ヴェステンラントの反応Ⅱ
「それでは諸君、条件についてそれぞれ議論していこう」
オーギュスタンは会議の進行役をエメから奪っていた。
「まずは賠償金の支払い。これについては受け入れてもよいと考えるが、皆はどうだ? 反対する者がなければ受け入れることとする」
沈黙。賠償金については、七公はどうでもいいと思っていた。ヴェステンラントにおいてエスペラニウム以外の資源は大した意味を持たないのである。よって、これはヴェステンラントが受け入れてもよい条件の一つとなった。
「では次、エスペラニウムの輸出についてだ。私は先に言ったように、断固として反対する。シモンは賛成だったな。他に意見のある者は?」
「私はシモンと同じく賛成ですよ」
クロエは発言する。
「我が国が余らせているエスペラニウムを渡すだけですし、輸入頼りのエスペラニウムは戦争では使えません」
「君は合理的だな。まあそれも一理あるが……他には?」
「あ、私は反対派でお願いします……」
青公オリヴィアはおずおずと言ったが、その割には意見は強硬派である。他に特別意見のある者もいないようだ。
「では、これは多数決で決めるとしよう。ここにいない黄公と黒公に連絡しておいてくれ」
黄公ドロシアと黒公クラウディアからの意見も聞いて決定することとなった。七公が七人なのは多数決で絶対に同数にならない為である。
「では次に行こう。枢軸国への加盟についてだ。私はかなり反対だが、シモン以外で言いたいことのある者は?」
クロエがさっと手を挙げた。
「私はオーギュスタンと同じく反対です。我が国が暴力を奪われたら何も残りませんから。枢軸国などに入って行動を制限されるのは癪に障ります」
「ふむ。他には?」
「わ、私も、クロエと同じく、反対です」
「どうやら、これはドロシアとクラウディアに聞くまでもなさそうだな」
仮に両名が枢軸国への加盟に賛成したとしても、結論は変わらない。かくして枢軸国への加盟は否決された。
「そして最後。ゲルマニアとの不可侵条約についてだ。宰相殿、ゲルマニアはいかなる条件で不可侵条約を結べと言ってきたのだ?」
「向こう10年間の不可侵です。それ以外は特に」
まあ不可侵条約に戦争をしない以外の条件もないだろう。
「10年か。講和を結んだ途端に戦争をし出す馬鹿もいまいし、その程度なら構わんな。諸君はどう思う?」
これについては一同、受け入れても問題ないどのことであった。どの道講和を結べば暫くは戦争が出来ない訳で、それが少々伸びるだけだ。かくして、ヴェステンラント側も話が纏まってきた。
○
「我が総統、たった今、ヴェステンラントからの返答がありました」
「おお、早いじゃないか。で、何だって?」
総統官邸の地下会議場での会議中、ヴェステンラントからの返答が届いた。これまでの議題は後回しだ。
「はっ。ヴェステンラント側は、賠償金の支払い、我が国との不可侵条約の締結には応じる用意があるとのことです。一方、エスペラニウムの輸出、枢軸国への加盟については、現代階では拒否するとのこと」
「おお、賠償金を支払ってくれるのか。満額か?」
「はい。我々の要求通りの額を払うとのことです」
「それはいいじゃないか。この方向で細部を調整すればいいと思うのだが、どうかな?」
一番渋られると思っていた賠償金の支払いを快諾され、ヒンケル総統は喜んでいた。ヴェステンラントが負けを認めるようなものであるし、綱渡りの経済を戦前の水準に復活させる足がかりになるし、国民も満足するだろう。
財務省や労働省の見解は総統と同じであった。しかし軍部は、これを受け入れることは出来なかった。ザイス=インクヴァルト大将は真っ向からこの和平案に反対する。
「お言葉ですが、この条件では帝国の安全保障環境がまるで改善されません。それどころか無駄に不可侵条約を結ぶせいで、ヴェステンラントが何をしようと我々が掣肘することが出来なくなります。クバナカン島を捨てると仰るのなら、枢軸国にヴェステンラントを加盟させることは絶対の条件です。そもそも枢軸国に加えなければ、大八州を見捨てたも同然になるでしょう」
軍部が求めるのは安全であった。次の戦争をヴェステンラントが起こすことの不可能な国際情勢を創り出すことが現在の戦争目的なのである。しかも大八州を見捨てるも同然の講和。断固として受け入れられない。
「そ、そうか……。確認だが、それは軍部の総意なのか? 君の私見ではなく」
「それについては、軍部の総意で間違いありません」
カイテル参謀総長は言った。決してザイス=インクヴァルト大将が強硬派なのではなく、軍部全体として安全保障環境の構築を求めると。
「ふむ……ということはつまり、クバナカン島を引き続き領有すれば、軍部の要求は満たせるということだな?」
「完全ではありませんが、ヴェステンラントに対する威嚇としては十分でしょう」
ザイス=インクヴァルト大将は答える。選択肢は二つ。前線基地としてクバナカン島を割譲させるか、枢軸国に加盟させるかである。
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