第58話 トンネルを抜けて
外へ出た後、家を収納。これで出発準備は万全だ。
「よく見ると向こうに白く見えるね。あそこが出口?」
私は頷く。このトンネルは完全に一直線。だから
「ところでリディナ、荷物で壊れそうなもの、ある?」
「いつも通りだよ。バッグの中は自在袋とパン種入りの防水袋だけ。だから大丈夫だけれど何?」
今の質問はこれから私がやる行動に必要なのだ。
「このトンネルはまだ安全か不明。だから出来るだけ早く通り抜けたい。その為にある魔法を使う。でもそれだけではリディナが一緒に来れない」
「それでどうするの。私は後から行けばいいの」
もちろんリディナを置いていくという選択肢はない。
人が苦手だがきっとリディナなら大丈夫。私の
「だからこうする」
私はリディナの背後にまわり、さっと両腕でお姫様だっこ方式で抱き上げる。
「えっ」
「縮地!」
起動したのは空属性レベル4の魔法。本には高速移動魔法と書いてあった。だが縮地の方が格好いい。るろ剣の宗次郎様とかテニプリの比嘉中、北の将軍様でお馴染みの魔法? だ。
「驚いた」
「高速で移動する魔法」
この魔法、なかなか恰好いい。戦闘にも逃げるのにも使えるだろう。効果もわかりやすいからリディナが驚くのも無理はない。
「ううん、魔法も確かに凄いけれど、フミノにだっこされるって思わなかったから」
おっと、驚いたのはそっちにか。確かにそう考えるとちょっと恥ずかしい気もする。
「ごめんなさい」
「ううん、私はこの魔法を使えないから仕方ないよね。それに思ったよりフミノが力があって逞しくて。見かけはそう見えないからそれでも驚いたかな」
怒っている雰囲気はなさそうなので一安心。
それでは向こう側とこっち側の坑口を隠しておこう。誰か入って、その時に崩れたりすると嫌だから。以前ゴブリンに洞窟拠点を占拠された事もあるし。
程よい大きさの岩を坑口を塞ぐように出しておけば完了だ。
「それじゃ行こうか。どっちの方向?」
「こっち」
どう歩くかは偵察魔法で目星をつけてある。後に使えるようアイテムボックスと踏み固め魔法で整備しながら歩くのは向こう側と同じ。
「どれくらい歩けば村かな」
「
高度差もそれほどない。向こう側よりはるかに楽な道だ。
ましてや山越えと比べたら……トンネルを掘って整備するのに魔力をかなり使ったけれど、それ込みでも山越えより楽だなきっと。
開けた河原に出る
ここからはそこそこ広い河原を歩いていくだけだ。雪解けのシーズンなら水も多いのだろうが今は中央部の一部を除けば乾いている。整備するまでもなく歩きやすい。
ほどなく耐熱煉瓦製の特長的な高い建物が見えてきた。
「随分と簡単に着くものなんだね。行きはあんなに大変だったのに」
「距離的にはこんなもの」
村壁と門が見えたところで先頭をリディナと交代。特に問題なく中へと入って、そのまま冒険者ギルドへ。
「トンネルの事を話していいんだよね。掘ったって言っていいのかな」
「言わない方がいい」
「なら見つけたという事にするね」
私は頷く。多少無理があるかもしれない。でもリディナなら何とかしてくれるだろう。
「こんにちは。この前運送依頼を受けて頂いたパーティですね。今回はアコチェーノからですか」
「ええ、それと途中で討伐した魔物や魔獣、採取した薬草と、報告1件です」
「それではまず魔物と魔獣について、魔石や討伐証明部位等を出して頂けますか」
「わかりました」
この辺はいつもと同じ手順だ。今回は期間も短かったので常識的な量。だから薬草も含めすぐ出し終わる。
「それでは次にアコチェーノからの木炭を確認します。倉庫へ案内いたしますからそちらで出してください」
同じように席を立って案内される。ここも倉庫は鉄インゴットとは違う場所だった。
「これだけ運んでいただけると大変助かります」
その辺はいい。
再びカウンターに戻ってきて、まずは依頼や討伐、薬草採取の褒賞金を貰う。計算も額も問題ない。
さて、此処からどうなるか。
「それで報告とは何でしょうか。特殊な魔獣でもいましたでしょうか」
「いえ。発見です。アコチェーノ付近からここローラッテ近くまで続いている洞窟を発見しました」
「えっ……本当ですか!」
その勢いに思わず私は後ろへと逃げそうになる。リディナ以外だとやっぱり怖い。たとえ相手が若い女の人であっても。
「ええ。つい先ほど、アコチェーノからその洞窟経由でここまで来たばかりです」
「わかりました。少々お待ちください」
だだっという感じでお姉さんは事務室の奥へと消える。どうしたのだろう。そう思ったらすぐ戻ってきた。
「こちらでお話を聞かせていただけるでしょうか。ギルドマスターが直接詳細を伺いたいと申していますので」
ちょっと待ってくれ。
「すみません。うちのフミノは対人恐怖症で男性が苦手なんです。狭い部屋に他人といるのもかなり辛いのですけれど」
「わかりました。魔法使いさんだと時々そういう方もいらっしゃいますよね。
それでは話を聞くのは女性のサブマスターに致しましょう。あと部屋は広い部屋を用意させていただきます。窓も開けておきますけれど、それで大丈夫でしょうか」
リディナが私の方を見る。それだけしてくれれば短時間なら大丈夫だろう。だから私は小さく頷く。
「わかりました。それでお願いします」
「それでは準備して参ります。少々お待ち下さい」
助かった。でもちょっと面倒な事になったかな。そう思いつつカウンター席で待つ。
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