第49話 疲れた末の危機
翌朝、明るくなるとほぼ同時に起きて家を撤収。
今日の朝食はガレだ。アレティウムで買ったものだがアイテムボックスのおかげで買ったときのまま。まだ作った時の温かさが残っている。やっぱり美味しい。
「今日は下りだけだから楽だよね」
私は頷く。そう、この時は私もそう思っていたのだ。
最初の半時間程度は快調だった。明るいおかげで魔獣や魔物は昨夜よりは出にくい。途中まではなだらかな尾根上を歩くので歩きやすい。
晴れていて空も青く、思わず鼻歌が出そうなくらいだ。
しかしその先、急な下りになってから。
「ひょっとして下りの方が足に厳しいのかな?」
「そう感じる」
勿論上りの方が体力を使う。しかし下りの方が足の筋肉に負担がかかるような気がするのだ。
その感覚は次の半時間で間違いないものとなった。
「フミノごめん、回復魔法お願いしていい」
私は頷いてリディナと私の脚双方に回復魔法をかける。ふくらはぎや足首に感じる危険な感じが少しだけ楽になった。
「まさか下りの方が厳しいなんて思わなかったね。てっきり今日は楽だと思っていたのに」
「同感」
筋肉の使い方が上りと下りで違うのだろう。下りの方が筋肉に負担がかかるらしい。かなり辛い。
しかもローラッテからの上りよりアコチェーノへの下りの方が長い気がする。いや絶対に長い。間違いない。
「これを下るのも辛いけれど、これをまた上ってくるのもまた辛そうだよね」
頷く。確かにそうだ。上りは下りより筋肉に負担はかからない。でも体力は下りより間違いなく消耗する。
更に言うとこの辺の山は木々の間隔が揃っていて下草も狩り込まれている。木々の間隔は一定だし枝打ちもされている。
つまり管理されている林だ。勝手に切る事は出来ない。
つまりあのお家を出せるような広い場所は昨晩泊まった稜線上以外には無い。だから小さめの家を作らない限り、帰る際は稜線上まで一気に登る必要がある。
障害は坂と筋肉痛だけではない。
「魔猿。前方に群れ」
この上更に魔獣や魔物が出てくるのだ。魔猿はそれほど強くないけれど数が多い。疲れる。泣きたい。
「ごめん。私の魔法だと木まで切ってしまいそう」
「大丈夫。私が仕留める」
魔猿は大きさがそれほどでもない。だから樹上にいても土を大量に出してやれば落とせる。それで枝が折れるのは不可抗力という事にして貰おう。
「止まって。ここで待つ」
そう指示してリディナの前に出る。まずは目の前の事を片づけてから。早く下りてインゴット渡して楽になりたいけれど仕方ない。
◇◇◇
無事インゴットと依頼書を渡し、冒険者ギルドのカウンターへと戻る。
今はカウンターで狩った魔獣や魔物も出し、計算書と褒賞金を待っている状態だ。
「今日は早く休もう」
私は頷く。疲れた。もうボロボロだ。
「宿、取る?」
リディナは首を横に振る。
「お家の方がいい。お風呂があるから」
うんうん、それはわかる。しかしお家は街中では出せない。
「場所は?」
「ここで聞いてみる。どうせこの街で新しい家を頼むんだよね。ならバレても問題ないかなって」
本当に問題はないのか微妙に怪しい。しかし私も疲れていた。だからつい頷いてしまう。
受け付けてくれたお姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが褒賞金と計算書になります。確認をお願いします」
さっと見る。合計で
「大丈夫です。ところでこの辺で野営できるような場所はありませんか。出来るだけここから近い場所で」
「そうですね。トランダ川の河原でしたら問題無いかと。この季節は水があふれる事もありませんから。前の道を左に行けばすぐです」
おお、近い事はありがたい。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。またよろしくお願いいたします」
ギルドを出て左へ。僅かな上りでも足が厳しい。リディナと2人でずるずる足を引きずりながら歩く。
街が切れて堤防があらわれた。これもずるずるとのぼる。酷使した脚の筋肉が悲鳴をあげる。治療魔法を何度もかけているのだがもはや効果はほとんどない。
堤防をのぼると川が見えた。川とだだっ広い河原。川に近い場所に丸太が置いてある以外は砂利と草で平らな場所だ。
「ここならお家を出しても大丈夫だね」
私は頷く。
堤防を降りる時は後ろ向き。筋肉が真っすぐ坂を下りる事を拒否している。だが下り坂を後ろ向きに歩けば何故か足が少し楽。これは山を下りる途中リディナが発見した。
降りてすぐの場所を地属性魔法で整地。家を出す。
「お風呂、フミノが先に入って。ちょっと私、もう動きたくないから」
リディナが靴を脱いだすぐ先でばたっと床に倒れた。とりあえずリディナの前に皿とコップを出し、サンドイッチと乳清飲料を出しておく。
皿などを置いたのは床だ。椅子に座れる気力も無さそうだから。
「ありがとう」
そして私は風呂へ。服を脱ぐのももう面倒。だからアイテムボックスへ着た状態からそのまま収納。今度着る時には結び目をほどかないとならないが、その時は今より疲れていないだろう。
魔法でお湯を出してそのまま浴槽へ。うん、ぬるめの湯が身体にしみわたる。あまりの快適さに思わず寝てしまいそうになるが何とか堪える。寝ると死ぬぞという奴だ。
やばい。何とか耐えろ私。眠気に負けるな。
こういう時は何かするに限る。と言っても疲れる事はしたくない。だから普段と同様、偵察魔法を起動し視点を動かす。
おっと、常に起動していたおかげだろうか。空属性がレベル4になっていた。今まで以上に視点が動かせる。2
しかも視点が2つ持てる。一つを自分の直近にしてもう一つを2
偵察魔法の家に近い方の視点が危険を察知する。人だ。それもがっしりとした体格の中年男がこの家に向かっている。
どうしよう。相手は人間。だから穴に埋める訳にはいかない。土を出してもいけない。どうしよう。
とりあえず早く服を着なきゃ。お湯を収納して服を着ようとする。
そう言えば着たまま収納したんだった。着るのに結び目が邪魔だ。こういう時に限って結び目がほどけない。ひっぱるだけでほどける筈が何故か固結びになってしまった。
ほどこうとあがきながら必死に考える。どうしよう、どうしよう……
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