第59話 新しい依頼

「準備が出来ました。どうぞこちらへ」


 お姉さんに案内されてギルドの奥へ。


 建物の中は怖い。上下左右そこら中に人の気配を感じるから。勿論ここは安全だ。わかっているけれど怖いものは怖い。お守り代わりにリディナの服の裾を掴んで進む。


「こちらの部屋になります」


 案内されたのは確かに広い部屋だった。本来は会議室か何かだろう。長机と椅子が大量にある部屋だ。


 今は中央には長机3つほどがくっつけられ大机状態になっている。残りの長机や椅子は部屋の端にまとめて寄せられた状態だ。


 私が狭い部屋が苦手と聞いて広い場所を作ってくれたのだろう。3箇所ある窓もそれぞれ全開になっている。


 そして中央、大机状態場所手前側は女性が1人座っていた。20代後半くらいのお姉さんだ


「どうぞこちらへ」

 私達は受付から案内してくれたお姉さんに大机の窓側へと導かれる。


 彼女は私を案内した後、この部屋に元からいた女性の隣へ。そして2人が立ち上がった。


「ローラッテ出張所のサブマスターでカレンと申します。こちらはうちの事務員のマヨルカです。2人で話を聞かせて頂きます。どうぞよろしくお願いします」


 2人でこちらへ頭を下げた。

 私もリディナにあわせて頭を下げる。


「これから貴方方が発見されたというアコチェーノに通じる洞窟についてお伺いさせていただきます。どうぞお座りください」


 サブマスターのカレンさんが比較的若い女性であること。

 部屋の広さと窓の配置。

 そしてリディナがいる事で、私でも何とか耐えられる状態だ。


「まず場所についてお伺いいたします。これは領内の詳細地図です。よろしければこの地図で場所を教えて頂けると助かるのですけれど」


「フミノ、わかる?」


 確かにいきなり地図で示せと言われてもわからないだろう。私は常に上空から偵察魔法で確認しているからわかるけれど。

 私は指で場所を指し示す。


「ここと、ここ。中はほぼ一直線」


 本当は完全な一直線なのだけれど。


「一直線って、それって洞窟なのでしょうか、自然の」

「自然ではない。多分トンネル」

 

 実際に行けば自然ではないのは一目瞭然。だからその事は隠さない。


「まさかと思いますが、貴方方が掘られたんですか」


「私達は見つけて通っただけ」


 リディナとの打ち合わせにない事項なので私が答える。これであとはリディナに任せて大丈夫だろう。


「中はどうですか」

「ゆるい傾斜で歩きやすいです。中規格の荷車なら中で行き違いも可能な程度の幅です。高さについては大柄な人でも困る事はないと思います」


「崩れそうな状況等はありましたか」

「通り抜けた限りは感じませんでした。ですがその辺は専門家ではないのでよくわかりません」

「どうやって見つけたのでしょうか」

 

 おっと、想定外の質問だ。リディナが困っている。なら仕方ない。


「風の流れと空気の温度」

「アコチェーノで依頼を受けた後、少し狩りをしてから行こうという事で、山側へ向けて入ったんです。そうしたらフミノが見つけてくれました」


 よしよし、リディナありがとう。

 ここで少し間が空く。カレンさんは地図を見て考えている様子だ。

 そして小さく頷いた後、こっちを見た。


「これはフェルマ伯爵領にとっては非常に重大な発見となる可能性があります。出来る限り早く調査をしてそこが使用可能かどうか調べたいと思います。

 大変恐れ入りますが、明日の朝一番で、その洞窟を経由してアコチェーノまで案内していただいて宜しいでしょうか。


 こちらは私ともう1人、地属性の魔法持ちが同行します。彼女も女性です。もし宜しければ指名依頼という形で依頼を発出いたします。


 本来1泊2日の道のりですので調査・護衛2日分に指名依頼の料金2割を足して正銀貨12枚12万円の褒賞金となりますが、どうでしょうか」


 どうする? そんな目でリディナが私の方を見る。

 ここは私が答えた方がいいだろう。


「引き受ける。ただし指名依頼でなく一般の依頼として欲しい」


 理由は簡単、私達の名前を残したくないからだ。指名依頼と一般依頼ではギルド内の処理が異なる。その辺については百科事典に載っていたので知っている。


「一般依頼ですと正銀貨2枚2万円分安くなってしまいます。それに実績としても1ランク下がりますが宜しいでしょうか」

「それでいいです」


 リディナもわかってくれたようだ。


「わかりました。それでは今日はもう暗くなりますから、明日朝6の鐘で出発したいと思います。失礼ですが本日はどちらにお泊りでしょうか」

「村の外、西門を出た先の河原で野宿予定」


 それが一番気楽だし安く済む。お風呂だって入れるし。


「わかりました。それでは明日6の鐘と同時に私と調査担当の魔法使いで西門を出ます。そこで合流しましょう」

「わかりました」


 私が頷くのをリディナが確認して返答する。

 

「それとせっかくアコチェーノへ行きますので、もしよろしければ鉄インゴットの運搬依頼を受けて頂けますでしょうか。少量でも運んでいただけるとフェルマ伯領としては助かるようですので」


「わかりました」


 私達もそれで儲けられる。だからその提案は悪くない。リディナも同様に考えたようだ。


「それではここから倉庫に直接向かいましょう。前回と同じ400重2,400kgで宜しいでしょうか」

「それでお願いします」


 私も頷く。この辺は問題ない。


「それでは行きましょう」


 私達はマヨルカさんの後をついて、前にも行った倉庫へと向かった。

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