ベダ決戦
「皆の者、突撃せよ! 姑息なゲルマニア軍の塹壕を蹴散らせ!!」
スカーレット隊長は相変わらず重騎兵の最前線で剣を掲げ、全速力で突撃を仕掛ける。ゲルマニア軍との距離を詰めると、彼らはたちまち砲撃を開始した。数千の砲弾が重騎兵に降り注ぐ。
「砲撃か――構うな! 我らが目指すはあの塹壕のみ!!」
次々と飛来する榴弾はあちらこちらで耳をつんざく爆音を立て、巨大な爆炎を土煙を立てる。しかし彼らは全く動じない。本当に至近距離で炸裂した砲弾しか彼らにとっては致命傷とはならず、ほとんど砲弾は陣形を崩すことすら出来なかった。
「今回の砲撃が激しいな……。どうやらゲルマニア軍は本気でここを守り通したいらしい」
「しかしこの程度の攻撃、我らには効きません!」
「そうだ! ゲルマニア軍が我らを止めることなど出来ん!」
「敵の射撃です!」
「ふん。その程度!」
小銃、機関銃の射程に入った。重騎兵は遠距離砲撃ではほんの数十人の損害しか出していない。ゲルマニア軍は全ての火力を重騎兵に投射するが、それでもスカーレット隊長の突撃を食い止めることは出来ない。
「見えました! 敵兵です!」
「第三陣は塹壕を制圧! 残りはこれを突破し更に浸透せよ!」
重騎兵の先陣は塹壕に到達し、恐れ慄くゲルマニア兵の頭上を飛び越え予備塹壕線に向かって突撃する。そして重騎兵の後衛は馬を飛び降りて塹壕の中に突入し、敵兵を殲滅しにかかる。
ゲルマニア兵はお得意の機関短銃で反撃するが、それですら重騎兵(今は歩兵だが)の魔導装甲を貫くことは出来なかった。
「敵兵、塹壕から必死で逃げ出しているようです!」
「よろしい! このまま穴を広げよ! それと、クロエ様の本隊も動くよう要請を」
「はっ!」
重騎兵が防衛線に穴を開けたところにクロエの率いる主力部隊が突入し、更に損害を広げる。ゲルマニア軍の戦車運用を見てきたヴェステンラント軍は、既に重騎兵の効果的な使い方を知っているのだ。
それから2時間ほど。
「どうやら、これでゲルマニアの防衛線は完全に貫いたようです」
「そのようだな。やはりクロエ様の仰っていた通り、ゲルマニア軍の防衛線はかなり急ごしらえだったようだ」
重騎兵隊はゲルマニア軍の最終防衛線まで到達し、これを突破したのであった。
「後はベダを落とすのみか。拍子抜けだったな」
防衛線は突破した。後はベダ市内にあるであろう敵の司令部を制圧すれば終わりだ。ベダは特に要塞化もされていない小規模な街で、重騎兵にとっては敵ではない。
「それでは進もう。ザイス=インクヴァルト大将とやらも捕まえられるかもしれんしな」
彼の名はヴェステンラント軍にも有名である。ヴェステンラントを散々叩きのめしてくれた最悪の敵として。
「ええ。進みましょう!」
スカーレット隊長はベダの制圧に向かった。が、彼らを阻む者が姿を現す。
「前方より、敵の戦車です! 例の機甲旅団かと思われます!」
「ここで来るか。だが機甲旅団など恐るるに足らず! 突撃せよ!!」
機甲旅団も恐れはしない。重騎兵隊は巨大な戦車に向かって猛然と突撃を開始した。
○
重騎兵の正面に立ったのはヒルデグント大佐の第89機甲旅団であった。
「敵兵、まっすぐに突っ込んで来ます!」
「予想通りですね。火炎放射で迎え撃ってください!」
「はっ!」
今回は全ての車両が火炎放射器を搭載し、かつ長時間の放射にも耐えられるように多少の補強がなされている。完全に重騎兵と戦うことだけを目的とした改装である。
重騎兵は前回より更に輝きを増した炎に恐れをなしたのか、すぐに急停止して戦車に対する射撃を始めた。彼らの弩は強力であるが、戦車の正面装甲であれば近距離でもギリギリ耐えることが出来る。
「膠着状態、ですね。ここから敵がどう出るか……」
「彼らは我が方の陣地の内側に攻め込んでいます。長期戦は望まないかと」
「ですね。短期決戦がしたいのなら――」
「敵騎兵、回り込んで来ます!」
重騎兵の一部が離脱すると、大回りで第89機甲旅団の側面を目指して動き始めた。火炎を避けて側面を突こうと言うのである。
「やはり複雑な動きが出来るのは一部のようですね……」
ヒルデグント大佐は指揮装甲車から頭を出して敵を観察しながら呟く。弧を描きながら動くと言うのも、新兵にとっては十分に複雑な命令である。練度の低い軍隊には前進と後退くらいしか指示出来ない。
その点、機甲旅団を側面から殴ろうとしている部隊は彼らの中でも精鋭部隊なのだろう。そして逆に言えば、それ以外は大した訓練を積んでいない兵士ということだ。
「そんなのんびりしている場合じゃありませんよ、大佐殿!」
「おっと、そうでした。第18、88機甲旅団に出撃を要請して下さい」
「はっ!」
全ては重騎兵をゲルマニア軍の罠に引きずり込み殲滅するという、ザイス=インクヴァルト大将の掌の上の出来事だ。
○
「スカーレット隊長! 敵です! 機甲旅団が左右から現れました!!」
「何!? あんなものが隠れていたって言うのか!?」
主力部隊の真ん中で指揮を執るスカーレット隊長に突如としてその報告が入った。
「付近の民家は全て敵の偽装だったようです!」
「はっ、そんな大胆な仕掛けとは……。ここまで簡単に攻め込めたのは、敵がそれを望んでいたから、という訳か」
スカーレット隊長は自分が危機的な状況にあることをようやく理解した。
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