が荒れていても問題はない。遅いけれど。
今のところ発見した魔物や魔獣は小物ばかり。しかし小物でも数をこなせばそこそこの儲けになる。だから日々の生活費の為にも狩りはしておきたい。
あと旧街道を通ってみるとそれ以外のメリットもある。この道、海に近い分景色がいいのだ。
「何かいいよね。こんな場所をのんびり旅するのって」
「同感」
ちなみにリディナ、板海苔を作り終えたので今度はいよいよマヨネーズ作りに挑戦して貰っている。卵黄2個分と酢を少し、塩ちょっとと水飴隠し味程度を入れたものを混ぜて、オリーブ油を加えつつ水属性魔法レベル1、攪拌なんて使う訳だ。
「このちょっと黄色いのがもったりしてきたら完成でいいの?」
「そう。生魚か生野菜に少しつけて味見をしてみて」
これでツナマヨは出来る。エビマヨなんてのもいいな。エビは大量にサンデロントの市場で買ったし。
購入したエビは車エビよりやや小さい白っぽいエビ。この辺のエビはこういう種類が主らしい。イセエビっぽいのがあれば個人的に欲しかったけれどなかったのは残念だ。
「あ、美味しい。少しこの前のスティックサラダのソースに似ているけれどこっちの方が応用ききそう。でもこの味で正解なのかな。フミノ味見してみて」
きゅうりを細切りしたものにマヨネーズをつけて渡してくれる。ありがたく試食、うん、ちょっと甘めで私の好みだ。市販品だとキ●ーピーより味●素に近い感じ。
「やっぱりリディナが作るとなんでも美味しい」
「これはフミノが教えてくれたからだよ。それでこれをどうするの?」
「鰹のオイル煮の身部分と混ぜ合わせる。でも生の剥き身と混ぜても美味しい」
握り寿司、軍艦巻き、太巻き、細巻きの作り方も今のうちに説明しておこう。私がある程度説明すればリディナが美味しいのを作ってくれる筈だから。
ああ、今から食べるのが楽しみで仕方ない……
◇◇◇
少し早いけれど本日の移動は終わり。理由はいい感じの海岸があったから。
小さな川が海に注ぎ込んでいて、その北側が砂浜になっている。更に外側は岩場で遊ぶのにちょうど良さそうだ。
そんな訳で夕食の調理の前に海をよく知らない2人で海岸を探検。探検というよりは遊びだけれども。
「こういう場所にも魚なんかはいるのかな。監視魔法で何か生き物がいる事はわかるけれど姿ははっきり見えないね」
魚か。
「釣りでもやる? 釣れるかもしれない」
「釣りってどんな漁の方法?」
知らないようだ。海は知らなくとも川や湖があった筈。だから釣りくらい知っているだろうと思ったのだけれど。
ちょうどいい、やってみよう。勿論私も初挑戦だが、釣りの知識はある程度ある。主にネットで連載していた漫画の知識がベースだけれども。
「必要な道具を作る」
竹でもあれば竿をつくるのが楽。しかしこの国に竹は生えていないようだ。今のところ見た事はない。
何かいい材料はないかアイテムボックス内を物色。何処かで家を出した際に収納した柳系統の木の枝を使う事にした。本気で作ると時間がかかるから魔法で乾燥させ、形を整える程度で我慢。
針は魔法で熱を加えて叩いてカットして焼き入れして焼き戻ししてで簡単に完成。適正な大きさがわからないので取り敢えず小指サイズ。ついでにおもりも同じように製作。
糸は服の補修用にリディナが持っていた亜麻糸を使用。非常に大雑把な道具だがまあいいだろう。
そんな訳で竿、糸、おもり、針という安直な仕掛けが完成した。餌として今朝購入した小さめのエビを針のサイズにしてつける。
「これを使って漁をするの?」
「そう。故郷ではそうやっていた」
私も実際にやった事はない。ネットで見て知っているだけ。これが初挑戦だ。
岩場を歩いて少し深そうな場所を探し、仕掛けを出来るだけ遠くへ放り込む。遠くと言ってもリールなどないので仕掛けの全長は竿の長さ程度、つまり
「これで下に魚がいればエビを食べて、あの針に口をひっかける筈。そうなると糸を引っ張る。それを感じたら引き上げる」
日本で売っていたのと比べると全てが原始的な仕掛けだ。でも魚もスレていないから何とかなるだろう。そう思った時だった。
思い切り竿が引っ張られる。
「かかった」
予想以上に力が強い。そしてこっちは足場の悪い岩の上。更に仕掛けもいいかげん。
しかし勿体ないから出来るだけ糸が切れないよう何とか頑張って魚を泳がせつつ姿勢を維持する。
魚の泳ぐ方向と波が押し寄せてくる方向が一致した瞬間、思い切って竿を引っ張り上げる。岩の上に無事引き上げ成功。ビシバシ跳ねまくっていたので魔法で温度を冷やして仮死状態にした。
釣れたのは私の足より少し大きい黒鯛もどき。うん、これはお刺身だな。うまくいった。
「面白そう。私もやってみていい?」
「勿論」
仕掛け一式、そして餌のエビをリディナに渡す。さて、私は次の仕掛けを作ろう。どうせなら今度はもう少し凝った仕掛けを。
欲しいのはやはりリール付きのセットだ。リールが無いと竿が届く範囲しか釣る事が出来ない。勿論複雑な機構を作るのは難しいけれど、糸巻きを回すようなものなら作れるだろう。
リールが出来れば投げ釣りも出来る。なら浮きとかエサカゴなんてのも作った方がいいかな。
いずれは針をいっぱいつけたサビキ仕掛けなんのも作りたい。前に食べた時何かに使えるかととっておいた魚の皮を使えば作れるような気がする。
ああ、夢が膨らむ。しかしまずは今私が使える基本的な竿と仕掛けから作成した方がいいだろう。1セットしかないとリディナが使用を遠慮するかもしれないから。
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