レモラの戦いⅡ
「迫撃砲、射撃開始!」
次に射程が長いのは迫撃砲である。勝利をほぼ確信しているとは言え、シグルズに手を抜くつもりはなく、装甲列車が装備するあらゆる兵器を惜しみなく使うつもりだ。
一撃辺りの威力は手榴弾と同じ、つまり野戦砲と比べれば控えめになっているものの、総計50門以上の連射力に優れた迫撃砲による攻撃は、ガラティア騎兵を次々と馬から叩き落とす。
「これはなかなか。奴らも大いに損害を受けておりますな」
ガラティア軍を襲う絶え間ない砲撃に、ガリヴァルディは簡単の声を漏らした。
「まあ殺し切ることは出来ないでしょうが、馬から落とせば十分です。例え再び馬に乗って突っ込んで来ても、兵力が分散していれば対処は余裕です」
「なるほど。敵の戦力の分散させるという話ですか」
「ええ。我々は現代の戦争を行っているのです。一騎打ちの時代ではありません。戦力が多いものが敵を圧倒し、戦力の少ないものは何の爪痕の残せずに死に果てるのみ」
かつての剣や刀による一騎打ちの時代では、どんな寡兵でも敵にある程度の損害を与えることが出来た。兵の練度が同じならは、敵と味方は同じ数が死ぬのである。
だが現代の、ゲルマニアが作り上げた戦争はそうではない。一万の軍団と千の軍団が戦えば、千の側はほとんど敵に損害を与えることが出来ず、一方的に殲滅されるだろう。
つまるところ、敵の陣形を掻き乱して一斉に突撃することを妨害すれば、戦況は大いに優位になるという訳だ。
「しかし、奴らも諦めませんか……」
「壊滅的な損害が出ることは承知の上なんでしょう。とにかく装甲列車に斬りこむのが目的だと思われます」
「確かに、一方的に鉄の暴風に打たれることは覚悟しているでしょう」
弓矢も効かない以上、彼らは剣の届く間合いまで突撃するしかない。それまで一方的に殺されることに驚きはしないだろう。
「閣下、間もなく敵が機関銃の射程に入ります!」
「よし来た。大将閣下、機関銃の威力を見せて差し上げますよ」
「期待しております」
「全軍、撃ち方始め!!」
数百丁の機関銃が一斉に射撃を開始した。たちまち放たれる数十万の弾丸は魔導装甲を叩きつける。が、全て完璧にシグルズの思い通りになることは難しいようだ。
「あれは、盾か……」
「ガラティア軍がファランクスに利用している盾です。大八洲の打刀も通さない硬さがあります」
「なるほど。それは厄介ですね」
機関銃の射撃と同時に騎兵達が構えて大型の盾。急増品のヴェスエンラント製の魔法の盾とは異なり、機関銃弾もかなり弾き返せる性能を持っている。
「総員、敵の盾は強固だ! 狙いをより確実にし、弾丸を叩き込んでやれ!」
しっかりと敵を狙い撃つよう命令し、様子を見る。
「お、割れた」
「この鉄の嵐には耐えられますまい」
毎秒数十発の弾丸を撃ち出す機関銃の連射をモロにくらい、ある兵士の盾がついに割れた。それを皮切りに、騎兵の盾は次々と砕けていった。
「盾がこれでは、魔導装甲はそう長くは持ちませんな」
「ええ、その通りです。ほら」
ガラティア兵の纏う標準的な魔導装甲は、盾が破られれば気休めにしかならないものであった。機関銃弾の奔流に飲み込まれ、彼らは前から順に蜂の巣になった。
しかし、ガラティア軍はつい先程まで味方だったものを踏み越え、なお突進する。
「これほどの損害を負ってもなお、足を止めないとは……」
「流石に、完全に接近を拒否することは出来なさそうです」
半分以上の兵を失い、普通は指揮系統が崩壊して潰走しているところだが、ガラティア兵の戦意は衰えず、統制を保って突撃を続けていた。訓練の賜物なのか、或いは後ろに下がったら殺すと脅されているのか。
「て、敵が来ます!!」
「敵がすぐそこに……!」
シグルズとガリヴァルディの乗る車両にも、その顔が認識出来るほどの距離に敵兵は迫った。だがシグルズにとってはこのくらい経験済みのことである。
「落ち着け!! 奴らが肉薄してきたら、覗き窓から拳銃で仕留めるんだ!!」
「拳銃、ですか?」
「ええ。元はヒルデグントという大佐の為だけの一点物でしたが、こういう時には使い勝手がいいんですよ」
「なるほど……」
ガラティア兵は装甲列車の目と鼻の先にまで迫った。彼らは機関銃に魔導剣を突き立て破壊し、更に車内に剣を突き通そう試みる。シグルズとガリヴァルディは2階からその様子を見下ろしていた。
「機関銃が……」
「武器は元より消耗品です。そして、よくご覧下さい」
「何と、撃ち抜かれた……!」
目の前の機関銃を破壊した筈の兵士。しかし彼の魔導装甲は真正面から数発の弾丸を受けて破壊され、大地に叩き落とされたのであった。
「これが件の拳銃の威力ですか」
「はい。短距離でしか威力を発揮出来ず、反動が大き過ぎて普通は実用には耐えないものですが、この状況なら最適の武器です」
射撃用の小さな窓から、とんでもない威力を誇る拳銃に至近距離から撃たれる。例え剣を突き刺すことに成功しても、ガラティア兵に命はないのである。
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