運命の日
第41話 誰だ
◆ ◆ ◆
目を開けると、そこには見慣れた景色が広がっていた。
夢屋の事務所にエリックとエマとレオがいる。棚のカレンダーを確認すると、十二月二十四日の夜だった。
エマは酒を、エリックは七面鳥の丸焼きを、レオはホールのケーキを持ってきて、楽しそうにパーティーの準備をしている。
電子暖炉の火がパチパチと火の粉を散らし、窓の外にはしんしんと雪が降っている。
呼び鈴の心地よい音を鳴らし、扉を開けたのはマーサだった。その後ろには、雪の妖精のような美しい乙女が……
「リリー! もう歩けるようになったのかい? ああ、こんなに凍えて。暖炉のそばへおいで。すぐに紅茶を淹れてあげるからね」
「いいの」
「え?」
「もういいのよ、ノア」
「何を言ってるんだい、リリー。……リリー?」
気がつくと、そこにリリーの姿はなく、ただ足元に雪が一山積もっていた。まるで本当に雪の妖精が溶けてなくなってしまったかのように。
ノアは慌てて膝をつき、雪の山をかき集める。けれど、それはみるみる泥水に変わり、やがてノアの袖を濡らして消えた。
「そんな、リリー、リリー!!」
くすくすくす
振り返ると、そこはもう夢屋ではなかった。一面に闇だけが広がり、跪くノアを取り囲むように皆が揃って立っていた。
エマ、エリック、レオ、マーサ、マーガレットにアイザック、立花親子にヘレン、モーズリーの一家も揃っている。
アイザックの秘書や立花家の使用人まで勢ぞろいだった。姿形から誰であるかは分かるのに、何故か表情だけがもやがかかったように曖昧で読み取れない。
「「「裏切り者はだ~れだ」」」
一斉に唱えられる呪文。表情は分からないはずなのに、全員が薄気味悪い笑顔を張り付けているように感じる。
くすくすくす、笑い声がどんどんと大きくなる。
「「「裏切り者はだ~れだ」」」
「やめろ、やめてくれ…… 僕は皆を信じてる……」
「嘘だ」
「うそつき」
「「「だ~れも信じてないくせに」」」
「違う!!! 僕は、だれも、みんな、なかまで、だからっ……」
その時、ふいに誰かが背後から覆いかぶさってきた。
沼の底から這いあがってきたかのような緩慢な動きで、死人のように冷たいその腕はゆっくりとノアの首に巻き付いてくる。
耳元で、あの懐かしい声が響く。絶望の色を伴って。
「ノア、助けてくれ。父さんを、殺さないでくれ」
「ひっ」
くすくすくす、あはは、あはははは、いひひひひひ。
巻き付いた腕はいつの間にかノアの首を絞め、ノアはずるずると闇の底へと引きずり込まれる。
仲間だと思っていた者たちは堕ちていくノアを見て笑うばかりで、誰ひとり手を差しだす者はいない。
「だ、れか…… たすけ……」
「「「裏切り者はだ~れだ」」」
裏切り者は……
◆ ◆ ◆
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