第二次カレドニア沖海戦

『副砲撃ちまくれ! 敵を近付けるなっ!』


 シュトライヒャー提督は艦内放送で副砲を操作する兵士達に呼びかける。兵士達は前時代的な大砲のように人力で砲弾を装填し、照準を定め、各々の判断で砲撃を行っている。


「敵船、撃沈1!」

「おお、よくやった」


 ようやく敵戦を1隻沈めることに成功した。しかし残りの数隻は、あちこちから黒煙を上げているものの、沈む気配はなく一直線に迫り来る。


「だが、これで全て沈められるか……」

「どうやら、それは厳しそうですね……」


 シグルズも、この調子では完全に敵の突撃を粉砕することは不可能だと言わざるを得なかった。


「更に撃沈1!」

「敵はもうすぐそこです!」

「全艦白兵戦の用意は整っているな」

「敵船、衝突します」

「衝撃に備えよ!」


 ガレオン船と戦艦では重さがあまりに違い、思ったより大したことのない衝撃の後、ヴェステンラントの軍船5隻がアトミラール・ヒッパーにめり込むように衝突した。


「敵魔導兵、次々と乗り込んできます!」

「やることはこれまでと同じだ。確実に敵を撃退せよ」


 幾度となく敵の侵入を許しているアトミラール・ヒッパーであるが、一度とて制圧を許したことはない。故に今度も必ず追い返す、シュトライヒャー提督はその心意気でいた。


「あれ……閣下、敵が艦内に侵入して来ません!」

「何? どういうことだ?」


 艦橋から見下ろす上甲板には百を超える魔導兵が闊歩しているが、彼らは艦内に入る気はないらしい。


「敵は何を考えている?」

「さ、さあ……」

「シグルズはどう思う?」

「わざわざ艦内に侵入する必要はないということです。ですから何かを、甲板の上でやろうとしているとしか……まさか主砲を破壊しようとしているのか?」


 表面に露出している目立った目標と言えばそれしかない。


「何だと? ……いや、それはあり得ない。主砲は最も厚い装甲で守られているのだろう?」

「ええ、そうです。確かに破壊される筈はありませんが……」

「て、敵が主砲に何かしています!」

「何かとは何だ!」

「ここからでは分かりません!」


 艦橋から観察するのでは限界がある。敵が何をしようとしているのかは分からない。


「シグルズ、どうする? こちらから打って出るべきか?」

「守備隊の戦力で攻勢に出るのはあまりお勧め出来ません」

「そうだな……。海軍にも突撃銃を分けて欲しかったものだ」

「何分、地上が忙しかったもので」


 シグルズは単身で飛んできただけである。機甲旅団はブリタンニア島で留守番をしている。突撃銃さえあれば敵を積極的に殲滅しにしにいくことも出来ただけに、非常に残念だ。


「となると……僕の魔法で少々攻撃してみましょう。それで追い払えるかもしれません」

「そ、そうか。頼んだ」

「はい。それでは少々外に出ます」


 シグルズは重たい鉄の扉を開け、艦橋の外に出た。そして魔法で対物ライフルを作り出し、眼下の敵に狙いを定める。


「悪いが、死んでもらう」


 シグルズは引き金を引いた。重く硬い弾丸は魔導装甲を一撃で貫き、魔導兵の胴体を粉砕した。


「お、慌ててる慌ててる」


 シグルズは間髪開けずに次の弾を放った。3人程を殺したところで、魔導兵達はようやくシグルズの存在に気付き、弩で反撃してきた。


「一旦退くか」


 シグルズは魔法で壁を作り矢を防ぎながら、ゆったりと艦橋の中に戻った。


「シグルズ、無事か」

「はい。これで敵は落ち着いて作業など出来なくなった筈です」

「敵軍、撤退しているようです!」


 魔導兵達は船に戻り、アトミラール・ヒッパーから離脱し始めた。


「おお、よくやってくれた、シグルズ」

「ええ、どうも。しかしまずは、敵を一人として生きて返してはなりません」

「あ、ああ、そうだな。副砲、射撃用意!」


 副砲のいくらかが衝突の衝撃で使用不能になっているが、残った副砲で尻尾を巻いて逃げる敵船に砲撃を開始する。


「撃沈3!」

「敵船、副砲の射程より離脱!」

「うむ。主砲、射撃用意!」


 既に残りはたったの2隻。しかしシュトライヒャー提督は容赦せず、主砲での射撃を命じた。だが、なかなか準備が整わない。


「どうした? 故障か?」

「そ、それが、主砲が動かないのです」

「動かない?」

「はい。狙いが定められません!」

「閣下、もしかしたら、と言うか確実に、さっきの敵が何か細工をしたのでしょう。僕が様子を見て来ます」

「ああ、頼んだ」


 シグルズは艦橋から外に出ると、魔法で甲板まで飛び降り、主砲の様子を見に向かった。主砲が動かないと言うことで、主砲の根元の可動部をのぞき込んでみる。


「これは……解けているのか?」


 主砲の回転部にはいびつな形をした鉄塊が詰まっていた。まるで外部から熱せられて主砲が部分的に融解したかのようである。これでは主砲を旋回させることは出来ない。


「火の魔女と金の魔女がいれば不可能ではない、か。ヴェステンラント軍も賢いことを考えるな」


 シグルズはさっと飛んで艦橋に戻ると、シュトライヒャー提督に主砲の状況を報告した。


「――で、それは取り除けるのか?」

「解けた鉄が主砲と一体化してしまっています。取り除くにはそれなりの工事が必要です」


 ただ異物が詰まったというだけでなく、主砲と融合してしまっている。これを取り除くに再び鉄を熱して切り取らなければならないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る