第87話 ピンポイントなお礼の品

「特にない。それに今回の件は私達が勝手にした事。だから何か貰うような事は無いと思う」

「確かにそうだよね。今回のは2人で勝手にやっただけだし。

 それにこの前の件でお金は充分貰ったし、家も貰ったよね。だから当分は特に何もいらないかな」

「同意」

  

 実際そうなのだ。お金は充分にある。最高にいいお家を貰ったから特に欲しいと思う物は無い。


 強いて言えば面白い本とか海鮮とかだろうか。昼食用のテイクアウトでちょうどいいものも在庫がなくなったから補充しないと。


 しかしそういうものをカレンさんは回答として望んではいないだろう。そういう物は自分で好きに買うものだ。


「つい先日かなりお金もいただきましたし家もいただきました。それに今回はあくまで私達の意志で勝手にやった事です。ですから今回は無事受け入れてくれた事をこちらも感謝しているという事でお願いします」


 あ、明らかにカレンさんとミメイさんが笑みを浮かべた。予想通り、そんな感じに。


「それならこのような物はいかがでしょうか。外へ出てみていただけますか。此処では出しにくい物ですので」


 何だろう。まさか他にもお家という事は無いだろうけれど。

 そんな訳で全員で家の外へ。


「ところでフミノさんはまだまだ収納に余裕があるのですよね」


 わざとらしい様子でカレンさんが尋ねる。


「ええ。本人も限界が分からないと言っていますから」

「なら良かったです。今すぐには実用として使えないでしょうから。それではどうぞ」


 出現したのは大型犬くらいの大きさの黒い金属製の何かだ。大きさだけではない。形も犬に似ている。


 しかし秋田犬とか柴犬とかレトリバーではない。コーギーとかダックスフンドのような足の短い犬だ。


 シェパートの大きさがあるダックスフンドと思えばいいだろうか。そんなの現実にはいないだろうけれど。


「ミメイから聞きました。フミノさんは次はゴーレムだと言っていたと。ゴーレムについて勉強して、いずれは馬車をひっぱるゴーレムを作って楽をしようと。


 残念ながら馬車を牽くような大きくて動きの速いゴーレムの持ち合わせはありません。ですが鉱山採掘用のものでしたらローラッテ鉱山でも使用しております。

 これは動きは遅いですが馬車を牽ける程度の力もあります。ですのでもし参考になればと思って持ってまいりました」


 こ、これは。予想外だけれども面白い。もう私、うずうず状態だ。


「調べてみていい?」

「勿論です。ですがその前に所有権移譲登録をした方がいいでしょう。高価なものですから盗難等を防ぐために自衛するように出来ています」


「でもゴーレムって確かこの前貰ったお家より高価だよね。本当にいいの?」


 リディナがそんな事を言う。知らなかった。だから思わずリディナに聞いてしまう。


「そうなの?」

「確かそうだよ。スティヴァレでも扱っているのはラモッティ伯爵家だけだしね。あの家は代々ゴーレムを作れる魔法を受け継いでいるから」


「ええ、その通りです」


 カレンさんは頷く。


「現在、実用になるゴーレムを製造販売しているのはラモッティ伯爵家だけです。実はつい先日、ローラッテ鉱山の採掘拡大の為、ラモッティ伯爵家に新たに新型のゴーレムを20頭ほど発注いたしました。

 ですから旧型1頭くらいなら差し上げても問題はありません」


「本当にいいのでしょうか」

「勿論です」


 本当に問題無いのだろうか。非常に怪しい。新規に注文したという事は採掘用ゴーレムがそれだけ必要になるという事でもある。なら旧型であっても使えるゴーレムはきっと貴重だろう。


「心配いらない。これもフェルマ伯爵承認済み」


 うーん。申し訳ない。でもミメイさんもそう言うという事はきっと大丈夫なのだろう。私はそう思う事にする。

 実際動くゴーレムは確かに欲しかったのだ。いずれ馬車を牽かせるものを作る為にも、是非。


「取り敢えず仮の所有権者は私。これから所有権を移譲する」


 ミメイさんがゴーレムの前でしゃがむ。犬なら頭の額部分に右手を当てて口を開いた。


「03、所有権登録全解除」


 ゴーレム犬が待ての姿勢になって静止する。


「新しい名前を決めた後、額に手を当てて『所有権登録』の命令呪文とゴーレムの新しい名前、所有権者の氏名を告げれば所有権が本登録される」


 ならまずは名前を決めないとな。


「リディナ、何かいい名前ある?」


 リディナが難しい顔をする。


「うーん。いいのが思い浮かばないなあ。でもゴーレムを操作するのはフミノだよね。ならフミノが考えた方がいいと思うよ?」


 私が考えるのか。つい日本のロボット犬の商品名をいくつか思い出してしまう。AIB●とかプー●とか。商品名から離れるとなるとフ●ンダー、ヤ●ターワン。ロデ●は犬ではなく黒豹だったっけか。


 いやロボット犬からも離れよう。ポチ、シロ、ハチ公、チョビ、平九郎、忠吉さん、パトラッシュ、ラッシー、カール、銀、ケンケン……

 うーん、オリジナリティがまるでない。あとパトラッシュは出来るだけ避けたい。この先悲劇で終わりそうな気になるから。


 あ、待てよ。そう言えば昔、近所に可愛いのがいた。こっちが道路を歩いていると塀越しに近づいてきて頭を出して尻尾を振ってくる奴。

 真っ黒のラブラドールレトリバーで名前はバーボン。よし、このゴーレム犬も黒いし彼から拝借させて貰おう。


「バーボン、ではどう?」

「格好いいしいいと思うよ。でもどういう意味?」


 これはちょっとややこしい。由来は一応飼い主に聞いたから知っている。ラブラドールレトリバー→略してラブ→テニスの『0』→ゼロ→安●透→バーボンとなったと。

 黒犬だから黒の組織、だからこの名前で正しいのだそうだ。


 でもこれをリディナに言っても理解できないだろう。日本でも説明に苦労しそうなくらいだ。

 それにそもそもこの国には多分バーボンという酒は無い。多分、きっと、私の知っている範囲では。


「昔友達だった犬の名前」


 こう言うにとどめておこう。


「それじゃフミノ、名前をつけてあげて」


 よし、それでは行こう。しゃがんでゴーレム犬のひたい部分に手をのせる。


「所有権登録、バーボン、フミノ」

 

 バーボンがうんうんと頷く。ふっと私自身の魔力と違う流れを感じた。頭の中に自分の視界や偵察魔法の視界とは違う映像が新たに出現する。


 どう動かすのかも自然とわかる。偵察魔法の視点を動かすのとほぼ同じだ。試しに川まで往復してみる。視線が低くて背の高い草が生えている場所では先が見えなくなる。その辺もなかなか新鮮だ。


 偵察魔法の視点と違うのは速度の遅さと魔法が使える点。試しに目の前の草を熱魔法で分解する。あっさり。更に前の草地に踏み固め魔法。うん、これはなかなか便利だ。


 ただ残念ながら動きはやっぱり遅い。人間がゆっくり歩くのと同じ程度が限界のようだ。時速にして2離4km程度。

 

「こちらが仕様書と取扱説明書になります。鉱山用なので動きはやや遅いですが力は強いです。穴を掘る事も出来ますし、水に濡れても問題ありません。重いものを牽く事も可能です。

 ですが鉄製ですので錆びを防ぐためにも1週間使用したら一度整備した方がいいようです。その辺も取扱説明書に書いてあります」


「ありがとうございました」


 私はカレンさんとミメイさんに頭を下げる。これは本当に嬉しい。何に使えるかは別問題としてとにかく嬉しい。さしあたって今夜は仕様書と取扱説明書を熟読しよう。出来れば分解して機構も調べよう。


「喜んで頂けてよかったです。フェルマ伯は『ゴーレムなんて何に使うんだ』と不審気でしたけれども」

「普通の人は高価だけれど欲しがらないよね。ピンポイントでフミノ用だと思うよ」


 リディナの言う通りだから文句は言わない。ああ早くもっと調べたい。いじくりまわしたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る