7.<検閲されました>
***
ヴァンとエルリアは真剣な表情で対峙していた。陶芸教室は一旦お休みし、夫婦の性生活に関する重要な話し合いだ。
「ヴァン様、正直なところを教えてください。ヴァン様は<検閲されました>にご興味はないんですか?」
エルリアは多人数参加型のとても淫らなパーティーを示す言葉を放った。
「他の皆様はあまり気が進まないご様子なのは分かっています。ですが、ヴァン様がしたいと仰るなら何だかんだで皆様も受け入れてくださると思うんです」
「……」
「皆様すごく仲が宜しいですし、一度体験してみれば協力してヴァン様をヒーヒー言わせるのが楽しくなってハマっちゃうパターンもあると思うんです。ですからヴァン様が一押ししてくだされば……」
随分と都合の良い予想な気もするが、確かにそんな絵がイメージできないわけでもない。皆ヴァンの幸せを最優先に考えてくれる最高の妻だ。ヴァンが嬉しそうにしていることを一番喜ぶ。
「……滅茶苦茶興奮するっていうのは否定しない」
ヴァンは正直なところを吐露する。
「俺は全員、死ぬほど愛してる。結婚して何年経とうが出会ったばかりのように新鮮にな。未だに手を繋ぐだけで<検閲されました>しかねないほどだ」
「そ、その段階はもう卒業してくださいよ……。毎日<検閲されました>の奥まで触ってるじゃありませんか」
「そんな皆が一斉に、と考えると……、単純に刺激が八倍だ。どうにかなってしまうほど興奮するとは思う」
「でしたら────」
「だ、だがな。問題が二つある」
ヴァンは粘土で汚れた指を二本立てる。
「まず、興奮しすぎて本当に死ぬ恐れがある……!」
「……や、やり遂げかねませんわねヴァン様は……」
つい先ほども妻が可愛いというだけで腰を抜かしたヴァンである。八人の妻が<検閲されました>で<検閲されました>な姿を同時に見て、八人がかりで<検閲されました>でもされようものなら、その興奮は致死量に達するだろう。そしてヴァンの死は母国の滅亡に直結する。
「もう一つは……やっぱり他のみんなの気持ちだ。頼み込めば受け入れてくれるのだとしても……、嫌な気持ちにさせてしまうのは気が引ける……」
あちらがヴァンのことを一番に思っていてくれると言うのなら、ヴァンだってあちらを一番に思っている。ただでさえ一夫多妻という不遇を味わわせてしまっている身。これ以上の奔放は許されないとヴァンは思う。
「……そうですか」
エルリアはしょんぼりと俯いた。
「……ヴァン様は、
「……」
「でも
他の妻の気持ちを大事にするというなら、エルリアの気持ちも大事にしなければならないのがヴァンの立場である。ヴァンは代替案を用意していた。あまり気が進まないのだが────。
「……エル、これは君の性癖とはズレているのかもしれないが……、こういうのはどうだ?」
「え……?」
「その……、俺の方が増えるっていうのは……」
ヴァンは分身が可能である。
エルリアは一度目を見開いた後、今度は眉間に皺を寄せ、顎に指を当て、頭上に視線を向けて考えを巡らせる。そして十秒後────、
「…………♡」
とてもエエ顔で笑った。
「それは何とも研究しがいがありますわね……! ワクワクしてきました……! わ、
「ああ、かかってこい……! 俺は無限に増えるぞ……!」
「わぁ……♡ ありがとうございます!
どうやらヴァンの提案は大層気に入って頂けたようだ。最中に別の自分が居るというのは奇妙なものだが、彼女は本当に分身全員をバッタバッタと薙ぎ倒して行きそうなので分身同士で揉めることもあるまい。
「ヴァ、ヴァン様! 早速……!」
エルリアはいそいそと作業着のジャケットを脱ぐ。
「い、今か?」
「はい! もう
「わ、分かった……! だがちょっと待ってくれ、手を洗わないと」
陶芸の途中だったヴァンの手は粘土で汚れている。こんな手で彼女のデリケートゾーンを触るわけにはいかない。
ヴァンが洗面所に向かおうとすると、エルリアはそっとヴァンの袖を掴んだ。
「……やだ。待てない」
エルリアはここに来て、敬語をやめた。
「ず、ずるいぞ……!」
「フフ♡ 本当は
そりゃあもうである。だが実際問題手は清潔にしなければ。
「ヴァン様は寝ているだけで構いませんから。今日はずっと
にしたってエルの手も汚れている。ヴァンの<検閲されました>が病気にでもなろうものなら妻全員に迷惑が────、
「
「……! こ、降参だ……!」
「では、いただきます……♡」
────ヴァンはこの日、三キロ痩せることになる。
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