第76話 報酬と功労金
翌朝。いつもよりゆっくり起きて、朝食を食べる。
食べ終わってもまだ時間があるからそれぞれに時間を潰す。リディナは料理を作り始めた。ミメイさんは本を読むようだ。そして私は工作、作るのは座卓だ。
リビングに現在置いている座卓は洞窟拠点で作った1人用。4人で囲むと少々小さいし狭い。だから少々大きめのものを作ろうと思った訳だ。
実は百科事典で見た木工の方法論を試したかったという理由もある。というか実はそれこそが理由だったりもする。手段と目的が逆だと言わないでくれ。手段を試したいというのもまた動機なのだ。
天板は何処かで収納した大きめの樹木から作った一枚板。これに足部分として適当な木や丸太を継手加工で組み付ける。
私はアイテムボックススキルで思い通りに加工できる。だからついつい凝った継手を試したくなる。結果、釘を使っていないのにやたら頑丈で、かつ二度と分解不可能な代物が完成した。
でもこれでかまわない。折りたためなくても分解できなくてもそのまま収納すればそれで済む。私のアイテムボックスの容量は余裕だから。
形が出来上がった座卓を眺めて一人頷く。うん、なかなか良い。それでは仕上げだ。脂をぬりぬりし、乾かして乾拭き。艶出し作業をやっているところでリディナから声がかかる。
「そろそろ行こうか」
リディナがそう言うならちょうどいい時間なのだろう。製作途中の座卓を含め家ごと全部収納して冒険者ギルドへ。
なおギルドへはミメイさんも一緒。
しかし此処に残るかどうかという話はとうとう今日まで聞かれなかった。リディナも気にしていたようだけれど今日までその話は何もしないままだ。
「この後ミメイはどうするの?」
「カレンも今日で此処での仕事は終わりと聞いた。だから夕方にローラッテの家に戻る」
トンネルが使えるなら戻るのも簡単だ。でもそれは私達と別れるという事を想定しているからなのだろうか。ただ単にミメイさんの仕事が終わったから、安全な家に帰ろうというだけなのだろうか。
私は少し考えてしまう。
一方リディナは普通通りに会話を続けている。
「そういえばトンネルは今日から使えるんだよね」
「今日の午後から。早いうちは混みそうだから夕方頃に帰るとカレンが言っていた」
話をしながら歩くと冒険者ギルドはすぐ。だが微妙にいつもと街の雰囲気が違う気がする。気のせいだろうか。
いつものようにリディナが先に行って入口から中を覗いて、そしてこっちに手を振る。
「大丈夫だよ。人は少ないしカレンさんもいるから」
中へ入ってすぐ、カレンさんに別室へと案内される。前と同じく窓は全開で中は向かい合わせにしてある状態だ。
「さて。本題に入る前に討伐や採取、他の依頼等で受けたものがあればお預かりしましょう。そうすればこちらで話しているうちに精算できますから」
「それではお願いします。こちらに出していいでしょうか」
「ええ、大丈夫です」
そんな訳でここ数日で討伐したゴブリンの魔石と魔獣の死骸を出す。今回は魔羚羊と角兎がそこそこでゴブリンの魔石だけやたら多いという感じだ。
「お預かりしました。それではこれを事務の方へ預けてきます」
カレンさんは全部を大容量自在袋に入れて部屋を出て、すぐ戻ってきてまた同じ場所に座る。
「こちらでの話が済み次第、今の分の褒賞金も持ってまいります。
さて、まずはトンネルの件です。ですが最初はお詫びからになります。大変申し訳ありませんが。ギルドとしての褒賞金額はあまり多く出来ませんでした。
発見に関する報酬は冒険者ギルドとしての規定があります。最高額は
ですからギルド経由での報酬は
「それは仕方ないですね。名前が残って面倒な事になってはまずいですから」
リディナの台詞に私は頷く。それに
「同じ理由で領主からの功労金という形の報酬も多く出来ませんでした。
ギルドを通した場合、国法の規定で領主等が与える事が出来る功労金の金額は冒険者ギルド報酬額の半額までです。
これは領主や貴族が冒険者ギルドへの手数料を故意に低くする事を防ぐためのものです。勿論例外も認められていますが、その場合はやはり国に対する詳細報告が必要となります。
ですのでこちらも規定通り
「それでも全部で
「なおフェルマ伯爵は本当はご自分で直接お二人にお礼を言いたかったそうです。ですがその件については勝手ながらこちらの方で遠慮させていただきました。フェルマ伯は悪い方ではないのですが見た目が何分ちょっといかつい方で」
「悪い人ではない。むしろいい人。でも見た目は繁殖期の熊。私も未だに怖い」
ぼそっと出たミメイさんの台詞に思わず笑いそうになる。確かにそんなのが出てきたら私、卒倒するだろう。
だから遠慮していただいた事は大変にありがたい。仮にも伯爵だし領主としてはかなり有能なようなので申し訳ないけれど。
「ミメイさんも御存じなんですね」
リディナも何とか笑わないように努力しているようだ。
「ええ。何度か会う機会もありましたから」
カレンさんはさらっとそう済ませた。
「さて、そんな訳でギルドと領主から、あのトンネル発見に関する報酬及び功労金になります。御確認下さい」
封筒が出てくる。中身は正銀貨だ。使いやすいように紙で50枚ずつ束ねてある。
目と魔法で確認する。間違いない。両方足して300枚だ。
「大丈夫です。確かに受け取りました」
「確認ありがとうございました。
それでは次の話です。この前教わった魔法の件についても手配を致しました。こちらも発見に関する報酬という事で規定通り
また封筒が出てきた。今度は小金貨20枚だ。これだけ手に入れば当分は討伐をする必要すらない。
先程の報酬と合わせれば小さい方の2階建てくらいなら家だって余裕で買える。もう少し貯めたら大きい方の家だって……
一方、カレンさんの説明は続く。
「どのような形でこの知識を発表するかは言えません。ですがそう遠くないうちだと思って結構です。
確かにエールダリア教会は権力を持っています。ですがあちこちに口を出し過ぎた結果、現在では何処からも快く思われていません。
ですので教会の権威が弱体化される今回の知識は各方面、特に各国の政権を担う方々からは歓迎されるでしょう。
また貴族、特に平民との違いをことさら意識せざるを得ない中小の貴族は実力がなければこの国では所領を維持できません。失政が続くと10年程度で降格されますから。
そしてこの知識により魔法使いが増える事は領地の開発運営を行うには有利に働く事でしょう。領地運営がうまく行っている領主ほど。
ですからこの知識の流布はそこまで妨害を受けることなく実施されると予想されます。魔法を使える人が増えて便利になり、権力構造も少しだけ正常化する。そうなってくれる筈です。
それでは討伐の方の褒賞金を持ってまいります。少々お待ちください」
カレンさんは立ち上がり、一度部屋を出る。
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