ゲルマニアの武器
ACU2314 2/28 平明京外縁
「――それで陛下、作戦とは一体何ですか?」
ヴェステンラントとガラティアが同盟を結んでも一向に進展しない戦況に苛立ちながら、ドロシアは尋ねた。
「簡単なことだ。これを使う。持ってこい」
「はっ!」
すぐに兵士達が本営に、大きく重たいそれを運び込んで来た。
「これは……」
「見ての通り、ゲルマニア軍が使用している大砲だ。君達にとっては少々不愉快かな?」
「いえ、別に。少なくとも私はゲルマニアと直接戦っている訳ではありませんから」
「それもそうか。まあともかく、これを使うのだ」
ガラティア帝国はゲルマニア帝国に食料その他の生活必需品を輸出し、代わりにゲルマニア製の武器を輸入している。小火器が主であるが、このような重火器も少しばかり輸入していた。
「しかし大砲なんて意味はありますかね? どれだけ撃ち込んでもすぐに魔法で修復されるだけですよ」
「それは君達の質の低い大砲だったからだろう。この大砲は威力は絶大であり、狙いも精確だ。比べ物にはならんよ」
「……そうですか」
別に技術力でゲルマニアに劣っていることには何の興味もないが、ここまで言われると少し苛立つドロシアであった。
「しかし陛下、修理が間に合わないほどの砲撃を行えたとしても、それで効果があるのでしょうか? まさか敵兵全員を根絶やしにするなんて無理ですし……」
オリヴィアはおずおずと。砲撃というのは実際のところ、一般に思われているほどの威力はない。それにガラティア軍にそう大量の砲弾がある訳でもない。
「そうだな。そんなことは不可能だ。だから我々が狙うのは敵の心だ」
「え、心?」
「ああ。四六時中砲弾が降って来て、いつ突然死ぬとも分からないとなれば、いくら武士でも士気が落ちるだろう。休息を取ることも叶わぬ訳だからな。そうして敵を弱らせたところを一気に叩く。これが私の作戦だ」
「そう上手くいきますかね? 前に私達がやった時は、奴らは意気揚々と城から打って出て来ましたが」
「もう一つあるのだ。私が狙うものは」
「はあ」
「まあ、見てのお楽しみとしよう」
平明京がドロシアが戦ってきた城と根本的に違うこと。それこそがアリスカンダルの真の狙いなのである。
○
「っ、この音は!?」
「何? どうしたの?」
爆音が響き渡ると、前線に陣を構えた明智日向守は血相を変えて立ち上がった。そして数秒後、天守に大穴が開き、瓦礫が四方八方に飛び散り、屋根がいくらか崩れ落ちた。
「大砲かしら?」
「はい。大砲です」
「そう。一発で天守に当てるなんて大した腕ね」
「いえ、曉様。これは恐らく――」
その時、再び爆音が轟いた。そして砲弾は再び天守に、しかも先程の大穴に掠るように命中した。
「二度も同じ場所に? そんなことあり得るの?」
「いえ、曉様。この銃声からするに、彼らが用いている大砲はこれまでヴェステンラントが使ってきたものではありません。となれば、ゲルマニア軍の大砲かと思われます」
「ゲルマニア? どうしてゲルマニアが出てくるの?」
「ガラティアとゲルマニアは武器と兵糧を交換し合っております。それでもたらされたものかと」
「面倒なことを……」
明智日向守の洞察は、残念ながら大正解である。そうして彼らが議論をしている間にも、天守に数発の砲弾が叩き込まれた。
「曉様、すぐ天守に飛鳥衆を向かわせてください。天守を修理させなければ」
「天守なんでただの飾りよ。そんなことな貴重な武士を――」
「なりませぬ。天守は飾りですが、であるからこそ、崩れてはなりません。そうなれば我らは瓦解してしまいましょう」
「そ、そうね。すぐに人を向かわせなさい!」
天守というのは平明京及び金陵城の象徴なのである。中身は物置きでしかないが、それが崩れる時は平明京もまた陥落する時であろう。
「敵の狙いは何?」
「まだ分かりませぬ。飛鳥衆を天守に足止めして攻め込む、というのが普通の考えですが、まだ何とも」
「そう。ではガラティア軍をしっかり見張っておきなさい」
ガラティア軍は砲撃を続行。天守はかなりの部分が抉り取られたが、それは鬼道で修繕を行い、何とか持たせている。その間ガラティア軍もヴェステンラント軍も動きを起こすことはなかった。
「……敵は動かないわね」
「そのようです。狙いは他にあるのやもしれません」
「他って?」
「それは私にも分かりかねます」
情報が足りない。アリスカンダルが何を考えているかまでは、明智日向守には分からなかった。
〇
翌日。
「明智様! 大変です! 城下を敵勢が狙い撃っております!」
「何?」
「あちらこちらから火が上がり、町火消ではとても手に負えぬとのこと!」
「多くの民が家を失い、路頭に迷っております!」
「それが真の狙いであったか……」
ガラティア軍は広大な城下町へ砲撃を開始した。砲弾は榴弾であるが、家々の火種を吹き飛ばして無数の火事を起こしている。家が破壊された人々は街路に溢れ、平明京は急速に阿鼻叫喚の有様を見せつつあった。
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