第四章 おっさんと魔王
第33話
「いやー、よく来てくれた。わしがこのギルドの所長、ヤコブ・オルゴンじゃ! 急な呼び出しに応じてくれたこと感謝する」
「は、はあ」
ヴァンは予想と違ったギルドマスターの姿に、少し戸惑っていた。それは後ろにいたソフィアも同じようで、小声でクレイに話かける。
「ちょっと、あの小っちゃいのがギルドマスターなの? 思っていた感じと違うんだけど」
「そうだな……俺も、もっとごついおっさんを想像してたんだが」
クレイも小声で答える。その横でガルムはしかめっ面をしていた。
――なんなんだよ一体……。早く決めないと、ボードの依頼書はいい物から無くなっていくんだぞ! 分かってんのかよ、あのじいさん。
金にならない呼び出しにイライラしていたが――
「今回来てもらったのは他でもない。前に君たちが達成した依頼〝坑道内の魔物討伐″についてじゃよ」
「何か問題でも?」
ヴァンが不安気に聞くと、ヤコブはいやいやと笑い、大きく
「違う、違う。君たちに感謝と詫びを伝えようと思っての」
よく分からず、ヴァンたちは顔を見合わせた。
「あれはギルドの調査でCからBランクと判断した案件じゃった。だが実際はBランクの〝アルバトロス″や〝水無月″でも大怪我をしたと聞いておる。これは我々の失態じゃ、本当にすまんかった」
「い、いえ、そんな……」
ヴァンは率直な謝罪に戸惑う。ギルドマスターと言えば、ブリテンド王国にある全ギルドのトップに当たる存在。
その人物が一介の冒険者に頭を下げるなど、普通では考えられない。
「しかし、何より驚いたのは君たちじゃ」
「俺たちですか?」
困惑したヴァンを見て、ヤコブはニヤリと微笑む。
「Bランクの冒険者でも倒せなかった魔物を、Cランクの君たちが倒したと聞いておる。それほど実力があるとは知らんかった」
「え、ええ……それはどうも……」
ヴァンは返答に困る。魔物を倒したのはガルムのおかげだが、ここで言うことでもない。
言い淀んでいるヴァンを尻目に、ヤコブは話を続けた。
「そこで詫びついでに、君らの実力を確かめたいと思ってな」
「確かめるってどうするの?」
後ろで静かにしていたソフィアだが、堪らずヤコブに聞き返す。ヤコブはコホンと一つ咳をした後、真剣な眼差しで〝大鷲″のメンバーを見渡した。
「ギルドが選んだBランク相当の依頼を三件、君たちにやってもらいたい。全ての依頼を達成することができれば、メンバー全員の1ランク昇格を認めよう」
「え!? 本当ですか!」
ヤコブの言葉に驚くヴァンだが、それはガルムや他のメンバーも同じだった。
Cランクに上がったばかりのヴァンがBランクに上がるとすれば、どんなに早くとも一年はかかる。
それが、たった三件の依頼達成で昇格できるなど破格の条件だ。
それもメンバー全員の昇格。信じられないといった表情を浮かべるヴァンを他所に、ヤコブは話を続ける。
「君たちがBランク以上の実力があるなら、Cランクのままというのもおかしいしのう。だが知っての通り、ギルドランクというのは単に強さを表す指標ではない」
「それは、もちろん知っています!」
ヴァンが緊張した面持ちで答えると、ヤコブは頷き、口角を上げる。
「そこで、君たちが信用できるか確認したいんじゃ。〝大鷲″はまだまだ経験の浅いパーティーだからのう。どうじゃ、やってみるか?」
ヴァンやガルムたちはお互いの顔を見合わせるが、答えは当然決まっていた。
「「「もちろん、やります!!」」」
◇◇◇
ギルドからの帰り道。〝大鷲″のメンバーはナターシャから渡された依頼書を眺めていた。
《緊急募集・羅刹鳥二百羽の討伐》
ポトルル村に大量発生した羅刹鳥により、農作物に甚大な被害がでております。
また、子供が襲われるケースもあるため、ポトルル村の村長から緊急の討伐依頼がだされました。
求めるパーティーの条件はBランク以上。詳しくは受付にてご確認下さい。
「〝羅刹鳥二百羽の討伐″か……この羅刹鳥って、そんなに強いのか?」
ガルムの疑問にヴァンが答える。
「一体一体はさして強くはない。だが空を飛ぶうえ、かなり速いと聞く。二百羽ともなれば大変だと思うが……」
「さすがBランク相当……簡単にはいかないか」
ガルムが溜息まじりに呟くと、ヴァンが立ち止まり振り返る。
「取りあえず、明日この村に行って状況を確認しよう」
「そうね。ポトルル村はここから近いし! もし準備が足りなければ、また戻ってくればいいじゃん」ソフィアも同意し、村に行くことが決定した。
日が沈み始めたので解散となり、個々に準備をするため、それぞれ帰路につく。
そして翌日―― Bランクに上がるためのクエストが始まった。
◇◇◇
ポトルル村。ブリテンド王国の北東に位置する小さな村で、農業を生活の糧として村人は生活していた。
そんな村で魔物の被害が多くなったのは、近隣で魔王軍と連合軍の大規模な戦闘があってからだ。腐乱した魔物や人間の死体が放置され、その中から死体を喰らう魔物〝羅刹鳥″が生まれる。
死を司る鳥は空を舞い、人を襲い田畑を荒らした。村人の力では退治することができず、ギルドに依頼することになる。
朝早く出発し、昼過ぎにはポトルル村に着いた〝大鷲″の一行。
「安心して下さい。必ず全ての魔物を討伐しますので」
「おお! それはありがたい。どうかよろしくお願いします」
ヴァンがポトルル村の村長に挨拶して、さっそく〝羅刹鳥″がいる畑に案内してもらう。
「おー、いるなー!」
ガルムが右手でひさしを作り、辺りを見回す。木の上や、田畑の脇など数十羽の〝羅刹鳥″が我がもの顔で居座っていた。
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