ガラティア軍の進軍

 ACU2315 4/23 レモラ王国 王都レモラ


 ガラティア軍が半島の南から攻め込んできているが、ガリヴァルディ率いる反乱軍は中部、北部の教会勢力をほぼ殲滅し、レモラ王国の唯一の政府としての地位を確立し、レモラ王国の首相兼王国軍最高司令官に就任した。


「さて……ゲルマニアからの支援はいつ届くんだ?」


 閣議などはほんの僅かで、彼の時間の大半は軍議に費やされている。内政など考えている暇はまるでなかった。


「早くて3日後に、レモラまで到達するとのことだ」

「3日か。流石はゲルマニア軍、仕事が早いな」


 レモラ王国の様相は基本的に中世そのものであるが、帝都ブルグンテンからレモラまでは太い鉄道が走っている。人やものを送ることは容易であった。十分過ぎるほど早い支援である。


「だが、既に本土にガラティア軍が侵入している。ゲルマニアからの支援が来るまでレモラが持つか分からないぞ」

「確かに、ガラティアの騎馬隊が本気を出せば、レモラまで到達するのは不可能ではないな。最悪の場合はレモラを放棄して撤退することも考えられるが……」

「レモラを捨てるのか? そんなことをしたら俺達の政権が崩壊するぞ!」

「分かっている。だから何としても南からの進軍を食い止めねばならない」


 ゲルマニア軍が支援を公言した以上、ガラティアは全速力でレモラを落としに来るだろう。それに、ゲルマニアからの物資が届いた途端に最前線に行き渡る訳でもない。戦いは既に危機的な状況に陥っていた。


「レモラより南に防衛線を敷くことは出来んのか? 少しずつ戦線を後退させていけば時間は稼げるんじゃないか?」

「そんなことをしている戦力はない。我々の兵力ではレモラを要塞化して防衛するしか手はないんだ」


 ガリヴァルディは弱々しく言った。彼らに用意出来る兵力は僅かに5万人程度であり、広い戦線を支える戦力はとてもない。レモラに立て籠ってガラティア軍の攻撃を防ぐのが唯一の選択肢である。


「……一度状況を整理しよう。とにかく、レモラの要塞化が第一だ。残りの時間で精一杯、陣地を構築する。そして。後はガラティア軍を足止めする方法が何かないか……」

「そうだ、ベニート、ヴォルトゥルヌス川の堰を切るのはどうだ? あの川を増水させれば、南からの進軍をかなり足止め出来るぞ!」

「そんなことをすれば、流域の人々に被害が出る。人名は事前に警告することで救えても、多くの財産が失われてしまう」

「そのくらいは仕方ないだろう。多少の犠牲を出しても、国を守らなければならない!」

「…………そんな国にはしたくないと思って教会を倒したが、政治とはそういうもの、か」


 ガリヴァルディは部下の提案を嫌々ながら受け入れた。人命が失われないのならば、国家を守る為に多少の犠牲を支払うことはやむを得ない。いや、その程度で済むのなら安いものだ。


「後は、ヌミディアにいる1万の敵の動向が気になるな。攻め込んできている軍勢より多い戦力が遊んでいる」

「補給が足りなくて攻め込めないんじゃないか?」

「あのガラティア軍が2万にも満たない兵力の補給を維持出来ないなんてことは考えられない。やはり何かの目的を持って待機していると見るべきだろう」


 ガラティアは仮にも世界第二位の経済大国である。まあ膨大な人口のお陰であって、人々の生活はゲルマニアと比べればまだ貧しいのだが。ともかく、この程度の軍勢を維持することなど容易な筈である。


「ガリヴァルディ大将閣下! 大変です! 海の向こうのガラティア軍が動き始めました!」

「やはりか。おおよそどこに向かっている」

「目的地は、ここです! 連中はレモラに向かっています!」

「……なるほど。レモラに直接乗り込むつもりか、或いは挟み撃ちにするつもりだろう。南から攻め込んでいる部隊がある以上は、挟撃が目的だろうか」


 敵陣に直接上陸するというのは、いくらガラティア軍でも危険が大きい。戦争に関しては一流のガラティア軍ならば、案外安全な方法を取るだろう。


「北に連中が上陸するっていうのか!? そんなことをしたら、ゲルマニアからの補給線が切られるじゃないか!」

「ああ、最悪の事態だ。例え最初の列車が辿り着いても、継続的な補給がなければどうしようもない」


 拳銃弾も生産出来ないレモラ王国。ゲルマニアからの補給が途絶えれば一巻の終わりである。


「どの道、レモラから出て敵を迎え撃つ余力はない。我々に出来るのは、事態が好転することを祈るだけだ」

「……そう、だな」


 ガリヴァルディに出来ることは少なく、ただレモラの守りを固めることしか出来なかった。


 ○


 2日後。ガラティア軍は王都レモラの北部に上陸し、武器弾薬を満載した列車はレモラに向かっていた。


 ガラティア軍は輸送列車に先行することに成功し、路線を封鎖することを試みていた。


「あの光……ゲルマニアの列車が来たぞ!」

「魔女隊、全力で光を放て!!」


 こちらに配属されていた不死隊長ジハードは、魔女達に命じて太陽のごとく眩い光を作り出し、輸送列車を真正面から照らし出した。

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