静かな反撃
「なるほど。ゲルマニア軍はこの市内に何かを送り届けたと」
「はい、クロエ様。状況を鑑みるに、そのように思われます」
「運び込むものなんて、武器以外にはないでしょう。そして武器が市民の手に渡るのは好ましくありません。よって、ゲルマニア軍のこの試みが続くようならば、すぐに阻止しなければなりませんね」
ヴェステンラント軍は今、ゲルマニア軍の目的を完全に読み切った。まあ気付かれずに武器を運び込むなどというのが、そもそも無理な話ではあったが。
「それでは、市内各所に兵士を待機させ、投下された武器をすぐさま取り押さえられるようにしましょう!」
スカーレット隊長は相変わらず実直な作戦を献ずる。だが、残念ながらそれは不可能だ。
「それには兵士の数が足りませんよ。ほとんどの兵士は城壁を守っていますから、自由に動かせる戦力はそうありません」
「も、申し訳ありません……」
「謝る必要はありませんよ。とは言え……これはなかなか厄介ですね」
絶対的な人数が少ないヴェステンラント軍にとって、この手の戦闘能力以外が必要になる任務は手に余るのだ。
「それではクロエ様、市内に潜伏しているとみられる反体制派を殲滅することを目的としましょう」
マキナは提言した。
「と言うと?」
「武器を受け取る者を殺してしまえば、ゲルマニア軍の作戦は完全に瓦解します」
「それはそうですけど、どうやるのですか?」
「一つでも敵の武器を捕捉すればよいのです。敵は当然、それを自らの拠点に運び込みます。それを尾行すれば、敵対勢力を一網打尽に出来るかと」
「あなたもなかなか腹黒いですね。しかし尾行など簡単に出来るものですか?」
「私がやります。私の魔法ならば、容易いことです。クロエ様のご裁可さえあれば、直ちに実行に移します」
マキナの瞳は心做しか熱を帯びているように見えた。どうやらなかなかやる気らしい。
「……分かりました。許可します。但し、無理はしないで下さいね」
「はっ」
かくしてマキナの作戦は始まった。
その翌日には次の爆撃機が飛来し、シグルズが身を呈して武器を届けたが、ヴェステンラント軍には捕捉されなかった。マキナはひたすら網にそれが引っ掛かるのを待ち、そして5日後、ついに歩哨が投下物資と遭遇したのであった。
「――そうか、分かった。それでは私が尾行する。決して手は出すな」
マキナは魔法で体を透明にし、武器をそそくさと家の中に運び込む兵士達の後ろを付ける。
「こんな家の中に武器を――そうか、地下か」
ブリタンニア人は地下に続く梯子の下に武器を運んでいた。マキナは兵士達の後を付け、地下に忍び込んだ。数十パッススの廊下を抜けると、すぐに開けた空間に出た。
そこには大量の銃が立て掛けられ、弾薬の入った箱が積み上げられていた。
――ここが連中の隠れ家か。
マキナは隠れ家のど真ん中で魔法を解除し、兵士達にその姿を晒した。
「私はヴェステンラント軍のマキナ・ツー・ブランである。カムロデュルムの秩序を乱さんとする貴様らを消しに来た」
「な、何だ貴様!?」
「噂に聞いたことがある! こいつ、ヴェステンラントの魔女だぞ!」
「話が早くて助かる。死にたくなければ降伏することは認めるが?」
「降伏などするものか! 貴様はここで殺す!」
「そうか。であれば、屑なみにもがくがいい」
「ほざけ!!」
ブリタンニアの兵士は壁に立て掛けてあった機関短銃を拾い上げ、マキナに向けた。そして十人ばかりで一斉に容赦なく彼女に弾丸を放った。
「機関短じゅ――」
マキナの喉を銃弾が貫いた。そればかりではなく、数百の弾丸が彼女の全身を貫き、細切れになった肉と血が床に滴り落ち、彼女のメイド服はどす黒く染まった。
「し、死んだか……?」
「…………」
血塗れの少女は剥製にでもされたかのように仁王立ちして固まっていた。だが次の瞬間、彼女の残った片目が兵士達をじろりと睨み付けた。
「こ、こいつ……!」
「やってくれるじゃないか。話し合いにも応じず撃ってくるとはな」
マキナの血や肉は彼女の体に吸い寄せられ、血まみれだった服すら、多少の汚れしか残っていない。
「ば、化け物めっ!」
「そうか。では、死んでもらおう。死ね、屑ども」
「逃げろっ! 下がれ下がれ!」
「おや? 逃げる?」
マキナが近くにいた数人を真っ二つにしている最中、兵士達は隠れ家の奥の部屋に逃げ込んだ。そして厚い鉄の扉を閉め、そこに立て籠った。
「こんな壁程度、造作もなく破れるが……。様子でも見てみるか」
マキナは壁の前で立ち往生している振りをしつつ、暫くブリタンニア人の出方を見ていた。その時、彼女の目が魔導通信の光を捉えた。
『た、助けてくれ! 魔女だ! 魔女の襲撃を受けている!! このままだと皆殺しにされちまう!』
「救援を求めている……他に拠点があるのか。いや、であれば僥倖」
どうやらここは敵の本拠地などではなく、いくつか存在するであろう隠れ家のひとつに過ぎないようだ。
しかし助けが来るのならば、それを尾行すれば更に大きな拠点を見つけることが出来る。マキナはそっと体を透明にし、適当に鉄の扉を叩いたりしながらその援軍を待った。
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