ルーズベルトの焦り
「だ、大丈夫ですか……?」
クロエは倒れかけるイズーナを咄嗟に抱き留めた。イズーナはすぐに、少し苦しそうに目を開けた。
「うっ……クロエ様……?」
「え、まさか、本当にマキナなんですか……?」
「……? はい、私はマキナですが……」
「そう、ですか。よかった……。本当によかった……戻って、来てくれて……」
「い、一体、何を……」
困惑するマキナを強く抱きしめるクロエ。イズーナが消えたのか影を潜めただけなのかは分からないが、人類にとって最大の脅威は少なくとも消滅したのである。
○
その頃、イズーナが消えたことは、ルーズベルトもすぐに察知していた。トルーマンが死んだ今、彼の宮殿である地下壕で、彼の隣にいるのは諜報活動を担当するドノバン長官だけであった。
「イズーナが、死んでしまった。我々にとって最も頼れる味方が、死んでしまったのだ……」
ルーズベルトは頭を抱えながら、焦りを隠せなかった。それもそうだろう。レギオー級の魔女に対抗し得る唯一の戦力が失われてしまったのだから。
「しかし、イズーナというのは、アメリカを滅ぼそうとしていたのでしょう? どの道いつかは排除しなければならないのなら、今排除しても構わないのでは?」
「今、この場だけは負ける訳にはいかないのだよ。イズーナはまだまだアメリカを滅ぼす気はなかった。ここで負ければ、アメリカは終わりだ」
「余裕がありませんな、大統領閣下。閣下らしくもない。どこからでも無限に兵士を生み出せるこの場所で、アメリカが負けると?」
「……そ、そうだな。アメリカが負ける訳がない。レギオー級の魔女とて、こちらの魔女の人海戦術で推し潰せばよいだけだ。何も、焦ることはないな」
そう言いながらも、ルーズベルトの顔は少し青くなっていた。ドノバン長官は訝しんでいたが、特にそれ以上言及することはなかった。
「ともかく、今は戦いに集中しましょう」
「ああ、その通りだよ、ドノバン長官。人類などがアメリカに刃向かったらどうなるのか、奴らをその見せしめにしてやろうじゃないか」
「頑張ってください」
客観的に見てルーズベルトの優位は揺るがない。ルーズベルトは人類軍への攻撃を続ける。
○
さて、マキナを取り戻したクロエの顔は明るいが、戦況は全く明るくない。
『中将閣下! 敵が! 敵がまた現れました!!』
「分かった。全軍、戦線を維持せよ」
ようやく8万の敵軍を撃退したと思ったのに、またしても敵が前と後ろに現れた。人類軍は絶望的な状況に置かれている。
「クロエ、今度こそ、僕達でルーズベルトを殺しに行くしかない。イズーナの邪魔が入らないなら、僕達だけで行ける筈だ」
「……そうですね。ルーズベルトだけなら何とかなるでしょう。今度こそはやって見せます」
クロエとシグルズは再びルーズベルトを殺しに向かうことにした。ちなみに朔については重傷故に治療と休息を優先してもらっている。
「マキナ、あなたも来てくれますよね?」
「無論です。クロエ様の赴くところならばどこで、私は駆けつけます」
「頼もしいね」
「…………」
マキナがクロエを一人で死地に放り込むのを許す筈がなく、マキナも同行することとなった。レギオー級の魔女と言ってもいいのか微妙な存在ではあるが、強力な味方であることは間違いない。三人はすぐさま飛び立った。
「マキナ、イズーナの魔法を使えたりとかはしないのか?」
シグルズは戯れに尋ねる。
「私にはイズーナになっていた記憶はない。もしかしたら使えるかも知れないが、今は無理だろう」
「そうか。まあいい」
「二人とも! 前を!」
その時であった。シグルズ達の進む先に黒い巨大なモヤのようなものが突如として出現したのである。それが何なのか、全員に見覚えがあった。
「アメリカの魔女か……。こんな奥の手を残していたとはね」
「あんな数、流石の私でも少々厳しいですね……」
シグルズもクロエも、これほどの魔女を相手にしては、数の暴力に押し負けること間違いないだろう。
「クロエ様、ここは姿を隠してルーズベルトの許まで直行することとしましょう」
マキナは彼女特有の透明化の魔法で、敵など無視してルーズベルトを襲撃しようと提案する。
「ですが、それではあの大量の魔女が人類軍を襲います。あんな数に襲いかかられたら、人類軍はひとたまりもないでしょう」
「それはそうですが……かと言って私達であれを食い止められる訳ではありません」
クロエ達が戦ったところで、あの大群をどうにか出来る訳でもない。ならばとっととルーズベルトを殺しに向かおうと、マキナは提案する。
「マキナがイズーナ並に魔法を使えたらありがたいんだがなあ」
「無理だと言っているだろうが」
「マキナ、一応試してみませんか? もしもイズーナの魔法が使えたら、事態を打開出来ます」
「クロエ様のご命令であれば……。しかしイズーナの魔法とは、何をすればよいのですか?」
「こういう時に有効なのは、巨大な炎を出す魔法だろうね。僕達ゲルマニア軍はそれに散々殺されたよ」
「……炎の魔法、か。いいだろう。試してやる」
マキナはシグルズとクロエから少し離れると、二人に背中を向けて手に力を込めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます