レモラの戦いⅢ

「あれほどあった敵軍が、もうほとんど残っておりませんな……」

「ええ。もうじき全滅することでしょう」


 最初に突撃してきた部隊はほとんどが死体になった。しかしガラティア軍はまだまだ残っている。


「敵軍の第二波、進軍を始めました!」

「波状攻撃でもしたいのか。まあいい。やることは同じだ。一人残らず殲滅せよ!」

「少将閣下、こちらもそれなりに機関銃を破壊されているようですが、大丈夫ですかな?」

「大丈夫です。機関銃はすぐに取り外し、反対側にある機関銃と交換します。それに、例え火力が半分になろうとも、奴らを撃退するには十分です」


 機関銃が肉薄した敵に破壊されるのは想定内。最初から装甲列車の左右に機関銃が設置されているし、その他にも予備の機関銃は沢山持ってきている。兵士達は素早く壊れた機関銃を交換し、次の敵に備えた。


「列車砲、撃ち方始め!」


 装甲列車は同じように迎撃を開始。装甲列車に肉薄するまでに半分以上の敵兵を殺傷し、肉薄した敵もまた、ほとんどが何も出来ずに撃ち殺されたのであった。


 ○


「第二梯団も、壊滅、しました……。敵にはほぼ打撃を与えられていないようです……」


 伝令の兵士はスレイマン将軍に沈痛な面持ちで報告する。レモラ軍が歓喜に湧いているのならば、ガラティア軍の本陣は葬式場のようになっていた。


「どうやら、我々は敵を見誤ったようだな。ゲルマニア軍は最早、我々には手に負えぬ存在になっていたようだ……」


 7年にも渡る戦争で進化し続けたゲルマニア軍に、戦争の技術がまるで進歩していないガラティア軍では相手になる訳がなかったのだ。


「スレイマン将軍、どうする? まだ兵力は残っているが」


 ジハードは問う。まだ戦力は半分残っていおり、戦闘の継続は可能だ。


「今残っている全戦力で突撃したとて、装甲列車を撃滅することは不可能だろう。レモラ攻略は諦める他にない」

「諦める? あなたのような人が珍しい」

「私は勇敢な人間でも戦いの天才でもない。勝てないと分かればとっとと逃げ帰るだけだ」

「……分かった。それで、この後はどうする気だ?」

「暫くはレモラ北部に残ろう。ゲルマニアの線路を破壊して補給を妨害出来るし、装甲列車をこちらに引き付けておくことも出来る。いずれ川を渡りきった別働隊に攻略は任せるとしよう」

「なるほど。妥当な判断だと思うぞ」

「そうか。ありがとう」


 ゲルマニアの装甲列車は強力な兵器で貨物列車はガラティアの常識では考えられない速度で大量の物資を運ぶことが出来る。しかし列車には致命的な弱点がある。言わずもがな、線路を破壊されるとそこから進めなくなることだ。列車が来ないうちにコソコソと線路を破壊すればゲルマニアからの支援を断つことが出来るだろう。


 加えて、進軍を遅らされているとは言え、南からは最初に上陸した部隊が進軍中である。これが到着すれば、敵は装甲列車を動かす訳にもいかず、南からレモラに侵入出来る。


 一時的に敗北を喫したが、戦略的に優位を確立している側が最終的に勝つと、スレイマン将軍は確信していた。が、彼の希望は簡単に断ち切られることとなった。


「スレイマン将軍! 敵の装甲列車が再び現れました!!」

「何!? ……いや、確かに、装甲列車が一両だけとは、誰も言ってはおらんか」


 そう思い込んでいた。或いはそう思いたかった。装甲列車は一つだけで、挟撃すればレモラを落とせると。しかしゲルマニアはいくつもの装甲列車を保有しており、他に使う場所もない今、ビタリ半島に装甲列車を大量に投入することは、少し考えれば分かることだった。


「将軍、どうする?」

「装甲列車には、今のままでは勝てん。残念だが、素通りさせるしかないだろう。せめて、線路を破壊して暫しの嫌がらせでもするかな」

「その程度なら任せておけ」


 ジハードは装甲列車が通る線路を破壊しに向かった。これで多少は足止め出来るだろうが、大局を覆すには至らないだろう。


 ○


「いやはや、天晴れですな。あのガラティア軍がいとも簡単に打ち倒される様は圧巻というものですな」


 ガリヴァルディもこの大勝利にはご満悦の様子である。


「僕には見慣れた光景ですが、確かにかなり上手くいきました。ここまで作戦通りに事が運んでくれるのは珍しいです」

「そうでしたか。時に、少将閣下はこの戦いで、ガラティア軍をどう見ましたか?」

「そうですね……ゲルマニア軍への対策は多少は練ってあったので、我が軍との戦闘についてある程度の知識はあるのでしょう。恐らくはヴェステンラント軍から情報を提供してもらっているのかと」

「なるほど。それは面倒ですな」


 ガラティア軍は決して装甲列車に無策だった訳ではない。本当に事前の知識がないのなら、将兵はあっという間に秩序を失って敗走していたことだろう。


「とは言え、やはり経験が足りないですね。聞いただけの知識で戦争は出来ません」

「道理ですな」


 戦争の全てを言葉で伝えるのは不可能だ。


「その点、今のところガラティア軍は大した脅威ではありません。しかし、ちょうど僕達のように、ヴェステンラント軍の指揮官が参戦すれば、どうなるかは分かりませんね」

「なるほど。そうなったら、ゲルマニアも対応を考えなければいけなくなるでしょう」


 ヴェステンラント軍が秘密裏に参戦する可能性は皆無ではない。そしてその時、神聖ゲルマニア帝国はガラティア帝国との関係を見直さざるを得なくなるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る