ゲルマニアの介入
探照灯のごとく明るい光に照らされて、ゲルマニアからやってきた列車は停止した。
「止まったな。ゲルマニア人に危害は加えないよう、冷静に制圧せよ!」
ゲルマニア人を殺害してしまえばゲルマニアとの全面戦争の危険があることを、ジハードは十分承知している。アリスカンダルが戦争を望まない限り、そんなことはしない。
魔女達は列車に上下左右かは迫るか、すぐにおかしなことに気付いた。
「ジハード様! この列車、例の装甲列車です!」
「……何だって?」
「装甲列車です! 戦う為の車両ですよ!」
「何? まあ、ここは戦地だ。おかしいことではないか。なら、列車に投降を呼びかけろ」
列車は数多くの魔導兵と魔女を葬ってきた装甲列車であった。力ずくで侵入するのは困難であるので、ジハードは列車に降伏を呼びかけた。しかし、その返事はジハードの予想を裏切るものであった。
「て、敵は我々に対し、進路の邪魔をしないように要求しています! 直ちに道を開けない場合、実力で排除するとのこと!」
「我々と戦う気か? ゲルマニアがそこまでの軍事介入を行うか……」
「と、ともかく、彼らは本気のようです! どうなさいますか!?」
「決まっている。我らと戦おうと言うのならば、叩きのめすのみ! 装甲列車を制圧せよ!」
ゲルマニアからの挑戦を受けたジハードは、魔女達を率いて装甲列車の上空から狩りをする鳥のように襲いかかった。が、その選択は誤りであった。
彼女が動き始めると同時にけたたましい銃声が鳴り響き、ジハードの周りにいた魔女達が次々と撃ち落とされたのだ。
「あ、あれはっ……」
不死隊を撃ったのは、装甲列車の天井にハリネズミのごとく設置されている対空機関砲であった。ヴェステンラントの魔女も全く寄せ付けない火力を前に、ジハードは下がるしかなかった。
「クッ……。ゲルマニアとの戦闘経験がないのは問題だな。地上から攻めるぞ! 陣形を固めよ!」
地上の歩兵部隊は臨戦態勢で待機している。ジハードは彼らと合流して地上から攻めることにした。が、それを見越したように、歩兵部隊の間で次々と爆発が起こった。
「何だ!? 何が起きている!?」
「装甲列車からの砲撃のようです!!」
「威力は大したことはありません! 我々が対処しましょう!」
「わ、分かった!」
方陣を組む歩兵に、装甲列車から迫撃砲による砲撃が行われる。威力はそう大きなものではなく、魔導装甲を完全に破壊するには至らなかったが、兵士達は大いに混乱し、陣形は乱れていく。
ジハードらは傷を負ったものの治療や、再度砲撃を浴びないように防壁を貼ったりなどして対処したが、激しい砲撃にはとても対応しきれなかった。
だが、装甲列車はまだ全く本気を出していない。
「あの刺々しいのは、まさか機関銃か……?」
「そ、そのように見えますが……」
装甲列車の基本装備と言える機関銃。列車の側面から数十丁の銃口が突き出していた。
「陣形を乱しただけで終わるとは思えない……。全軍、正面の守りを固めよ!!」
陣形を乱した後に機関銃で掃射する。敵の作戦はそれに違いない。ジハードは急いで兵士達に盾を構えさせ、魔女達にも防壁を張らせた。ゲルマニア軍はジハードの動きに気付き、すぐさま機関銃の一斉射撃を始めた。
地面に置かれた盾に隠れ、魔女達が作った壁に隠れ、何とか激しい射撃をやり過ごす。少しでも頭を出したら一瞬で死ぬことは間違いなさそうであった。
更に、ゲルマニア軍は盾の内側に迫撃砲の砲撃を行い、盾を吹き飛ばしたところで射撃を行った。多くの兵士、魔女が次々に撃ち殺された。
「クッソ……反撃だ、反撃! 撃ち返せ!!」
「はっ!」
後方の兵士達は長弓を番え、装甲列車に向けて次々と矢を放つ。ヴェステンラント軍の魔導弩より遥かに連射力が高く、かつ高威力の武器であったが、装甲列車の分厚い装甲にはかすり傷しか付かなかった。
装甲列車からの攻撃は全く緩むことはなく、兵士達は更に討ち取られてしまう。
「こうなったら……貨物車がある筈だ! それを破壊し、撤退する!!」
「ジハード様、そんなものはありません! この列車は全てが装甲車で出来ています!!」
「何!? そんな馬鹿なっ!」
この列車は物資を輸送する為のものなどではなかった。ガラティア軍を撃滅する為だけに送り込まれてきたのだ。
「ど、どうされますか!? このままでは、我々に勝ち目は――」
「ああ、ない。全軍、撤退せよ!! 上陸地点まで撤退し、軍を建て直す!!」
ジハードはこれ以上の戦いが無意味だと判断し、撤退を開始した。しかし撤退すら困難を極める。全く隙のない装甲列車からの一斉射撃が止まることはなく、最前線の兵士達は動こうにも動けなかった。
「魔女隊で盾を作り、その隙に魔導兵を逃がせ! 急げ!!」
ジハードを筆頭に魔女隊は必死に防壁を作り、敗走する兵士達を弾丸の暴風から守った。そうして何とか被害を抑えて装甲列車から離脱することに成功したのであった。
装甲列車は何事もなかったかのように走り出し、レモラに向かった。そしてその直後、貨物列車が颯爽と走り抜けていった。貨物列車とは言っても護衛に装甲車が着いており、ガラティア軍にそれを攻撃する余力はなかった。
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