新たな謀略の建議Ⅱ
「このようにして彼女らが作った関係を、外務省で利用させてもらうことになったのです」
以前からエリーゼと取引していたガラティア帝国内の独立運動組織。それに外務省が目を付け、国家として独立運動と連絡を取ることに成功したのであった。
「まあ、細かいところは聞かん。とにかく、独立運動と秘密裏に連絡を取ることは可能なのだな?」
「はい、我が総統。一般的な交易品と偽って武器を輸送する手筈は既に整っております。それを送り届け、ビタリ半島で蜂起を起こさせ、その後は民族自決の保護を名目に公式に介入することが出来ます」
「なるほど。決して無理な作戦という訳でもなさそうだな」
かくしてビタリ半島の紛争を激化させ、ガラティア帝国から対外戦争を行う余裕を奪うというのが、リッベントロップ外務大臣の計画であった。
「しかし外務大臣閣下、蜂起を起こさた後の計画はあるのですかな? 蜂起を支援してその後は見捨てるのでは、帝国の名誉に傷が付きましょう」
ザイス=インクヴァルト大将は問う。外務大臣の説明では紛争を起こした後のビタリ半島について、何も説明はされていない。
「ガラティア帝国を講和会議の席に着かせることが出来れば、後は名目の通りにレモラ王国を独立させ、周辺国を刺激しないように永世中立国とさせましょう」
「せっかく領土を拡大する好機だというのに、中立国などにしてしまってよいのですか?」
「帝国に土地は十分足りていますし、諸外国に我々の清廉潔白を印象づけるには、ビタリ半島に手を出すべきではありません」
「我が総統がそれでよいと仰るのなら、異論は申しませんが」
「リッベントロップ外務大臣の言う通りだ。帝国にはまだまだ未開の原野が残っている。敢えて領土を拡大する必要はない」
「なるほど」
産業革命を迎えてまだ日が浅いゲルマニアの土地にはまだまだ発展の余地がある。領土を無駄に増やして管理の手間を増やすことはない。
「それでは、我々はレモラ王国の独立に向けて動けばいいということですな」
「はい。軍部にも是非とも手を貸して頂きたい」
「無論、協力は推しみませんとも」
ビタリ半島をガラティアから独立させ、戦争を続ける余力を奪うのだ。当然軍事力が必要になる。
「さて、それでは諸君、ガラティア帝国、ビタリ半島に対する工作を開始せよ。また軍部は、ガラティア帝国との全面戦争に備えて国境を固めよ。但し、全面戦争の回避には全力を尽くすこと。……帝国始まって以来の大勝負だな」
全面戦争が始まってもいいように準備を整えつつ、ビタリ半島だけでことが済むように最善を尽くす。ヒンケル総統の命令で、帝国の全ての機関が動き出した。
○
ACU2315 4/3 崇高なるメフメト家の国家 ガラティア君侯国 帝都ビュザンティオン
「陛下、どうもゲルマニアにおかしな動きがあります。国境に軍勢や戦車を集め、陣地を構築しているようです」
先代より皇帝に仕える老将、西方ベイレルベイのスレイマン将軍は、アリスカンダルに報告する。ゲルマニアがガラティアとの国境に兵を集めつつあると。
「ほう? 我々と戦おうと言うのか。それならば、受けて立とうではないか」
「そうと決まった訳ではございません。今、ゲルマニア側に使者を送り、彼らの真意を確かめているところです」
「勝手にせよ。しかし、国境に兵を集めるなど、目的は二つしかないではないか」
「と、仰いますと?」
「お前なら言わずとも分かるだろう。我らを武力で脅すか、本当に戦争をするか。どちらかしかありえん。そしてゲルマニアが特に何の要求も突き付けては来ていない以上、奴らは戦争がしたいのだろう」
「恐れながら、それは早計が過ぎるかと」
「では、他に何だと言うのだ?」
「それは分かりませぬが……とにかく、ゲルマニアの話を聞いてからです」
「いずれにせよ、こちらも国境に兵を集める。ゲルマニアの意図が何であれ、それくらいのことをされる覚悟はあるだろう」
「はっ」
ガラティア側も兵力を国境沿いに集め始め、緊張が高まっていた。が、次の展開はアリスカンダルが予想だにしないものであった。
○
「レモラ王国、万歳!」
「「「レモラ王国、万歳!!!」」」
「ガラティアに死を!」
「「「ガラティアに死を!!!」」」
ビタリ半島の中心、旧レモラ王国の王都レモラ。この美しい都市は今、戦場と化していた。突如として現れた突撃銃や機関短銃で武装した反乱者は、市内の政庁を次々に襲撃。
ガラティア軍の詰所も攻撃を受け、ほとんど抵抗も出来ずに制圧され、死体があちこちに散らばる中、反乱軍が占拠していた。
「ここはよい。レモラの隅々まで見渡せる」
指導者と思しき軍服の男は言った。ここはガラティアがいざという時に備えて建てていた見張り台の上である。まあその役目は果たされず、反乱軍に利用されている訳だが。
「ベニート、思ったよりこちら側が有利なようだな」
「ガラティアもまさか、今更反乱が起こるとは思っていなかったのだろう。それに我々はアルタシャタ将軍のような馬鹿者とは違う。しかし……敵に援軍が来るのもまた時間の問題だ。ゲルマニアが来るまで耐える。その為には早急に市内を制圧し、守りを固めなければな」
事前に緻密に用意された反乱計画。反乱軍はガラティア軍が状況を把握することすら許さず、レモラ全域を支配下に置いたのであった。
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