静かな反撃Ⅱ

「クロムウェル様! 友軍の拠点から救援要請が入っております!」

「救援要請? ヴェステンラント軍の襲撃を受けたのか?」

「はい。ヴェステンラント軍の魔女に武器を運び込んでいるところを尾行され、拠点の場所が割れたようです」

「そうか……」

「クロムウェル殿、援軍を送らないのですか?」


 スカーレット隊長はクロムウェル子爵に問う。救援を求めて来るということは、ゲルマニアの武器をもってしても切羽詰まった状況なのだろう。


「援軍は……送らない。通信も返さない」

「何と? 味方を見捨てるのですか?」

「援軍を送れば、それが尾行を受けて、この場所がヴェステンラント軍に露見する可能性もある。魔導通信にしても、奴らに傍受され、ここが露見する可能性がある。その危険は冒せない」


 ヴェステンラント軍の魔導通信を傍受する能力があるというのは、ほぼ確実な情報だ。


「そ、それは……確かにそうかもしれませんが」

「我々はこんなことで蜂起を失敗させることは出来ない。それに、拠点の1つや2つ、敵に見つかることくらいは想定内だ」

「クロムウェル殿がそれでいいと仰るのなら、異論はありません」

「そうか。では、この件は以上だ。我々がすることは何もない」


 かくしてクロムウェル子爵は襲撃された拠点を見捨てた。


 ○


「救援は来ないようだな」


 魔導通信に返信がないことも、マキナは知っている。だからこれ以上様子を伺っても無意味だと判断した。


「それでは、死んでもらおう」


 マキナは剣を召喚し、鉄の扉に突き刺した。火花を上げながら鉄を溶かすのである。そして剣を軽々動かし、扉を縦に真っ二つに切断した。切断された扉は部屋の内側に向かって倒れた。


「な、何で扉が!?」


 兵士達はマキナにすっかり怯えて、部屋の隅に競って逃げる。無様な兵士達に、マキナが同情などすることはなかった。


「最期に言い残すことは?」

「く、来るなっ!!」


 マキナはブリタンニア兵を一人残らず斬殺した。とは言えこれは、ヴェステンラント軍にとってはほとんど意味のない行動であった。


 ○


「クロエ様、申し訳ありません。私が見つけ出したのは、敵の本拠地とは程遠いものでした」

「そうですか……。どうやら、敵はこのカムロデュルムにからに勢力を広げているようですね」

「はい。そうであるかと思われます」


 小規模な反政府勢力の徒党ではなく、複数の拠点を保有する大規模な地下組織がカムロデュルムに根を張っている。少なくともその事実だけは分かった。


「これでは、少々警戒を強めたところで敵を根絶することは難しいようですね……」

「はい。とは言え、敵の拠点を一つずつ潰していくのは有効な戦術であるとも考えます。引き続き敵の地下拠点の捜索と殲滅をお任せ頂けますか?」

「ええ、いいですよ。これからもよろしくお願いします、マキナ」

「はっ」


 その後もマキナはブリタンニア人の地下組織の殲滅を進めた。しかしクロムウェル子爵の居場所に辿り着くことは、ついに出来なかった。


 ○


 ACU2313 9/3 王都カムロデュルム近郊


 シグルズとライラ所長がひたすらカムロデュルム市内に武器を届けている間、オステルマン師団長率いる軍団は着々とカムロデュルム総攻撃の準備を整えていた。


「オステルマン師団長、クロムウェル子爵率いる蜂起の準備は整いました。我々からの号令があれば、すぐにでも市内各所で蜂起が起こります」


 シグルズはオステルマン師団長に城内の状況を報告した。クロムウェル子爵率いる反政府勢力は今や、最低限戦えるだけの武器弾薬を保有している。


「よくやった、シグルズ。こっちも当然、総攻撃の準備を整えてるぞ」

「おお。それでは、もう今すぐにでも総攻撃を始めてもいいのでは?」

「ああ、そうだな。じゃあ明日くらいには総攻撃を始めようか」

「あ、それでいいんですか?」

「まあ何とかなるだろ」


 オステルマン師団長は総攻撃の開始をこれだけで決定した。


「戦車は水堀を渡れないから、城門に対する支援砲撃に徹してもらうことにした。ついで装甲列車も、その列車砲で支援砲撃を行ってもらう」

「そうですか……。やはり攻撃の主体になるのは歩兵にならざるを得ませんよね」


 水堀に橋を架けられないのであれば、車両は一切市内に攻め込ませることは出来ない。歩兵に泳いで堀を渡らせるしかないのである。


「ああ。例え跳ね橋が下がったとしても、車両を渡らせることは出来んな」


 装甲車ですら跳ね橋を渡ることは出来ないだろう。精々荷馬車が渡るくらいしか出来ない。戦車などもっての外だ。


「跳ね橋を下げる……ですか。それが出来れば歩兵だけとは言え、かなり攻撃しやすくなりますね」

「奴らが礼儀正しく跳ね橋を下げてくれるって言うのか?」

「いいえ。クロムウェル子爵の部隊を使いましょう。彼らに橋を下げさせればいいのです。下げるだけなら鎖を破壊すればいいだけですからね」

「確かにそれはいいな。よし、決定だ!」


 単にカムロデュルムを混乱させる以上の働きをクロムウェル子爵にはしてもらうことにしよう。成功したとしても厳しい戦いであることに変わりはないが、少しはマシになるだろう。

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