第10話 作戦会議

 さて、パーティを結成したから作戦会議だ。歩きながら私はリディナに今の状況をもう少し詳しく説明する。


「最低限したい事は服を手に入れること。今着ている服の替えが無い。お金は持っていない。代わりに狩った魔獣の死骸と魔物の魔石をバッグに入れてある」


 うんうんとリディナは頷く。


「服ね。古着屋で探せば安いかな。いくつか店を知っているから大丈夫だと思う。ところでそのバッグ、そんなに物が入るの?」


 アイテムボックスのスキルは説明しない。その程度の用心はしておいた方がいいだろう。


「このバッグは私専用の自在袋。かなり入る。私しか使えない」


「なるほど、流石魔法使いの持ち物ね。それで魔物や魔獣はどれくらいあるの? 念のために聞いていい?」


 あっさり納得してくれたようだ。なら続けよう。


「ゴブリンの魔石15個、アークゴブリンの魔石1個。あと灰色魔狼の死骸18匹、白魔狼2匹、魔猪3匹、闇熊1匹。あと魔イタチや魔ネズミ沢山。他に薬草が少し」


 お金になりそうな物の在庫をひととおり教える。私より彼女の方が適切な換金先を選んでくれるだろう。そう判断してだ。


「そんなにあるの!」

 驚く声におもわず心臓が縮こまった。反射的に私の足が止まる。


「あ、ごめんね、驚いた?」


 私が過剰に反応していることはわかっている。決してリディナが悪いわけじゃない。

 

「ごめん。大きい声も苦手」

「わかった。気をつけるね」


 リディナに悪気が無いのはわかっている。この辺は全て私の経験のせいだ。もうあの世界とは関係ないとわかっているのだけれども。


「それだけあれば1月は余裕で暮らせるよ、宿代含めて服を買っても。でもそれならやっぱり冒険者ギルドに登録した方がいいかな。業者と直接取引する量じゃないし、ギルドを通した方が目をつけられにくいから」


「任せる」

「なら街入って、冒険者ギルドに登録して、審判庁、服屋、そして宿ね」


 うう……一気にそれだけの仕事をこなすのか。街に入る為の審査検問もあるし、私の精神が持つだろうか。


 でもギルドに登録しないとお金が手に入らない。審判庁へ行かないとリディナが罪を着せられかねない。服屋へ行かないと目立つ異世界の服で過ごすことになる。


 うん、仕方ない。どうしても駄目そうなら、その時リディナに言って判断して貰おう。


 ひたすら森の中の道を歩いていく。監視の魔法が魔物の反応を捉えた。

 これはゴブリンだな。3匹、森の中からこの街道へ向けて近づいてくる。


 少し早めに歩けば無視して通り過ぎる事も出来そうだ。でもまずはリディナに聞いてみよう。


「ゴブリンって魔石、お金どれくらい?」

「確か褒賞金は1匹あたり小銀貨3枚3,000円だったと思うけれど」


 そこそこいい金額だ。なら倒しておこう。 


10半時間6分以内にゴブリンが来る。3匹。仕留めるから待って」


「そんな事わかるの? それも魔法?」


 私は頷く。これは間違いなく魔法だから。


「どっちから来るの? 危なくない?」

「左。問題ない。馬車や人は来ない」


 リディナがダッシュで右側へ。そんなにゴブリンが怖いのだろうか。

 私にとってゴブリンは雑魚だ。人間より小さい分力も弱い。もう何度も倒したから慣れてもいる。


 アイテムボックス内を確認。土の量は十分だ。いつでも出せるようにイメージしておく。監視でゴブリンの方向と速度を確認して、出てきそうな場所を再確認。


「出る」


 3、2、1、見えた。木々の間からゴブリンの姿が。

 奴らも私達を目視できたらしい。弱そうな掛け声を出して街道上へ出てきた。今だ!


 アイテムボックスから土を出す。量はゴブリンが首まで埋まる程度。あっさり奴らは動けなくなる。


 2匹が首だけ土から出ている状態。1匹はしゃがむか転ぶかしたらしく土の中に埋まってしまった。まあいい。まずは見えている2匹から。


「火炎」


 火の魔法のレベル2で首から上を灰にする。うん、完全に死んだ。残りの1匹は蒸し焼きだな。土全体に温度上昇をかける。目標温度は摂氏100度。この世界にそんな単位はないけれど。


 監視魔法で土中のゴブリンが死んだ事を確認。それでは魔石の回収だ。土を収納して、残ったゴブリンの屍体を火炎魔法で燃やす。


 残るのはピンポン玉大で緑色の魔石が3個だけ。これも収納して一件落着だ。


「終わった」

 

 私はリディナの方を見る。おかしい、動かない。ステータスを確認。どうやら恐怖で硬直している模様。


 今のがゴブリンでは無く男の人なら私がこうなるのだろう。でも恐怖耐性(1)があるから私の方がましかも。そんな事を思いながら障害除去の魔法をかける。


 ふううっ。大きく息をついてリディナがふらついた。倒れるか、そう思ったが何とか姿勢を立て直す。


「近くで見るとやっぱりとんでもないよね。こんなに強いのにどうして人が苦手なの」


 そう言われても困る。あ、でも思いついた。


「魔物は倒せばいい。人は倒すとまずい」

「何よそれ。確かにそうだけれど」


 笑われた。何故だろう。私は冗談を言ったつもりはないのだけれど。

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