レモラの戦い

 ゲルマニアからの心強い装甲列車の援軍は、レモラ軍を大いに勇気づけた。ゲルマニアからの直接的な介入をガラティアは非難したものの、ゲルマニアは装甲列車を貸与しただけでゲルマニア軍人はビタリ半島に入っていないと言い通したが、どちらも嘘である。


 装甲列車で戦ったのは紛れもなくゲルマニア人であるし、千人以上のゲルマニア人軍事顧問団がレモラに入った。誰が来たかと言えば、いつも通り便利屋の第88機甲旅団である。


「ハーケンブルク少将閣下、またしてもお手を煩わせ、何とお礼を申し上げればよいものか……」

「僕は命令で来ているだけです。お礼ならば我が総統に申し上げてください。それに、今はあなたの方が位が高いでしょう、大将閣下」

「大将など、我々が勝手に名乗っているだけに過ぎませんよ。しかし、ゆっくりしている時間はありません。レモラの防御を整えなければ」

「無論です。僕達も全面的に協力します」


 レモラの状況は幾分か改善されている。南から迫る五千は増水した川に阻まれ足を止めており、北部には長大な塹壕線を構築することが間に合った。更にシグルズは最も太い道路の真正面に線路を敷き、装甲列車で塞いだ。塹壕は貧弱なものではあるものの、塹壕戦の経験がないガラティア軍の相手ならば何とかなるだろう。


 ○


 ACU2315 5/2 王都レモラ近郊


「敵軍が見えました! 数は予想通り、およそ一万です!!」


 レモラに向かう街道に堂々と、一万のガラティア軍は姿を現した。装甲列車が塞ぐ大街道である。


「やはり、ここから来ましたね。僕達には最高の条件が揃っています。この戦いは勝てるでしょう」


 シグルズはもう余裕綽々であった。対してガリヴァルディは、国家の命運がかかる戦いとあって、全く気を抜くことは出来なかった。


「少将閣下、連中がそう易々と装甲列車に突っ込んできてくれるとは思えませんが……」

「いえ、彼らは道路を突っ込んで来ますよ。地形が悪いところでは走ることすら難しく、こちらの狙い撃ちにされるだけです。それに、装甲列車を潰さなければ、どこからレモラに侵入するのも無理でしょう。装甲列車の射程は結構長いですから」


 防衛線のうち装甲列車が物理的に塞いでいるのは極一部であるが、装甲列車を無視することが容易な訳ではない。戦線のほとんどが列車備え付けの野砲の射程に入っており、装甲列車を無視するのなら悪路に悪戦苦闘しながら常に砲弾の雨を浴び続けることになるだろう。


 つまり、ガラティア軍が賢明ならば、全力で装甲列車を潰すしか選択肢はないのである。まあ他の選択肢を取ってくれれば楽に勝てるので、それはそれで嬉しいことだが。


「敵軍、陣を敷いています。街道に沿って攻めるのは確実かと!」

「了解だ。では、僕達は悠々と構えることにしましょう。そして彼らが突撃して来次第、殲滅します」

「そう上手く行きますかな」

「装甲列車は不敗です。信じてください」


 装甲列車が敵に奪取されたことはない。戦艦より信頼出来る兵器なのだ。レモラ兵はゲルマニア兵の指導の下に機関銃架に着き、迫撃砲の発射用意を整える。


 列車の天井に備え付けてある列車砲は操作に習熟したゲルマニア兵が担当する。列車砲とは言っても今回のものは都市の端から端まで届く巨大なものではなく、比較的取り回しのいい野戦砲程度のものだ。それでも十分に強力である。


 レモラ軍は臨戦態勢を整え、ガラティア軍は陣地を整えて決戦に備えた。そして一時間ほどして、ついにガラティア軍が動き出す。


「ガラティア軍、動き始めました! 騎兵のようです!」

「流石にファランクスで突っ込んだりはしてこないか」

「奴らも馬鹿ではありますまい」


 ガラティア軍お得意の密集陣形ファランクスであるが、もしもここで使っていたら列車砲のいい的でしかなかった。騎兵による突撃を選ぶくらいにはゲルマニア軍の戦闘方法を学習しているようだ。


 大量の馬を連れてきたのか、本陣から繰り出した三千ほどの兵士はことごとく騎乗していた。


「敵軍、間もなく列車砲の射程に入ります!」

「よし。全軍、射撃準備」


 列車砲の射程はガラティア軍の弓矢と来るべても圧倒的なものである。


「射程に入りました!」

「全軍、撃ち方――何、走り出しただと?」


 ゲルマニアの大砲の射程に入った途端、ガラティア軍は全速力で馬を走らせた。これもゲルマニアの武器を学習した成果だろう。


「か、閣下?」

「撃ち方始め! 敵を一人たりとも近づけるな!」


 20門ほどの野戦砲が火を噴いた。密集して突撃するガラティア騎兵隊に榴弾が次々と命中し、爆発の衝撃で馬上の兵を次々と叩き落とす。しかしガラティア軍が怯むことは全くなく、猛烈な速度で装甲列車に迫ってきた。


「大砲は効いていないようですな」

「ええ。まあ、これくらいは想定内です。大砲の役割は敵の陣形を乱すことにありますから。主役は、この機関銃です。迫撃砲も使いはしますが」


 装甲列車の側面から無数に突き出した機関銃。敵兵を確実に殺傷するのは、昔からこれなのである。

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