ルーズベルトの宮殿

「おお、出来るじゃないか」


 シグルズとクロエは一瞬視界が真っ白になるほど眩い光に照らされた。マキナはイズーナの能力を引き出し、巨大な炎を出すことに成功したのである。


「あ、ああ、そのようだな」


 一番驚いているのはマキナであった。まあそれも当然だろう。本人の認識としては寝て起きたら赤の魔女のビックリの魔法を使えるようになっていたことになるのだ。


「マキナ、大丈夫ですか? 疲れたりとかはしていませんか?」

「はい、クロエ様。特に問題はありません」

「よかったです。なら、あのアメリカ人を皆殺しにしましょう」

「はっ」


 マキナにこの魔法が使えるのなら、あの大量の魔女を殲滅するのも不可能ではない。ここでやらなければ人類軍は全滅するだろう。クロエをマキナを守るように鉄の壁を何枚か作り、シグルズは対空機関砲を数十作り出し、マキナを護衛する。


「じゃあ行くぞ、マキナ。準備はいいな?」

「ああ」

「よし。開戦だ」


 最初に攻撃したのはシグルズである。全ての対空機関砲が一斉に火を噴き、たちまち数百の魔女を殺した。アメリカの魔女は戦闘態勢に入り、一斉にシグルズ達めがけて突撃して来た。


「今だ、マキナ!」

「分かっている!」


 数万の蝿が群がってきたところで、マキナの竜巻のような炎がそれらを焼き払った。炎は上下左右を次々に焼き払い、炎の海に呑まれた魔女は一瞬にして焼け死んだ。火力も範囲も一級品である。まるで太陽がすぐそこに昇ってきたかのような炎は、地上の人類軍からでもよく見えた。


 取りこぼした魔女はシグルズとクロエが殺し、マキナはひたすら炎を放つ。アメリカの魔女は結局、マキナに触れることすら出来なかった。20分ほどの戦闘で、全ての魔女は焼け落ちたのである。


「よくやってくれましたね、マキナ」

「あ、ありがとうございます」

「喜んでる時間はない。進むよ」


 ルーズベルトの奥の手であろう魔女をいとも簡単に殲滅してしまったシグルズ達。ようやく道が開けた。急がなければならない。


「――あれが、報告にあった建物か……」

「ゲルマニアみたいな建築ですね」

「まあ、君達のと比べたらな」


 地下基地への入口のような、鋼鉄で造られた直方体の無機質な建物が、雪の中にポツリと建っていた。ゲルマニアよりも近代的なその建物は、やはり現生人類のものではない。シグルズ達は早速その傍に降り立ってみた。


「普通に入れるみたいだな」


 建物には大きなガラスの扉が着いており、シグルズ達が近付くと勝手に開いた。


「な、何ですか? 魔法の扉ですか?」

「自動扉だよ。人間を感知して勝手に開くんだ」

「敵に監視されているのではないだろうな?」

「まあその可能性もある」


 どの道、招かれるままに入るしかない。三名は無機質な建物に足を踏み入れた。その内部もまた特に何の調度品も置かれていない殺風景な空間である。と、その時、奥から足音が聞こえてきた。


「誰だ!」


 シグルズはすぐさま機関砲を作り出して構える。階段を登って地下から上がってきたのは、シグルズにはよく見覚えのある、古代人みたいな格好をした青年であった。


「やあ、シグルズ。また会ったね」

「……大天使ルシフェル、ですか。何でこんなところに」


 取り敢えず銃を下げるが、警戒は解けない。


「君達の道案内をしようと思ってね。ルーズベルトの本体は、この下にある。破壊したいのならば、こっちに来るんだ」


 ルシフェルはシグルズ達を案内しようとするが、クロエは警戒した声で問う。


「待ってください。ルーズベルトの居場所を知っているのなら、どうして貴方がルーズベルトを殺さないんですか?」

「僕はあくまで、人間に道を指し示すことしか出来ないんだ。最後の決定は、人間がしないとね。それに、やろうと思ったとしても、大天使は大天使に危害を加えることが出来ないようになっているんだ」

「そうですか。シグルズ、本当に信用出来るんですか?」

「僕は信用している。大体、罠だとしたら無意味に手が込み過ぎだ」

「……いいでしょう。行きますよ。マキナもいいですね?」

「もちろんです」


 ルシフェルに連れられ、階段を下っていく一行。地下には照明もなく、シグルズが魔法で火を灯さなければいけなかった。


「どこまで下がればいいんですか?」

「地下5階が目的地さ。そろそろだよ」


 長い階段を降り続けると、どうやら階段下の一番下に到達したようであった。地下5階である。扉を開けると、先程までとは打って変わって、人工的な白い光に満たされた広い部屋があった。部屋には隅から隅までよく分からない機械が並んでいる。


「ここが目的地、と言いたいところだけど、もう少し奥にルーズベルトの本体がある。もうちょっとつきあってくれるかな?」

「無論です」


 シグルズが歩みを進めようとする、その時であった。部屋の奥から別の足音が聞こえてくる。現れた人影は、もう見飽きた不愉快な悪人面の男である。


「やあやあ皆さん、それに大天使ルシフェル。よくぞお越しくださいました」

「ルーズベルトか。まあ、ここにいない訳がないよな」


 ルーズベルトは恭しくお辞儀をする。シグルズは対魔女狙撃銃を作り出し、クロエは魔法の杖を構えた。

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