第88話 再び工作の時間です
仕事があるからという事でカレンさんとミメイさんは帰って行った。ついでだから夕食も一緒にどうですかとリディナが誘ったのだけれども。
さて、私は早速仕様書と取扱説明書を読み始める。
「何か凄く嬉しそうだよね、フミノ。前に家を貰った時以上に」
「家は実用品。でもこれは実用ではなく趣味。だから楽しいという面ではこの方が上」
「フミノって何か作るのも好きだものね。家まで作っていたし」
「形になるものは楽しい」
間違いなく私はハイになっている。自覚もある。
ふむふむ、このゴーレムは体内に最大
20%というとそこそこ急な傾斜だ。
ならば力だけなら簡単な荷馬車位は牽けそうだ。時速
一応疲れた時に歩かないで済むように台車を作っておこう。私とリディナが乗れる程度の小さな台車。まずは馬車の構造を百科事典で調べてと。
「フミノ、疲れていた筈だけれど大丈夫?」
「問題ない」
ハイになったおかげで完全覚醒している。
「夜から動きっぱなしだったし私は寝るね。夕食に食べられるものを私の自在袋に入れておいて貰っていい? 後でいいから」
「わかった」
さっとつまんで食べられるものは僅かなサンドイッチを除いて全滅している。しかし夕食に作って余ったおかずはまだまだ在庫豊富。だから夕食を作らなくても全く問題はない。
とりあえず鹿肉ソテーとすね肉煮込み、豆と野菜のスープ、パン、スティックサラダを選んでリディナ用の自在袋に入れておく。先にやっておかないと夢中になった私は時間を忘れるから。
私にもその辺の自覚はあるのだ。なおらないだけで。
さて、それでは研究及び実作に入ろう。まずはゴーレム本体はそのままで、いざという時に使える2人用馬車から。馬車ではなくゴーレム車だけれども。
でも犬ぞりなんてものも地球にはあった。だから犬が荷馬車を牽いてもきっとおかしくはない。この世界に犬ぞりがあるのかどうかは不明だけれども。
製作の前にこの世界の馬車の構造の知識を知っておこう。百科事典のおかげで大抵の知識は家にいながら手に入る。
ふむふむ、車輪は木製で外側に擦り減らないよう鉄を巻くのか。振動が相当にきつそうだよな。あ、でも高級馬車は革紐で……
◇◇◇
うん。私、頑張った。
広い場所を確保したかったのでリビング用の小屋を出してそこで製作作業開始。中で車輪をはじめ部品を作った後、外で組み立て。
小屋の前、夜の河原で灯火に照らされているのは4輪の小型馬車、いや小型ゴーレム車だ。この大きさの普通の馬車はリアカーのように2輪。しかし引っ張るのが馬ほど大きくない犬型ゴーレムなので安定性を考えて4輪にした。
ゴーレム牽引用の部分を除く車体の大きさは全長
車輪の直径は4輪とも
馬車本体は車軸とサスペンション部分とリンク部分、及びそれらと接続する部分は鉄製で、他は木製。
木製部分の基本的な構造は西部劇なんかで出たような幌馬車だ。ただし屋根や壁は幌では無く薄板を貼りこんで銅で作ったテープ状の板で留めた。少し樽っぽい外観になってしまったのは仕方無い。
本当は外板部分、アルミの薄板で作ってエアストリームもどきにしたかった。しかしそんな軽金属の持ち合わせはない。そもそもアルミなんてこの国にあるとも思えない。鉄だと錆びそうだしここは我慢。
中は私とリディナが横になっても余裕な位の客室がある。通常は向かい合わせ6人掛けテーブル付きの椅子席だが一部を組み替えれば幅
ちなみにベッドのサイズは元リディナの勤務先屋敷にあった雇用人用ベッドのサイズと同一。だからマットもそのまま使用できる。
普通の馬車と明らかに違う点は御者席が無い事だ。理由は簡単、ゴーレムを操縦するのは客室からでも出来るから。
左右にガラス無しだが開閉可能な窓、前後に両開きの扉がある。どれも開放状態で固定する事も出来るし中から閉じて鍵をかける事も出来る。
晴れた日なら開放すればいいし、雨が降ったり風が寒かったりしたら閉じればいい。ゴーレムの視界や監視魔法があるから外を見る場所は必要ない。
このゴーレム車のコンセプトは『雨の日の快適移動用』だ。
雨の日は歩くのが嫌になる。この国にも傘は一応あるけれどごつくて重い。それに差していてもそのうち濡れてくる。寒い日はたまらない。
そんな日でもこのゴーレム車なら濡れずに移動できる。速度こそのんびり歩く程度の速さだけれども、雨の日でも濡れずに移動できる事に価値がある。
車輪はスポーク部分とリム部分はアコチェーノエンジュの芯材。木材としては少し重いが頑丈かつしなやかで曲げやすいし、在庫も豊富なので採用。タイヤ部分はこの国の他の馬車と同じく鉄輪を作ってはめ込んだ。
車軸と接する部分も鉄。木製の場合はここにベアリング代わりに馬の革を使用すると百科事典に書いてあった。
個人的には玉軸受けなんて作りたかったのだが工作精度に自信が無いので諦め、この世界の標準にあわせた。革には高圧で脂を染みこませているのでまあ大丈夫だろう。
サスペンションとリンクは完全オリジナル。コイルバネにエアダンパーまでつけた自信作だ。設計上はこれで縦揺れも横揺れもある程度和らげられる筈。
更に前2輪は日本の手押し台車のキャスターのように独立して左右に動く。だからバーボン君の牽き方次第でカーブも曲がってくれる筈だ。
ただ実際にうまく動くかは試さないとわからない。車軸完全固定よりはましだろうと思うけれど。
それにしても我ながら工作の腕随分と上達したものだ。木材ならカットするだけではなく継手だの曲げ加工だのやりたい放題だ。
更に今では金属加工も出来る。熱魔法で接合出来るぶんだけ木工よりも楽なくらいだ。突き固め魔法の応用で任意の形に仕上げたりなんてことまで出来る。
冒険者をやめて工房なんてのをやってもそこそこ何とかなりそうだ。ただし私は接客が出来ない。その辺はリディナに頼むことになるのだろうけれども。
他には高熱魔法を使って砂からガラスを作る事だって出来る。砂の質によって出来具合は異なるし今のところ透明には出来ない。透明にするには砂の他にいくつか材料が必要な模様。
しかしガラスで物を作ると木製や金属製より何かいい感じの仕上がりになる。あと水に強い。振動には弱いからこのゴーレム車には使わなかったけれど。
さて、そろそろ寝るとしよう。何せ東の空が微妙に明るくなり始めている。寝なくても魔法で何とか誤魔化せるが、少しでも寝た方が楽なのは確かだ。
ゴーレム車もバーボン君も、そしてリビング専用小屋も収納。3階建ての家の自分の部屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます